闇に潜む敵(4)
ヒナタは車をガンムシへ向けて進めた。体長三メートル。ガンムシの肉は白身で淡白な味わいだ。嫌いじゃない。ヒナタは車をガンムシの横につけた。ガンムシも硬い甲殻で身体を覆われているが、甲殻の間に節がある。ヒナタは節にナイフを突き立てた。エイジもカシを車内に残し、車から降りてきた。
「俺も狩人みたいに、狩りをしながら一人でバイクに乗って、豊国らを放浪していたけれども、ガンムシを一発で仕留めるようなことは出来なかったな」
そしてエイジは器用に片手でガンムシの節にナイフを突き立てた。ヒナタはエイジの横顔を見た。鋭いようで優しい目。ヒナタはエイジの横顔を胸に刻んだ。
「エイジって変わっているよね。豊国の重臣のようで、自由なようで……」
エイジが隠していることに踏み込むつもりは無かったが、ヒナタは呟いた。
「家業がね、複雑なんだよ。アキラに憧れて、家出を繰り返した結果が今かな。それでも、俺は狩人になれない。ヒナタやアサヒを見ていると、それを痛感するよ」
エイジと一緒に、大きなガンムシの甲殻をはがしながら、ヒナタは暗闇を肌で感じた。都が闇を生み出しているように、都に行くほど闇が深まる。無音の空間。辺りにあるのは闇だけ。闇がヒナタを手招いていた。闇の中へ、闇の中へ。
――ヒナタ、何か来るぞ。
突然ボルトが低く言った。「何か」という表現がヒナタの中で引っかかった。今まで、一度たりともボルトが何か分からないことは無かった。相棒を組んで七年間、一度もだ。
「何が?」
ヒナタは尋ねた。ボルトが感知できない「何か」が来る。それだけで恐怖が募った。
――時速九十キロ。何だ、あれは……。
ボルトが混乱していた。感知できずにいる。
「カシ、来い!」
エイジが片腕で刀を抜き、カシを呼び寄せ、車から慌てて降りてきたカシを抱きしめた。
――体長八メートル。距離百メートル。
ボルトが言った。暗闇が深くて視覚での確認は難しいうえ、車のヘッドライトはこちらを向いている。ヒナタは暗視スコープをつけ、長銃を構えた。隣に目を向けると、エイジも暗視スコープをつけていた。ここは豊国と環境が異なる。身を切るほどの凍てつく寒さの豊国と異なり、この地域は暖かい。環境が異なるということは、生き物も異なるということだ。ヒナタの背中にジワリと汗が浮かんだ。嫌な感じだ。暗視スコープの緑がかった視界の端に、何かが横切った。




