闇に潜む敵(8)
闇の中に潜む恐怖。奪われた希望と光。戻らなくてはならないことは明らかだった。電気を失えば、この世界で生きていくことは出来ない。
「戻ろう」
覚悟を決めたわけでない。しかし、エイジに遅れを取りたくなかった。
「ボルト、ナビゲーションシステム起動」
エイジはベルトにぶら下げたボルトに命じた。
――知らねえからな。
ボルトは文句を言った。
バイクを逆方向に走らせるのは容易いが、不安がヒナタたちを襲っていた。ここは豊国でないと実感させられるのは、生きている獣が違うからだ。気温が違うだけで環境が異なる。極寒の豊国が平和に感じるのは、豊国の寒さと闇に慣れているからだろう。戻ると、そこには砕けた車が残されていた。ガンムシは食い荒らされていたが、肉は残されていた。もう一つ、残されていたのは先より小さな獣だった。それは、裕福な人間が飼う犬と似ていた。違うのは犬よりも大きいということだ。立った耳に巻いていない尾。大きさは人を乗せることが出来るほど。獣はガンムシの前に立ち、じっとヒナたちを見ていた。暗闇の世界に適応して生き延びた生き物は、目を使わないから、目の前にいる獣は、闇に適応していないということ。なのに、暗闇の世界で生き延びている。ヒナタはバイクを止めて、本能的に長銃を構えた。
――何だ、あれは。ありえないだろ。
ボルトが言った。闇の世界に適応することなく、野生で生き延びることは出来ない。茶色の獣は、じっとヒナタたちを見据えていた。まるで、ヒナタたちよりも高いところに立っているようだった。リークや金色の鳥と近しいように思えるのは、どこか神々さを持っているから。
間合いを詰めることも、バイクを進めることも出来なかったのは、畏れによるもの。近づいてはならない。関わってはならない。高みを望んではならない。
突然ヒナタの服の中が輝いた。空に舞い上がる金色の光。
「おい、それは……」
エイジが戸惑っていた。その光は、海を渡る際に金色の鳥が残した羽。羽が放つ光はリークの光と似ていた。暗い世界に光を与える希望。夢。光は象徴だった。




