光の世界(1)
直後、ヒナタの足元が大きく揺れた。地鳴りが響き、塔に亀裂が入り始めた。濃厚な闇がヒナタたちを飲み込もうとし、大きく広がった。それは、タギの足掻きであった。
「無駄だよ。ヌーンたちに勝てても、俺には勝てない。あの機械が止まれば、俺の力は遺憾なく発揮される。俺は、世界最初の生き物リークとしての力を発揮する事が出来る」
ヒナタの世界を闇が満たしたのは一瞬のこと。リークから放たれた光は闇を切り裂き、塔に光が灯った。世界の変革を伝えるかのうように光が灯り、都は一瞬静寂に包まれた。神々しい光だった。今、世界に生きる者の殆どは太陽を見たことが無い。これが太陽なのかと思うほどだ。
人々は空を見上げていた。暗闇の世界には静寂と、希望が満たされていた。塔の頂上から光が溢れ、太陽のように輝く。リークの光の下で、黒軍も奴隷も、戦った者が多く死んでいた。遠くにいるのに、ヒナタに都の様子がはっきりと見えるのは、きっとリークが一緒にいるからだ。黒軍と交戦するアサヒが立ち尽くしていた。彼女も只ならぬ様子を感じ取っているのだ。
「さよなら、タギ」
リークの優しい声が響いた直後、闇の塊が砕け、そこには座り込む人間の姿があった。
――まもなくこの世界は暗闇から解放される。
塔に亀裂が走った。地鳴りが響き、タギの権力の象徴である塔は砕け、タギが支配の鍵にしていた電力は奪われた。リークは亀裂の走る床を歩き、倒れたヌーンに歩み寄り、ヌーンを優しく揺すった。
「もうすぐ崩れる。立てるか?」
ヌーンは身をよじって立ち上がろうとしていた。巨大な建物が崩れるときの鈍く響く軋轢音。音が少しずつ大きくなっていた。まもなく、この塔は崩れる。残る者は皆死ぬだろう。タギも、リークも、そしてヒナタたちも。一刻も早く逃げなければならない。
「リーク、先に行って。私はここに残るから」
ヌーンが囁くように言った。
「大丈夫、ヌーンも連れて行くよ」
リークは言ったが、ヌーンは首を横に振った。
「二人を連れて逃げて。もう、時間が無いわ。大丈夫、私は死なない。」
言ってヌーンは首を地に下ろした。彼女が全てを諦めているのは、ヒナタがヌーンの片割れを殺したから。地鳴りが強く響き、ヒナタとリークの間に大きな亀裂が走った。走って飛び越えるには大きな距離。ヒナタの足元が大きく傾き、ヒナタは死を覚悟した。ここから地上までは長い距離がある。落下している間に、何度人生を振り返ることが出来るだろうか。ヒナタの足元が無くなり、ゆっくりとヒナタは落下を始めた。エイジがヒナタに駆け寄り、守るようにヒナタを抱きしめてくれた。一人じゃない。その事実が嬉しい。
「一人じゃないから、大丈夫だよ、ヒナタ」
まもなく死ぬのに、ヒナタには少しの不安も無く、エイジの言葉が嬉しい。狩人としてボルトと二人、豊国で生きていたころ、ヒナタは他人が嫌いだった。身を切るような冷たい空気とどこまでも広がる闇の中で一人。生きるも死ぬも己の力量によるもの。アサヒを憎み、ボルトの憎まれ口を聞きながら、途中で会う村人に怒りを募らせながらヒナタは生きていた。それは、とても孤独な日々。




