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第2話 占いの館にて

 放課後、珍しく空いていたそはらとかをるに連れられて町の繁華街に行ったのだが、女の子と心乙女ン達は女子の間で話題になっている占いの館へと直行した。

 俺たち三人は端から見れば一人の女の子とイケメンとフツメンの三人グループなのだが、実質2人の乙女と凡人の組み合わせである。

 そして凡人は怒濤の勢いの女子力には勝てないのであった。

 どうにも薄暗い屋内は雰囲気作りなのか、足元は事故防止用の蛍光テープでそれぞれの占い師用の列が出来ている。

 それなりに並んでいる女子高生の列の中に、2人だけ男子高校生がいると云うのは非常に目立つのだが、かをるは全然気にしていない。

 周りの女の子達よりも頭三つ分背が高い所為でメチャクチャ目立っているのに。

 正直腹が立つ。

 この乙女おとめンめ。

 2人がお目当ての占い師は守護霊占いとやらで、占う相手の守護霊を霊視してどの様な加護がありどんな道を選ぶと良いのかを占ってくれるそうな。

 正直胡散臭い、と云うより詐欺じゃねぇの?

 俺は幽霊とか見た事ないし、基本的に信じないからどうにも占いって奴がダメだ。

 まあ、他の人が占いで出た結果に一喜一憂して、それを自分の行動の指針にするって云う事を否定する訳じゃないし、鰯の頭も信心だし。

 むぅ。一人一人が占いの結果を詳しく聞いているので時間が掛かるなぁ。

 とは云え、一人当たり3千円払っているのだから、当然と言えば当然。元はキッチリと取らないとな。

 そはらとかをるとは学校の授業やクラブ活動について雑談しながら待つこと1時間、ようやく順番が回ってきた。

 一人一人占って貰うんだったら俺だけ抜けようかなとか思っていたら、分かってますよとばかりにそはらが「3人一緒で」と一緒に席に座ることになった。

 それほど広い部屋ではないので正直手狭だが、しょうがない。

 ちなみにグループ料金とか云うのはなかった、ひとり3千円だよ。とほほ。

 占い師の女性、机に置いてある名札には『クランシィ・田辺 愛子』とか書いてある。

 香炉からはお香の甘い匂いが漂ってきて、如何にも女の子が好きそうな雰囲気を演出している。

 薄絹に金糸で刺繍したベールを被っていて顔は見えないが、どうせイッちゃってる目つきのアレな女性だろう。

 はい、偏見です。

 多分どこにでもいる普通の顔つきの普通の女の人なんだろうけど、雰囲気って大事なんだろうなぁ、こんな商売だと。


「皆さまようこそ、クランシィと申します。私の霊視の前には例え前世でも隠し通す事は出来ませぬ。さぁ、心を開いてこの水晶珠すいしょうだまを覗き込んで下さいませ」


 ヤバいです、笑っちゃいそうです。

 俺は必死で笑いをかみ殺しているのだが、ふたりは真剣な顔で水晶珠を覗き込んでいる。

 とても吹き出して良い状況じゃない、それくらいの空気は読めるさ。

 目を見開いて真剣そうな目つきをする。

 因みにこの顔をすると周りの人間が引く。俺の経験上、禄な事のない表情だった。

 ちょっと吊り目気味で切れ長の目つきの俺は、ちょっと他の人から誤解を受けがちな顔をしているらしい。

 昔、中学の時に『お前はイジメッコだな?! 私には分かる。みんなに迷惑をかけて悪いと思わないのかな? さぁ、みんなに謝りなさい』とか移動教室で泊まった宿泊所のオーナーに捕まって、何も悪い事をした覚えがないのに土下座させられた事が・・・・・・。

 今はそんな悲しい過去を思い出す時ではないっ! 真剣真剣。

 そう云えばこの前公園の長椅子に座っていたら女性の集団がやって来て、座るところが欲しかったのかこれ見よがしに俺の目の前に立って後ろ手で『シッシッ』と追い払われた事も。

 せめて人間扱いをして欲しぃ。

 だから、そんなネガティブでどうする、なんかこの占い師の席って暗い方暗い方へと思考が誘導されているような気がするんですけど。


「ケェエエエエエッ!!!」


 うわっ、ビクったぁああ!?

 何か、水晶珠を覗き込んでいたクランシィさんが突然立ち上がったかと思うと大きく口を開いて絶叫した。

 捲れ上がったベールの下は、そりゃあもうヤバい感じで血走った眼球が俺たちを睨みつけていた。


「こっこっこれわぁああああっ! あな怖ろしや。異界の空よりの加護を持つ選ばれし勇者達よ。汝らはこれより艱難辛苦を乗り越え、世界を滅ぼす敵と戦いの旅に出るだろう。大魔王との戦いの日々がまっているのだぁぁああ」


 な、なんだって!? と云う事はもしかして。


「この俺も勇者の仲間になるのか?」


 俺は思わずそう呟いてしまった。

 するとクランシィさんはさっきまでの血気逸った顔を一変させ、鼻で笑った。


「ハッ、アナタはただの一般人ですよ。守護霊様も普通に曾お祖父さんですし」


 ですよね、分かってました。

 分かってんだよぉおお。ぐっすん。


「それに比べてお二人の相性はバッチリですね。あり得ない位に理想のカップルですよ? 美男美女、素晴らしいです」

「いえ、私たちは姉弟きょうだいですので、相性バッチリとか言われても困るんですけど」

「うん、ボクもお姉ちゃんが相手って困るもん。家じゃ鬼みたいに」

「かをるっ!」

「うう、お姉ちゃんが怖いぃぃ」


 そはらのドスの効いた声にかをるは巨体を震わせて俺の背中に隠れようとする。

 無茶すんな、と言うより俺を巻き込むな。


「って云うか本当に守護霊とやらを霊視して占いをしてるんですか? しっかりふたりの見た目で判断しているみたいだし」


 話を変えるために俺は占い師をツツいて見る事にした。

 少しばかり過激な物の言い方だけれど、八つ当たりじゃないよ?


「失敬なっ! わたくしクランシィ田辺愛子は守護聖霊様守護天使様から授かった曇り無き水晶眼にて各人各々を守護する守護霊様を認識し、その姿無き姿をお伝えする事によってより強い絆をお結びする手伝いをしているのです」

「じゃあ占ってください」

「汝・益荒男。守護霊・ひょっとこ。汝・手弱女。守護霊・おかめ。旧き旧き神々の姿にこそ本質はある。そしてアナタはさっき言った通り極々普通で何の変哲もないただの一般人、凡人です」


 さっきの絶叫の後に言っていた内容からすると随分とガッカリな事を言われた2人は目に見えて落ち込む。

 何しろ『ひょっとこ』と『おかめ』である。

 民俗的な意味で滑稽の代名詞であるそれと告げられたそはらとかをるは落胆を隠せないようだ。

 俺は一般人と言われてちょっとガッカリしたが、何の問題もない。普通? サイコーじゃん。


「確かに、俺に関しては間違っていない様です。俺は凡人ですから」

「そうで御座いましょうとも。水晶眼はすべてを見通すのです」

「ちなみに俺の今日の朝食は?」

「……別料金になりますが? 対象物限定ですと一万五千円です」

「なら良いです」


 この人ふっかけ過ぎだと思います。


「あのぅ」


 俺が占い師さんをからかっていたら、かをるが怖ず怖ずと質問だろうか、声を掛けてきた。


「ボクと、ううん。ボクの恋愛運はどうなっていますかぁ?」

「あ、はい。汝の恋愛運は」

「かをる。別料金らしいぞ」


 かをるにはあっさりと答え出したクランシィさんにちょっとムカッパラが立ったので、いらない事とは云え突っ込みを入れてみる。


「あ、でも。ボクはこれが知りたくてクランシィさんに会いに来たんだし。どうしても聞きたいんだもん」

「そうなんだ」


 まぁ乙メンだしな、そこら辺は仕方がないか。

 溜息をひとついて返事をする。

 かをるは気を取り直すとクランシィさんにニッコリと笑いかけて、再度聞き直す。


「うん。あ、お幾らですか?」

「いえ、これはサービスです。ご安心下さい」

「あ、ずりぃ」


 思わず突っ込みを入れてみると、思わぬほど鋭い口調でクランシィさんは俺に畳み掛けるように非難してくる。


「さっきから何なんですアナタ、まさかアナタ程度の下らないどこにでもいるようなどうしようもなくつまらないただの凡人が、この人みたいに気高く格調高く荘厳で煌びやかで神々しく素晴らしい人と同じ扱いを受けられるとでも思っていたのですか? まったく腹立たしい。傲慢にも程がありますよ? 恥を知りなさい」


 余りにもあんまりな内容だったが、俺たちの背後に並ぶ女子高生達も一斉にうんうんと頷いている。

 どうやら世間一般の世論はクランシィさんスタンダートらしい。

 いや、まいったね。あはははは。


「そんなヒドいですよ。ボクの雄大クンは下らなくなんて無い。凄く優しくて良い人なんだからぁ」


 そう云ってかをるは逞しい腕で俺を掻き抱いたかと思うとかいぐりかいぐりし始めた。

 やめろ、気持ちは嬉しい?が、割れた顎を頭の天辺にグリグリと擦り付けるな、痛いぞ。

 背後からおおうと驚きの声が上がったかと思うとカシャカシャと写メを撮る音が聞こえてくる。

 違うよ、俺にはそんな趣味は無いんだよ。

 俺は極めてノーマルなんだ。

 お願いだからツイッターに流すのは止めて下さい。

 それから何だか騒ぎになった占いの館から何とか脱出すると俺たちは近くのファミレスに入って一息吐くことにした。

 あぁ、シンドい。


「ごめんねぇ雄大クン。こんな事になるなんて思わなくて」

「あぁ、良い良い。いつもの事だし」

「うん。でもちょっとショックだなぁ。何でボクがひょっとこなんだろう」

「それを云うなら私だっておかめよ。こんなにセルフコントロールして理想的な筋肉と脂肪を保っているのに」


 そう云ってそはらは二の腕を摘んで見せた。

 そこには適度な脂肪とその下の厚みのある筋肉の太さが見て取れる。

 女の子の柔らかさはとてもとても良いものだが、だがひとつ云わせて貰いたい。

 適度な筋肉の上に載った脂肪こそが至高の感触を持ち得るのだと。

 骨の上に筋肉がほとんど無く、どこまでも柔らかいのが女らしくて良いと云う向きもあるが、だがその場合は体温が低くて意外と感触がよろしくないのだ。

 女の子は、暖かくて柔らかくて気持ちの良いものなのだ、冷たいのはNGなのだ。

 俺的には芯まで柔らかいだけの身体はどうにもブヨブヨしているだけと言う感が否めない。

 だから、そはらの様な身体こそが俺の理想であると断言できる。

 アレ? もしかして誘導されている?

 いやいや、彼女が俺に合わせていてくれてるんですよ? 多分。

 そういう訳だから、ふたりが余計なダメージを受けているのは少しばかりイヤなんだ。

 だから、着け刃だけれど、何とか今まで見てきたマンガの知識を活用してふたりを慰めてみようと思う。


「えへん。あー、俺の知っている限りではさ。ひょっとことおかめって云うのは単にひょうきんなキャラクターじゃないみたいなんだよ」

「え、そうなの?」


 お、かをるがノって来てくれた。

 うん、こういう素直なところが昔からこいつの良いところだと思う。


「ヒントはひょっとことおかめが夫婦と云うところ。最終的には日本神話にまで遡るんだけどさ、ひょっとことおかめって普通夫婦で通っているよね」

「あ~、そう言えば」

「そうね。確かに」


 これは伝奇マンガに載ってた説だから一般的じゃないトンでもな説ではあるんだが。


「それでおかめって云うのはおかめ神社って云う神社があるんだけど、そこで祀られているのが『アメノウズメ』って云う女神様なんだよね」

「へぇ。あれ? 確か日本書紀や古事記に出てくる有名な女神様だよね。天の岩戸伝説の」

「そうそう、それでもうひとつ有名なのが天孫降臨の時に猿田彦って云う天狗の元になった神様が地上にいて案内に来たって話なんだけど、それがきっかけでふたりは結婚するんだけど、となるとおかめであるアメノウズメの結婚相手が猿田彦でしょ? だからひょっとこの正体は猿田彦なんじゃないかって」

「うーん、だったらおかめの結婚相手は天狗じゃないと変じゃないの? なんでひょっとこなのか、根拠が弱いと思うけど」


 うむうむ、普通に考えりゃ、そりゃそうだって感じだな。

 となると、もう少し良い所に結びつけなくちゃいけないな。

 だったら、こうするか。


「えーと、ひょっとこって火の男って云う意味だって云う説があるんだ、ほら、ふーふー薪に息を吹きかけているみたいな顔してるし。で天孫降臨の時に高天原たかまがはらから芦原中国あしはらのなかつくにまで猿田彦が照らし出したって話があるんだよね。光を出すのは当時じゃ火か太陽って事になるよね。ホラ、猿田彦って言えば道案内を司る神様だから、みんなの未来を照らし出すリーダーになれるって意味じゃないかな。それと芦原中国がアマテラス大御神の支配下になるまで地上を照らしていた太陽神は、実は元は太陽の神だった猿田彦だったんじゃないかって説も。太陽神って云ったらメジャーな所じゃアポロンとかいるし、そう言う意味じゃかをるがひょっとこって云うのも凄い良い意味な感じじゃん」

 なんとか分かり易く良い意味まで持って行けたぜ。

 ふぅ、満足満足。


「へー、そんな事、教科書に載ってないけど」


 と思ったらそはらが普通に突っ込んできた。

 まあ、教科書には書いてないけど、そんなに教条的なのはどうかと、聖書にないから異端だって云う暗黒期のキリスト教徒みたいだし。

 それに色々と主張したい事もあるから、ここは言って置くべきでしょう。

 そはらがこう言うのが嫌いってのも知っているけど。

 敢えて虎の尾を踏みます。


「って云うか日本史の授業じゃ文字伝来前に口伝で伝わってきた日本神話自体政治的に捏造された紛い物だって言って無視されてるし。縄文時代から古墳時代までは考古学で説明して飛鳥時代から日本書紀とか文書からの説明に変わってて根拠がないから本当の事じゃない本当の事じゃないから教科書には載せないってさぁ。それに、神話は宗教だから教育には宗教は必要ない、排除しなければって云う使命感に駆られた教育専門家が丸っと無視してるって感じじゃん。それを云ったら世界史で出てきたキリスト教や仏教も無視すれば良いのにあっちは歴史に必要だからって普通に教えるしさ、何か作為的なものを感じるよな」

「はいはい、アメリカや中華人民共和国の陰謀を感じるわけね。でもさぁ大体、第二次世界大戦で軍人が日本の神話を悪用して、世界中の人達に日本人が悪いことばっかりしてたって先生が言ってたでしょ? それにテレビでも軍人が悪い事をしたって番組が毎年終戦の日に流れるし。そんな悪い宗教なんか消しちゃって良いじゃん。第一私達の生活には何の関係もないし」

「いや、それは・・・・・・」


 この手の話にそはらがノって来ないのは今までの経験上良く知っているから、言うだけ無駄なのは知ってるんだけど。

 なんだかなぁ、凄くもやもやします。

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