闇と盗賊(9)
エイジは三角巾で腕を吊り、左手で出来る限りのことをしていた。切れた傷口は糸で縫われているが、盗賊たちの物資では十分な治療は難しい。盗賊たちにも薬は必要だ。エイジは盗賊たちを気遣ってか、薬を使うことをしなかった。カシは盗賊の子供たちと遊んでいたが、ヒナタたちが出立の準備を始めると、すぐに手伝いに戻ってきた。役に立つ、一人前だ、と示すように動いているのだ。エイジは神妙な顔でキョウと話していたが、しばらくするとヒナタに歩み寄ってきた。
「カシを置いて行くか?」
カシに聞こえないように、エイジがヒナタに囁いた。
「え?」
カシは仲間だ。なぜ、エイジがそのようなことを言うのか、ヒナタには意味が分からなかった。
「今、リークとアサヒがいない。リークがいないということは、闇の世界の生き物が襲ってくるということ。それに、アサヒが居ないということは、俺たちはボルトのナビゲーションだけを頼りに進むことになる。今まではアサヒが危険な場所や避けるべきところを教えてくれた。これからは、道しか分からない。今までのように、安全に進むことは出来ない。ここの人たちは信頼できる人たちだ。キョウもカオルも責任を持って仲間をまとめている。彼らと一緒ならば、カシは安全だろう。さっき、キョウと話したが、盗賊たちはカシを受け入れてくれる。全てが終わって、迎えに来ればいい」
エイジの言うことは最もだが、受け入れるには難しい。カシを置いていく。考えると、アサヒの姿が脳裏をよぎった。カシを抱きしめ、包み込むようなアサヒの姿を思うと、ここにカシを残していくことは出来ない、カシをアサヒの下へ連れて行かなくてはならない、と思うのだ。アサヒが迷うことなくリークを追ったのは、ヒナタとエイジを信頼してのことだろう。
「エイジ、私はカシを残していけない。確かに、盗賊たちは信頼できる人たちだよ。でも、アサヒに何も言わずに、残していけない。カシをアサヒの下へ連れて行く。そうしなきゃ、私はアサヒと笑顔で再会できないから」
「分かっているのか?」
エイジの目は強い。エイジの言うことは最もだ。子供のカシは荷物だ。自分一人が生き抜くのが精一杯の状況で、子供を守ることは難しい。しかし、ヒナタは引き下がれない。
「エイジ、アサヒは七年間、一人でカシを育ててきた。片手を失って、自分一人が生きるのでさえ精一杯の状況で、カシを育ててきたんだよ。荷物なんかじゃない。それにね、考えてみて。この暗闇の世界でも、親は子供を育てていく。私たちにとって、カシは大切な仲間。欠かせない存在。私が守るから。アサヒの代わりに、私が守るから、ね」
アキラは他人のアサヒをわが子のように育てていた。そしてアサヒは他人のカシをわが子のように育てていた。人の心はここまで温かい。エイジは一つ息を吐いた。
「好きにすればいい」
エイジは諦めたように言った。
――ヒナタ、カシのこと必ず守れよ。
ボルトがヒナタをけしかけた。言われなくとも、ヒナタは守るつもりであった。




