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dark.dark  作者: 相原ミヤ
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暗闇の世界の生き物(1)

 狩人の村まではバイクで半日の道のりだから今からでは、狩人の村に帰りつくことができない。本来ならば、村で宿を乞うべきだろう。宿を乞わずに村から出たのは無謀な行動でなく、ヒナタの意地だった。


(ヒナちゃん)

ヒナタを呼ぶ声がした。それはバイクを走らせながら感じる幻聴。バイクが風を切るゴウゴウとした音と、ヒナタを呼ぶ女性の声。

(ヒナちゃん、必ず戻ってくるから待っていてね)

それは、ヒナタの父アキラを見殺しにした女の声。何度も、何度も夢に見て、何度も何度も思い出した光景。それは、アキラが最期の狩りに出立するときの光景。ヒナタがこうやってバイクを走らせていると、時折、亡霊のように闇に浮かび上がるのだ。その時、ヒナタは十歳の子供だったため、アキラは狩りに連れて行くことを許さなかった。十歳を超えるまで待つように、それがアキラの口癖だった。

(ほら、ヒナタ。いつまでアサヒの服を掴んでいるんだ)

アキラはヒナタを叱責した。ヒナタはアサヒに懐いていた。当時、アサヒは十七歳。狩人としての腕は一流で、アキラの相棒として狩りに出ていた。基本的に、狩りは二人一組で行う。危険な闇の世界で一人に何かあったとき、その死を確認して帰るため。決して、生きたまま闇の世界へ置き去りにしないように。そして、闇の世界に一人で長時間いると気が狂う恐れがあるからだ。七年前の出立の日、珍しくアサヒが神妙な顔をしていたのだ。ヒナタはいつもと違う空気に不安を覚え、アサヒの服を離すことが出来ずにいた。アサヒは一流の狩人だ。銃の腕もさることながら、近距離まで接近した獲物を刀で切り落とす腕は他に類を見ない。アサヒは強いと知りつつも、いつもと状況の違うアサヒの言動が、彼女が遠くに行ってしまうのではないかと、ヒナタを不安にさせるのだ。ヒナタは父アキラのことが好きだった。そして、アサヒを本当の姉のように慕っていた。

(だって、お父さん。私だってもうすぐ十歳になるんだよ。狩人になるんだからね)

アキラの大きな手がヒナタの頭を撫でた。ヒナタはアキラとアサヒに置き去りにされるような不安を覚えていた。二人が狩りに行くたび、二人が戻ってこないのでないかと不安を覚えるのは、ヒナタも闇の世界を恐れている証拠だ。

(分かっている、ヒナタ。分かった。だったら、狩りから戻ったらボルトをヒナタにあげるよ。前から欲しがっていたから、狩りにデビューするかわいい娘にプレゼントだ)

ヒナタは嬉しくてアキラに抱きついた。

(良かったね、ヒナちゃん)

アサヒの何かを覚悟したかのような瞳がヒナタの胸に焼き付いた。

(じゃあ、行こうか。アサヒ。ヒナタ、行ってくるからな)

(ヒナちゃん、またね)

ヒナタは手を振って二人を見送った。それが、アキラとの最後の会話になるとも知らずにだ。アサヒはアキラと一緒でなく、一人で戻ってきたのだ。


 風を切る音。頬を刺すような寒さ。ボルトは二度と戻らなかったアキラの形見だ。ヒナタは一人で狩りに出る。それは、特例中の特例だ。ボルトが一緒だから、闇に気が狂う恐れはなく、ヒナタは二人一組という相棒を信じていなかった。アサヒは父のように慕っていたアキラを見捨てて一人で戻ってきた。アキラは信じていたはずの相棒に見捨てられた。

――ヒナタ、何を考えている。

ボルトがヒナタに尋ねた。

「何も」

ヒナタはボルトに答えた。ボルトが一緒だから、ヒナタは闇の世界でも生きていける。目の前に広がるのは漆黒の闇。何も見えず、希望もない。それでも、ヒナタたちは生きている。これからも、この暗闇の中で生き続ける。

――ヒナタ、三百メートル南に車機械感知。

突然、ボルトが言った。

――熱感知センサー始動。二名の人間を感知。

「嘘でしょ?」

ヒナタはボルトの言葉に声を荒げた。闇の世界でも柵から外に出て出歩く者はいる。例えば、地方の村々に医薬品や指令を届ける者だ。彼らはキャラバンを組み、物を売り歩く。それでも定められた道から逸れることは滅多にない。たった二人、狩人の村とも離れた場所で何をしているというのだろうか。ヒナタは思い切りブレーキをかけた。

――ヒナタ、何をする気だ!

珍しくボルトが声を荒げた。

「見に行くの。ボルト、周囲の詮索を開始して。こんなところで二人で何をしているって言うの?狩人なら四輪には乗らない。一般人よ」

ヒナタはハンドルを切ってバイクの向きを変えた。

「この辺りはサンズグモの住みかでしょ」

ヒナタは思い切りアクセルを吹かした。


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