闇に潜む敵(2)
――二時の方向三百メートル先にガンムシ感知。
運転するヒナタのベルトに付けられたボルトが言った。キョウたちと別れてから、闇の世界の生き物が近づくと、ヒナタたちはアクセルを強く踏んで逃げてばかりだった。狩りは命がけなであるうえ、慣れない土地での狩りは狩人にとって不利となる。狩人は土地の起伏、風の流れ、全てを計算して獲物を一発で仕留める。もし、一発で仕留めることが出来なければ、獲物からの逆襲も考えられる。狩人として独り立ちしてからヒナタは一度たりとも狩りを容易いものだと考えたことはない。狩りとは命と命の攻防だ。しかし、ヒナタはガンムシと聞いても、逃げるための運転をしなかった。ガンムシは、硬い甲殻を持ったムシである。危険が迫ると、身体を丸めるため、ガンムシと呼ばれる。ちなみに、似たような生き物でダンゴムシと呼ばれる生き物もいる。ガンムシとダンゴムシは大きさが違う。ガンムシは狩人が獲物にする生き物である。
食糧不足は深刻だ。盗賊たちの下を出立するとき、食料よりも水を優先して載せた。それはエイジの判断であり、ヒナタも同意した。人は水が無ければ生きていけない。頼れる村や町、そして人がいないことを想定しての判断であった。ヒナタは狩人。ガンムシはクロムカデやサンズグモに比べて狩りやすい。攻撃をすることが少なく、失敗しても丸くなるくらいである。ガンムシと遭遇したのは、好機かもしれない。ヒナタはそう思った。
「ねえ、エイジ」
ヒナタは助手席に座るエイジに声をかけた。辺りは見渡す限りの暗闇と土と砂の世界。まるで、世界は車の中だけのようである。車のバッテリーも消費が激しい。いずれ動かなくなる。ヒナタはガンムシを狩るつもりであった。
「ああ。ガンムシを狩るしかない。大丈夫か?」
エイジが三角巾に吊られた腕をさすりながら言った。エイジの助けはあまり期待できない。
「大丈夫って。私は狩人だよ。ガンムシなら問題ない。待っていて」
ヒナタは車を停めて、長銃を組み立てた。狭い車内を長銃が横切り、カシが身体を縮めてエイジの膝の上に丸くなった。
「ボルト、よろしく」
ヒナタはボルトからコードを引き出し、長銃に繋げた。ボルトの誘導があれば、獲物を取り逃がすことは無い。長銃を狭い車内で動かし、ヒナタは車から降りた。




