闇に潜む敵(9)
光は小鳥を象り、ヒナタたちと獣の間に割って入った。そして、小さく羽ばたきながら獣の鼻先を舞った。
「ヒナタ、あれは只の獣じゃないだろ」
エイジが言った。もちろん、ヒナタも同感だった。あれは獣でない。きっと、ヒナタたちが容易く近づくことが出来ない存在。
「たぶんね」
ヒナタはバイクから降りた。長銃を獣に向けて構えたまま、崩すことが出来なかった。人間も元を辿れば獣だ。ヒナタの獣の部分の感覚が甲高く警告を立てているのだ。どんな武器を構えても、決して埋めることが出来ない才覚の差。
――止めとけ、ヒナタ。勝てやしねえぞ。
ボルトがヒナタに警告した。そう、勝てるはずが無い。そんなこと、ヒナタも分かっていた。ただ、まっすぐにヒナタを見る獣の目が、ヒナタの足を動かすのだ。金色の小鳥は、獣の鼻先をしばらく待った後、砕けて消えた。
(リーク)
ヒナタはその名を獣が口にしたのかと思った。女の声が確かにリークの名を呼び、獣はゆっくりと身を翻して去った。何が生じたのか、ヒナタに理解できるはずも無い。分かるのは、今この場を生き延びる事が出来たという事だ。
ヒナタとエイジは荷物をバイクに移し、バイクのバッテリーを残された車のバッテリーで充電し、必要な荷物と不要な荷物を選別した。この先、生じるであろう事を考えると、ヒナタは不安で押しつぶされそうであった。暗闇の世界、乏しい物資、分からぬ道のり。全てがヒナタたちを拒絶していた。
「心配しても何にもならないぞ」
エイジが片手でヒナタの背を叩いた。不思議なことに、その手が温かく感じた。
「分かっているって。分かっているけど……」
分かっていても、拭いきれないのは恐怖と不安。暗闇の世界で生きることに長けているヒナタでも感じる恐怖と不安。豊国の闇とこの地の闇は違う。同じ闇でも濃さが違う。ねっとりと絡みつくような気味悪さが違う。身を切るような冷たさの豊国の空気が懐かしい。
「俺がいる。一緒にいるから」
エイジが放つ、たったそれだけの言葉が温かく感じた。




