闇の都(6)
男はあの峠でヒナタたちと出会った。そして、この都に戻った後に、ヒナタたちが侵入していることを察知し、手助けをしようとしてくれているのだ。その行為がとても危険な事。タギが命を狙っているヒナタたちを庇えば、処刑されてしまう。第一、人を殺す事さえ厭わないのがタギだ。タギの恐ろしさはキョウとカオルが教えてくれた。どうにもならない閉塞間の中で、タギに反旗を翻そうともくろむ人たちもいるのだ。この世界を変えようとしているのは、ヒナタたちだけでない。
「黒軍のバイクを二台用意しておきました。後、着替えを。あなた達が奴隷の下へ行くと察知し、表道の警戒は薄くなっています。表から突っ切ってください。あと、都の地図です。七年前から、変わったところもあります。一番変わったのが、罪人を捕らえる牢がタギの城の地下へと移されています。罪人を処刑せず、重労働を課している。そういうことです。これを着てください。市民にまぎれて進むからには、それなりの姿を……」
タギは言うと、風呂敷から衣服を取り出した。それは新しい衣類だ。極寒の豊国では、狩人や王族など立場を保障されている者も新しい衣類を身につけることはない。豊国にあるのは、使い古された継ぎはぎの衣類。破れれば繕う。染みや汚れは気にしない。洗濯もあまりしない。旅の途中、温泉に入ったり、沐浴をしたりすることはあったが、服を洗うことはなかった。極寒の豊国と違い、この場では汗をかく。確かにヒナタたちは汚い。よく、ライト博士が平然と家に入れてくれたと思えるくらいだ。
「ありがとう」
アサヒは男に深く頭を下げ、囁くように言った。私たちに手を貸して、あなたの家族は大丈夫なのか、と。タギの支配は強い。男が黒軍であるから、彼の家族は生きていける。彼が罪人となれば、彼の家族も殺されてしまう。
「妻と子供には、相談をしてきました。峠で光を見つけたことを。妻は言ってくれました。光に賭けると。俺たちには未来がありません。盗賊の下へ逃げる事も考えました。彼らは、俺たちを受け入れてくれるでしょう。でも、俺は光に賭けたいんです」
男はヒナタとアサヒの手を取った。キョウは、子供のために峠に残り、男は子供のためにヒナタたちに手を貸す。ヒナタはその理由を考え、一つの答えにたどり着いた。きっと、都の生活は盗賊の生活よりも辛いのだ。だから、わずかな可能性に賭けたくなる。
「早く行って下さい。これ以上、俺が一緒にいても足手まといになるだけです。だから、早く行って下さい。そして、一刻も早く光を。タギの手が妻を捕らえる前に、早く光を」
哀しく笑った男の言葉は叫びだった。抑圧された環境と疲弊した生活の中で光を切望する叫びだった。
「早く行こう、ヒナタ」
アサヒは汚れた衣服を躊躇いなく脱ぎ捨てると、男の用意した衣類を身にまとった。ヒナタが七年ぶりに見たアサヒの身体は傷が多く、傷跡も新しい傷も多かった。アサヒが七年間生きた証は、ヒナタが知らないアサヒの人生。ヒナタは何も言えず、リークを下ろして服を着替えた。新しいズボン。新しいシャツ。新しい上着。新しい靴。この暗闇の世界で、どうすればこれほどの生産ラインを確保できるのか。豊国では不可能だ。衣類に締め付けられて殺されるように感じたのは、きっとヒナタが弱虫だから。




