ライト博士(4)
十キロほど離れたところで、ライト博士はトラックを止めた。そこは、何もない荒野の中だ。何をするつもりなのか、ヒナタが運転席を覗き込むと、彼は位置認識システムやナビゲーションをむちゃくちゃに設定し始めた。一つ残したのは、都までの道のりだけだ。それも、都に戻るとナビゲーション自体が破壊されるように設定している。
「帰れなくなったら、悪いからね。そして、闇の世界の生き物から身を守るためのバリアもつけておいてあげよう。視覚が戻ったら家に帰って、それで終わり――さて、ヒナタちゃん、俺たちも帰ろうか」
ライト博士は再び一人で話し終えると、バギーに乗り込んできた。
「運転も代わるよ」
ライト博士は存在しない道を覚えて、ライト博士は長年一人の生活を守り続けていたのだ。黒軍に捕らえられることもなく、闇の世界の生き物に喰われる事もない。
「知らなかった。ライト博士は架空の存在で、実在しないと思っていたから。だから、アサヒから話を聞いたときも信じていなかったの」
バギーは軽快に走り、ヒナタは隣にいるライト博士の気配を感じていた。伝説のような存在。豊国の地熱発電に関しても、ライト博士の技術が活かされている。ライト博士は苦笑した。
「ライトって言うのは、名代のようなものでね。代々受け継がれていくんだ。俺が先代からこの名を受け継いだのは、七年前の話。十八の俺は、史上最年少でライトの名を継いだんだ。代々、ライト博士はあの家に住んで、次のライトを選ぶ。俺は十八人の義兄弟が居て、末の弟。俺は五歳のころにライトを継ぐと決められたんだ。俺がライトを継ぐと決まって、姉と兄は各地の発電所へ散っていった。それが、代々のライトの決まり。豊国にもいるよ。ライトになっていたかもしれない、俺の兄がね。ヒナタちゃん、聞いていない?――電力もあるし、彼を動かしてあげたら?」
ライト博士は目配せでボルトを指し示した。ライト博士はボルトの存在を知っているのだ。
「ボルトのことを知っているの?」
ヒナタは尋ねた。ボルトは類稀な機械だ。思考を持ち、感情を持ち、自らの考えで判断を下す事が出来る。
「七年前にね。アキラと一緒だった。俺のこと、覚えているかな?」
ヒナタはボルトを指で弾き起こした。ふてくされた声をあげたボルトであったが、ライト博士のことを覚えていなかった。ボルトは、七年前のアキラとの旅のことを全て忘れているのだ。機械が忘れているという表現は可笑しいかもしれない。データが消去されているのだ。その事をライト博士に話すと「変だな」と彼は苦笑した。バギーのバッテリーから電気を分けられ、目覚めたボルトは開口一番に憎まれ口を叩いた。
――第一、そんな子供がライト博士なんて、可笑しいだろ。俺は知らねえな。
ボルトはライト博士に対しても憎まれ口を叩き続けた。ライト博士が大人だから怒らないのだ。
「ボルト、君の憎まれ口は変わらないねえ。ボルトは七年前も俺に対して、口やかましい子供だって文句を言っていたよ。都からの帰り路で、アサヒが連れていたときは、ボルトは壊れてしまったかもしれないって思っていたから、君の憎まれ口を聞いていると安心するよ」
ライト博士は軽快にバギーを走らせながら、懐かしそうにボルトと話していた。




