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dark.dark  作者: 相原ミヤ
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暗闇の世界の生き物(3)

 乾いた音が響いた。銃を撃った反動でバイクが揺れ、ヒナタは腰でバランスを取りながら、サンズグモの気配を探った。

――危険感知。サンズグモ距離三百メートル。時速五十キロにて接近中。

ボルトが危険を感知し、ヒナタは再びスコープを覗き込んだ。ヒナタの背中にじっとりとした汗が流れた。寒いのに流れる汗は、ヒナタの気持ちを正直に表していた。長銃のスコープ越しに見えるのは、こちらへ向かって走ってくるサンズグモの姿。八本の足、強大な口は容易くヒナタの命を喰らうだろう。ヒナタは手早く長銃に弾を込めて、スコープを覗き込んだ。サンズグモの甲殻は長銃でも打ち抜くことが出来ない。そんな嫌な考えをヒナタは否定した。自ら危険に突き進んだ愚かさを嘆く暇もない。狩人の一族の一人として、アキラを父に持つ者として、ヒナタは闇に殺される人を見殺しにすることは出来ない。二度目の弾はサンズグモの前足の付け根に命中した。命中し、サンズグモの動向を見ることもなく、ヒナタは三度目の弾を長銃に込めた。

――サンズグモ、距離五十。

ボルトの警告はヒナタの耳にもハッキリと聞こえた。ヒナタをサンズグモから逃がすため、ボルトがバイクのエンジンを回し始めた。三発目でサンズグモが倒れなければ、すぐに逃げなければヒナタが闇の中でサンズグモに殺されることは明白だ。闇の中、バイクのヘッドライトにサンズグモの姿が照らされ、ヒナタは三度目の弾を放った。

 乾いた音が三度目に響き、ボルトがバイクを走らせ始めた。サンズグモが倒れることがないことは、結果を見なくても明白な事実であった。

――退避開始。

ボルトがバイクの向きを変え、バイクを急発進させた直後、サンズグモの足の一つがヒナタの右横に刺さった。一瞬の差でヒナタはサンズグモの爪から逃れることが出来たが、二度目のサンズグモに爪はヒナタの左横に刺さった。ヒナタは長銃をそのまま背に背負うと、ハンドルを握った。ボルトは右へ左へとハンドルを切り、バイクは激しく揺れた。不整地走行によりバイクは幾度と無く宙に浮き、地面に着地する衝撃でヒナタの身体は弾き飛ばされそうになった。ヒナタが後ろを振り返れば、サンズグモの爪と顔が迫っていた。前を向けば、車も走っている。

「ボルト、車からは離れて」

ヒナタは自らが囮となってでも、車を逃がしたかった。アサヒと同じにならないために。

――了解した。

ボルトは再度ハンドルを大きく切った。

――警告。バッテリー残量残り五パーセント。一分にて活動停止。

ヒナタは小さく舌打ちをした。この状況、ボルトがいなければ助からない。

「ボルト、ハンドルをこっちへ。ナビゲーションだけをして」

ヒナタはボルトに言い、ハンドルを強く握った。

――運転操作中止。

ヒナタはハンドルに重みを感じた。ボルトとヒナタが運転を交代したことにより、一度大きくバイクは揺れたが、ヒナタはすぐにバランスを修正した。

 死を前にしてヒナタは太陽を夢みた。世界を照らしていたという明かり。それを知る者は誰もいない。叶うならば、太陽を一度でも拝んで死にたい。ヒナタはそう思った。

「左へ行け!」

知らない男の声が闇の中で響いた。誰の声なのか、声に導かれてどうなるのか、ヒナタは何も分からなかった。それでも、声に従うしかヒナタに選択肢は残されておらず、ヒナタはハンドルを大きく左へ切った。砂埃を大きく巻き上げながら、ヒナタは急ハンドルでサンズグモの左側へ回り込んだ。バイクのヘッドライトは微かな光でサンズグモの不気味な身体を照らし出し、僅かに見えるからこそサンズグモの不気味さと恐ろしさは強調されていた。ヒナタは左へ回り込み、そのままサンズグモの後ろへと回った。サンズグモもヒナタを追いかけようと急な動きで方向を変え、砂地に足を取られ八本の巨大で鋭い足が砂を噛み、サンズグモの身体が僅かに傾いた。さらにサンズグモのバランスを崩すように、二つの足に鎖が絡みついた。二つの足が絡め取られ、サンズグモはさらに大きくバランスを崩した。闇の中の微かな電気の下でヒナタが見たのは、鎖を操りサンズグモを引き倒そうとしている男の姿だった。それは素人の動きでなく、ヒナタのように闇の中を行動するために戦う術を身に付けた者の動きであった。車の人物は素人でない。ならば、なぜこのような危険な土地を動いていたのか、ヒナタには皆目見当が付かなかった。鎖でサンズグモの足を絡め取った男であったが、サンズグモが身をよじると軽く宙に浮いた。人間が対峙するには、サンズグモはあまりに巨大なのだ。男は優れた狩人かもしれない。宙に投げ出されながらも男はサンズグモの背の上に乗り、刀をサンズグモの節に突き立てる、動きを見ての判断だ。その動きに一部の無駄は無い。ヒナタは長銃をサンズグモに向けた。


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