狩人アキラ(3)
ヒナタの頭を撫でてくれた大きな手。多くのことを語りかけてくれた優しい声。アキラが帰ってこなかった七年前、ヒナタは暗闇の世界で一人取り残された気分だった。今、アキラがそこにいる。
「それで、アキラはそこから脱出できるのね?」
アサヒがアキラに再確認した。もう、アキラたちが潜伏する必要はない。
(ああ、出口を探してみる。捨てられるゴミがあるんだ。入り口もあるはずだ)
直後、アキラの声にノイズが混じった。
――感知された。タギの機械の方がランクが上らしい。居所が知られた。すぐに来るぞ。
焦ったようにボルトが言った。
「アキラ、聞こえた?」
アサヒが尋ね、アキラは「ああ」と答えた。
「ヒナタ、そしてキエ。ここにも黒軍が来る」
キエは明らかに動揺していた。彼らに戦う術は無い。一刻の猶予もなく、ここは戦場になる。
「ここで死ぬのか……」
キエが諦めたように言い、アサヒが残された右手でキエの頬を叩いた。
「諦めたら終わりよ。私もタギに捕らえられた時は同じことを思った。けれども、諦めなかった。私は枷を付けられた左手を斬りおとした。アキラたちは足枷だったから、私が手を斬りおとした。諦めたら全てが終わる。これまでの苦労も、全て無駄になるの!」
ヒナタはアサヒの失われた左手を見た。アサヒがどれほどの気持ちで豊国まで戻ってきたのか。ヒナタにはそこまで出来ない。
「ヒナタ、あなたを本物の狩人と思って言うわ。私はここに残る。ここで黒軍と戦う。リークとボルトを連れて、先に進んで。――私が残れば志気も上がる。長い奴隷生活に疲弊し、半ば諦めている。私は、諦めたくない。――ヒナタ、正直に答えて。一人で大丈夫?」
そこで、ノーと答えることが出来る人がいるだろうか。アサヒはここの救世主のような存在だ。リークを連れてタギの所へ行く。黒軍の大半は、奴隷との戦争に向かうはずだ。大丈夫、ヒナタは自分に言い聞かせた。
「もちろん、大丈夫だよ。アサヒ。私にはボルトがいるもん。豊国の凍えるような闇の中に比べたら、こんな場所、大したことないから。私は、必ずタギのところへたどり着く」
ヒナタはリークを背負った。リークの重さがヒナタの肩に圧し掛かった。リークの今にも消えそうな命の灯火を消さないように、空に再び光が満たされることを夢みてヒナタは立ち上がった。
――それで、どこへ行く?
ボルトが尋ね、キエが答えた。
「黒軍が入ってくる道がある。そこなら、上へ抜け出せるはずだ」
アサヒが真っ先に刀を抜いた。
「ヒナタ。黒軍が入ってくる前に、抜け出しなさい。ボルト、お願いね」
アサヒは奴隷の間を駆け抜け、道へ繋がる扉を開いた。ここは抜け道でなく、奴隷たちを支配するタギの下へ繋がる道。だから、鍵など掛かっていない。緊張するヒナタをアサヒがそっと抱きしめた。
「ヒナタ、もう、あなたは一流の狩人よ。だから大丈夫」
アサヒの温もりと匂いがヒナタを落ちつかせた。大丈夫、自分たちは強くなれる。ここから先へ進むことが出来る。ヒナタはそれが分かって、安心したのだ。
先へ。
迷うことなく先へ。
光を取り戻すために。




