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冴えない告白の仕方

 世界は多分、悲しみに満ちている。

 明空翠あけぞらすいは、トイレの鏡に映る自分の顔を見ながら思った。

 泣いたばかりの目は、自分でも驚くほど真っ赤に充血している。先ほど、屋上でなぜか好きな男の子にフラれたのだ。

「……理不尽だ」

「フラれたのかい、翠?」

 呟いた言葉に返事が返ってきた。声のした方を見やると、女子トイレの入口に少年が立っていた。

 彼は涼しげな顔をしながら女子トイレの中に歩いてくる。

「君を拒絶するような男がいるなんて驚きだよ。ぜひとも僕と付き合ってくれないかな?」

 翠は顔をしかめた。

「女子トイレに平然と入ってきながら、男女の関係を迫る男となんか付き合いたくない」

「おお、これは失敬」

 彼は前髪を軽く払って天井を仰ぎ、滑るような足捌きで前を向いたまま女子トイレの入口まで戻った。

 ムーンウォークだった。

 おもむろに学ランのボタンを全部外すと、両肩だけ学ランを脱いで、また素早く着た。そして前髪を払って、決めポーズだと言わんばかりに人差し指を翠に向けた。

「君が欲しい!」

「嫌だ」

 翠は即答する。マイケルジャクソンも、郷ひろみも、別に好きではなかった。

「そんな、にべもない!」

「将来売れないミュージシャンになる君と付き合う理由がない」

「僕の将来を知っているのかい?」

 少年が興味深そうに聞いてきた。

 翠は内心でため息をついた。でも誰かに聞いてもらいたいような気がした。

「私は予言者なんだ」

 へえ、と少年の瞳が楽しげに細まった。

「寝ると正夢を見るんだ。一週間くらい前、君の夢を見た。ルックスがよくてムーンウォークが上手くて、郷ひろみばりのジャケットプレイはできるけど、歌が壊滅的に下手な君は音楽業界に入ることもできないで、ストリートミュージシャンとして生きる、そんな夢を見た」

 それは、知っている人の未来を見ることのできる能力。

「素敵な将来だ」

 少年が嬉しそうに笑った。でもふと、彼の顔に疑問の表情が生まれる。

「なら、君は今日フラれることが分かっていて、告白したのかい?」

 翠は首を振る。

「私の力は、私の未来を見ることができないから」

「それはまた、素敵だ」

「どうして?」

 翠は、こんな欠陥能力を素敵だという少年の言葉の意味が分からなかった。自分の未来が見れず、他人の未来ばかり見るこんな能力なんて、意味がない。鏡だって自分は見れるのに。

「誰かの未来にある不幸から、誰かを救うことができるじゃないか。素晴らしい力だよ」

 少年は、翼のように両手を広げてそう言った。

 翠は首を振る。それは違う、間違ってる。だって私はさっき失敗した。

「さっき、好きな人にこう言ったんだ。君は将来、浪費癖の激しい妻のせいでブラックリストに載ってカード破産する。だから私と付き合ってって。私は君がいれば何もいらないって。なのにフラれた」

 少年は、そこで初めて、翠に向けて残念そうな顔を向けた。

「そんな告白をする女の子は、僕もちょっとキツいかもしれない」

 ちょっと、泣きたくなった。

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