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dark.dark  作者: 相原ミヤ
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暗闇の世界の生き物(2)

 サンズグモとは大きなもので体長十メートルを超える巨大なクモだ。肉食で生態系の頂点に立つ。クロムカデを喰らい、人間をも喰らう。出くわすと必ず三途の川を渡るとされるから、サンズグモと名づけられた。だから、サンズグモの住みかの近くには、狩人でさえ近づかない。その場所を横切ろうとするなど、無謀以外の何でもない。ヒナタは狩人になって七年。一度も出くわしたことがない大物だ。アキラでなければ、仕留めることは出来ない。

「ボルト、ナビをお願い」

ヒナタはアクセルを吹かしながら片手でバイクに内蔵されたコードを引き出し、それをボルトに繋げた。

――シンクロ率十パーセント、十五パーセント、シンクロ完了まで予想三十秒。

「ボルト、シンクロが終わったら、画像をバイクに出して」

ヒナタはボルトに命じた。

 ボルトは小型のコンピューターだ。知能を持ち、同じようなコンピューターは二つとない。周囲の探索、ナビゲーション、そして他の機械とのシンクロが可能だ。ヒナタはボルトと長銃をシンクロさせて獲物を狙う。そして、ボルトとバイクをシンクロさせて闇の中を最速で走ることが出来る。

――シンクロ終了。感知画像リアルタイムにて転送。

ヒナタはバイクのハンドルの間にある蓋を開いた。蓋の下には画面があり、闇の世界を線で描き出していた。ボルトが感知した大地の凹凸や障害物を線で描きだす。それは、周囲の正確な動画となり、ヒナタの目となった。日ごろからこの機能を使用しないのは、電気の消費が激しいからだ。ボルトも電気で動いているが、闇の中を行動している以上、簡単に充電をすることは出来ない。闇の世界では電気が命綱となり、電気を失うことは死を意味する。だから滅多なことが無い限り使用しない。

「ありがと、ボルト。周囲の探索を継続して、サンズグモが近づいてきたらすぐに教えて」

ヒナタは思い切りバイクを吹かした。

 暗闇の中をボルトから送られる情報だけを頼りにヒナタはバイクを最速で走らせた。石にタイヤが取られ、バイクが激しく揺れる中、ヒナタは腰を半分浮かせて膝でバランスを取った。前を見ずに、画面だけを頼りに進むのは暗闇の世界独自の運転だろう。

――車まで距離千メートル。

ボルトの声が響いた。急斜面をバイクで登りきると、ヒナタの目にも車の灯りが見えた。何のためにここを移動しているのか、暗闇の危険を知っているのか、ヒナタは車の乗員の気が知れなかった。

「見えた」

ヒナタは思い切り斜面を下った。ヒナタのバイクにもライトはつけられている。おそらく、車の乗員たちにも見えているだろう。乗員たちはヒナタの存在を知ってどのように感じるだろうか。何よりも危険を伝えなくてはならない。このあたりはサンズグモの住みかだ。

――ヒナタ、十時の方向千三百メートル先にサンズグモを感知。体長八メートル。四輪に向かって時速三十キロで進行中。

ボルトが警戒の色が強い声色で言った。

「ボルト、運転と銃との接続を同時に出来るね?」

ヒナタはボルトが否と言わないことを知っていた。試したことは無いが、ボルトの機能を信頼していた。ボルトはヒナタの相棒だから。

――オーバーワークだ。この分は返してもらうからな。ヒナタ、運転を俺が行う。ハンドルから手を離せ。重心移動は注意しろ。そこまでは俺の能力外だ。

「了解」

ボルトが言うから、ヒナタはハンドルから手を離した。アクセルもハンドル操作も自動で動いていた。ボルトが運転をしているのだ。ヒナタはボルトがハンドルを切るたびに重心を動かし、バイクが転ぶのを防いだ。空いた両手で背負っていた長銃を取り、手早く組み立てた。護身用の短銃であればすぐに取り出せるが、硬い甲殻で覆われたサンズグモの身体を短銃で打ち抜けるはずがない。長銃を組み立てると、ヒナタは長銃からバイク同様にコードを引き出し、ボルトに繋いだ。ハンドルに立てかけ、長銃を安定させた。

――サンズグモ補足。位置情報把握。距離五百。

ボルトは運転をしながら正確にサンズグモの場所をヒナタに知らせ、ヒナタはスコープを覗き込んだ。時速百キロ近い速さで動くバイクの上で、ヒナタはスコープを覗き込んだ。噂でしか聞いたこと無いサンズグモを初めて見ると、ヒナタは背中に悪寒が走った。バイクもサンズグモも動いている。まだ、サンズグモとヒナタの間は千メートルほどあり、補足するのは難しい。サンズグモは確実の車へ近づいており、八本の足を大きく振り上げていた。

――位置固定不能。

バイクのゆれが激しく、ヒナタは正確にサンズグモを捕捉することが出来ずにいた。ボルトはコンピューターだから、事実しか移さない。予測不能なサンズグモの動きとバイクの揺れを計算してヒナタに伝えようとしたようだが、それは世界一のコンピューターでも不可能だろう。

「任せて、ボルト」

ヒナタはボルトに言った。不可能なことをボルトに依頼したりしない。ヒナタはボルトと異なる力がある。人間だから勘を働かせることが出来る。車との距離は三百メートルほど。サンズグモとの距離は四百メートル程度だろう。ボルトはバイクを走らせ続け、ヒナタと車、そしてサンズグモの距離はみるみる近づいている。

「左……もうちょっと右……。ボルト、しばらくまっすぐ進んで」

ヒナタは言い、スコープからサンズグモを覗き込んだ。サンズグモと車の距離は五十メートル程度。ヒナタは走るサンズグモの動きを予測し、引き金を引いた。


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