都の奴隷(4)
――おいおい、なんとかしろよ。
ボルトが間の抜けた声で言ったが、ボルトが警戒していることは明らかだった。ボルトは危険な状況ほどふざけたことを口にする。ヒナタはどうしようも無くて、アサヒの服を掴んだ。ヒナタが不安を覚えていることに気づいたのか、アサヒは柔らかく微笑み、そして凛とした声で告げた。
「ここは地獄か天国か。一筋の光も差し込まぬ地の底で、それでも我らは生きている。生きていれば、未来は開く」
アサヒの言葉の意味が、ヒナタには分からなかった。ただ、アサヒの言葉に奴隷たちが息を呑んだことは事実だった。
「どうして、外部の者が希望の言葉を……」
奴隷の一人が口にして、そして身を振るわせ、失われたアサヒの左手を取った。
「アサヒ」
奴隷の口からアサヒの名が零れた。
「アサヒ」
「アサヒが戻ってきた」
今でもアサヒの前に膝を折りそうな奴隷たちを、アサヒが急かした。
「私は戻ってきた。光を探して、私は戻ってきた。私は逃げも隠れもしない」
ヒナタは確信した。どういうわけか、奴隷たちにとってアサヒが光なのだ。
奴隷たちは静かに穴の中へ戻って行った。それでも、アサヒに一目会おうとする者は多い。戸惑うヒナタにアサヒは微笑んだ。労働で疲れているはずの奴隷たちは、爛々とした目でヒナタたちを見つめていた。その中から一人、奴隷の代表という者がアサヒの前に膝を折った。
「ここをまとめておるキエという者じゃ。あなたの事は皆存じております。ここから逃げ出した唯一の存在。そして、その血で残した言葉は、我らの希望の言葉となった。あなたは死んだと黒軍は言うが、我らは信じていた。あなたは生きていると。我らにあなたと同じことをする勇気は無い。しかし、我らは希望を捨てなかった」
アサヒは俯き、失った左手をさすった。
「こんな博打みたいな逃げ方、上手くいくなんて誰も信じないから。キエ、私は戻ってきた。ここにいるリークに全ての希望を託して、この地獄に戻ってきた。キエ、力を貸してちょうだい――アキラを、私と一緒に捕らえられたアキラを探しているの」
すると、キエは深々と頭を下げた。
「タギが恐れる豊国の男。姿なら見えるが、会うことは容易くない」
言って、キエはヒナタとアサヒを導いた。すぐ近くにアキラがいる。それだけでヒナタの胸は高鳴った。アキラは最強の狩人だ。暗闇の中で獲物を狩る強い精神力と体力とそして技術を持つ狩人。凍える豊国の闇の中で、多くの獲物を狩り、獲物から村を守り続けた。




