ボルト(1)
ヒナタは先へ進んだ。ここに残って黒軍と戦うアサヒの無事を祈り、博士を連れて逃げるアキラの無事を祈り、ライト博士の下に残ったエイジの無事を祈り、祈りながらヒナタは先へ進んだ。
不思議なことに、誰にも出会うことなくヒナタは先へ進んでいた。先ほどまでの奴隷たちの息遣いも遠のいていく。聞こえるのは、遠くで黒軍たちが騒いでいる音。警戒音。ここにヒナタがいることを、タギは知らないかのようだ。もしくは、タギがヒナタを導いている。タギの秘密を知り、鍵を握るリークとボルトをヒナタが連れているのを知って、招いているのかもしれない。リークを殺し、ボルトを破壊するチャンスだから。
――泣くなよ、泣き虫ヒナタ。面倒かけんじゃねえぞ。
ボルトの精一杯の悪態も、ヒナタにとっては優しい言葉に聞こえた。
「泣いたりしないよ。それよりも、ちゃんとナビゲートしてよ。ポンコツ機械と言われないようにね」
――偉くなったもんだな。ヒナタ。
ふと、ボルトの口調が変わった。
――ここ……
ボルトが何かを感知したのは明らかだった。
「どうしたの、ボルト?」
ボルトが黙るのは珍しいことだ。人が大勢いるとき、ボルトは機械らしく黙っていることが多い。けれども、ヒナタと二人になった時は口を開く。まるで、闇の中にヒナタが捕らわれないように、ヒナタに道を示すように、ボルトは話してくれるのだ。それが悪態であっても、ヒナタにとってはボルトの優しさなのだ。
――いや、なんでもない。
ボルトが珍しく答えを言わなかった。ボルトと一緒に旅した七年間。ボルトがヒナタの性格を知っているように、ヒナタもボルトの性格を知っていた。ここでヒナタを不安にさせるようなことを言わないがボルトだ。
「何があったの?ボルト、隠さないで」
ヒナタはボルトに詰め寄った。
――何でもねえ。先へ進め、ヒナタ。立ち止まっている暇はねえぞ。
ボルトは頑なに口を閉ざした。
「何があったのか、教えて。私は、七年前の私じゃない。何も知らずにアサヒを追い出してしまった時とは違う。そりゃあね、私はアサヒにように強くないよ。アサヒのように人々に希望を与えたり、アサヒのように強い意志で生き抜くことなんて出来ない。でも、私は私。自分の意志で、ここに来た。自分の意志で足を進めているの」
辺りは闇に覆われている。小さな機械のボルトが何を感じたのか、ヒナタには分からない。けれども、それがタギに勝つための鍵となるのならば、逃げることは出来ない。恐ろしい情報だとしても、先へ進まなくてはならない。




