闇に潜む敵(7)
ヒナタは荷台に飛び乗った。幸いなことに、ひしゃげた荷台の中でバイクは無事だった。深い躊躇いの中、ヒナタはバイクに跨り、エンジンをかけた。ハンドルを強く切り、エンジンを吹かして荷台から飛び降りると、バイクのヘッドライトが辺りに僅かな明かりを与えていた。タイヤが空転し、砂を巻き上げた。エイジが短銃を引き続け、獣との距離を保ち続け、ヒナタはバイクを走らせながら長銃を構えた。片手でハンドルを握り、片手で長銃をバイクのハンドルに乗せる。ボルトと長銃を接続する余裕も無い。エイジは刻一刻と追い詰められ、獣はエイジを喰らおうとしている。引き金を引いたのは、獣の命を奪うためでなくエイジとカシの命を救うため。
破裂音が響き、獣の前足に命中した。長銃の破壊力はすさまじい。獣の前足から血が噴出し、獣は後ろへのけぞった。ヒナタは鋭くエンジンを吹かし、エイジたちの下へバイクを走らせた。急ブレーキで方向を変えて、エイジに手を差し、エイジはバイクの後ろへ飛び乗った。
暗闇の中、ヒナタたちはバイクを走らせた。最速で数キロ逃げるまで、獣は血を流しながらヒナタたちを執拗に追っていた。逃げている最中は心臓が高鳴り、激しく揺れるバイクのハンドルをヒナタは握り締め、ヒナタの腰にエイジの片腕が回されていた。エイジはカシが振り落とされないように、カシの体をヒナタに押し付けていた。獣の姿が遠のき、姿が見えなくなっても、ヒナタはなかなか速度を緩めることが出来なかった。哺乳類とであったのは初めてで、恐怖が闇の中から手を伸ばしヒナタを喰らおうとしていた。
「ヒナタ、もう大丈夫だろう」
エイジの声がカシの体を伝わり、ヒナタの体に響いた。心臓は未だに高鳴っている。
「大丈夫だ、ヒナタ」
エイジが再び言い、ようやくヒナタはブレーキをかけることが出来た。ヒナタ以上に恐怖を覚えているはずのカシは、ぐずぐずと泣いていた。
「ほーら、カシ。ここには最強の狩人がいるから大丈夫。泣くな、ほら。泣くなよ」
エイジがバイクから降り、カシを抱き下ろした。
「ほら。泣くな」
エイジはカシをなだめ、カシの頭を撫でていた。まるでエイジはカシの兄のようであった。身を呈してカシを守り、最優先にカシの安全を考える。アサヒと同じ。ヒナタには出来ない。泣くカシに困り果てたのか、エイジは不自由な片腕で軽々とカシを抱き上げた。
「ヒナタ、バッテリーを取りに戻ろう」
エイジは闇の向こうを見て言った。
――はあ?
誰よりも素っ頓狂な声を出したのはボルトだった。
――ふざけるなよ。せっかく生き延びたんだぞ。
ヒナタの気持ちをボルトは正直に代弁してくれた。あの闇の獣がいる。もちろん、すぐそこの闇に獣が潜んでいるかもしれない。それは、闇の世界になれたヒナタたちであっても、恐怖に引き込むほどの闇の中だ。
「ボルト、黙っていろ。戻らなきゃ、ライト博士のところまで辿りつけない。このまま、闇の中で死にたくないだろ」
エイジの声は強かった。




