三つ巴の戦い(5)
二人の行動に触発され、再び武器を取る黒軍の兵士が現れた。ヒナタたちをどのように捉えたのか、盗賊は黒軍からヒナタたちを守り始めた。誰も指示しておらず、それは彼らの意志だ。しかし、多勢に無勢は変わらない。ヒナタはアサヒを追いかけたかったが、その余裕は無い。このままでは、黒軍に車も未来も奪われてしまう。ヒナタは銃を構えた。一刻も早くアサヒを追いかけなくてはならない。アサヒを見失ってしまうから。
――追跡装置始動。アサヒを追う。
ボルトが判断し、アサヒの行方を追っている。ヒナタはボルトを信頼した。遠くに行かなければ、ボルトがアサヒを追ってくれる。大丈夫。大丈夫。
――車に戻れ!
突如、ボルトが警告した。
警告と同時に、車が動き始めた。ヒナタは車から降りていた。そして、エイジも降りている。荷台にはカシが隠れたままだ。動き去る車を見送るしか出来ない。エイジも、車を追いかけて走り出していた。未だに黒軍と盗賊が戦いを続けている。ヒナタも車を追いかけて駆け出した。カシを見捨てることは出来ない。
「乗れ!」
盗賊の先頭に立っていた男であった。彼はバイクを走らせたまま、ヒナタに手を差し出した。
――おいおいおいおい……
ボルトが何かを言っていたが、ヒナタは無視し、盗賊の手を取った。
バイクの後ろに乗り、盗賊の頭領の腰に手を回し、ヒナタは車を追った。振り返れば、もう一台のバイクが車を追い、ヒナタのようにエイジも盗賊のバイクの後ろに乗っていた。
バイクは砂と岩だらけの山を右へ左へと激しく方向を変えながら車を追いかけた。ヒナタは車を止めるために、長銃を構えたが弾を撃つことは出来なかった。車はヒナタたちの足だ。ここで失うわけにはいかない。
「任せろ」
盗賊が言い、バイクのスピードを上げた。それは、狩人のヒナタに並ぶとも劣らないハンドル操作であり、ヒナタは盗賊の運転を信頼することにした。
「まっすぐ走って」
ヒナタは盗賊に言うと、バイクのシートに足を乗せた。そのまま、盗賊の肩をつかんでバランスを取ると、後部シートの上に立ち上がった。
「助手席側に寄せて!」
ヒナタは盗賊に言い、盗賊はスピードを上げて車と平行に走った。
――おいおいおいおい!
ボルトが何かを言っていたが、ヒナタは無視した。
アサヒはカシを守るために必死だった。そのカシを残してリークを追ったのは、ヒナタたちを信頼しているから。ヒナタはアサヒの信頼に応えなくてはならない。激しく揺れるバイクと車。盗賊の運転は確かで、揺れは少ない。
(大丈夫、出来る)
ヒナタは己に言い聞かせ、助手席の扉にしがみついた。
――おいおいおいおい!
ボルトが何かを叫んでいた。分かっている。とても無茶な行動で、命知らずなことをしていると。分かっていても、ヒナタに躊躇いは無かった。
助手席の扉にしがみつくと、ヒナタは扉を開いた。助手席に乗り込んだ。運転しているのは、黒軍の兵士だ。
「うわっ!」
兵士は戸惑い奇声を上げた。ヒナタは短銃を兵士の頭につきつけた。
「車を止めて」
ヒナタが言うと、兵士は車を止め、ヒナタは兵士を運転席から突き落とし、兵士は暗闇の中へ逃げ出した。見事なハンドル操作でヒナタを乗せてくれた盗賊と、エイジ、そしてエイジを乗せた盗賊が車にバイクを寄せて止めた。
「無茶をするなあ……」
ヒナタを乗せた盗賊が感心したように言った。彼が顔を覆っていた布を取ると、三十代前半ぐらいの若い男であった。もう一人、エイジを乗せていたのは若い女であった。
「カシ!」
エイジが呼ぶと、荷台からカシが飛び出し、泣きながらエイジに飛びついた。
「オイラ、オイラおとなしくしていたよぉ!」
嗚咽交じりのカシの頭を、エイジがぐしゃぐしゃにしながら撫でた。ヒナタが目を向けると、エイジの腕からは血が流れていた。
「キョウ、戻るわよ」
エイジを乗せていた女の盗賊が言い、彼女はエンジンを吹かした。
「分かっているさ」
キョウと呼ばれた盗賊もエンジンを吹かせた。そして、二人は暗闇の中に戻っていった。
彼らは一緒に来いとは言わなかった。今でも黒軍と盗賊たちが戦っている。彼らは仲間を助けるために戻ったのだ。仲間が戦っているのに、他人であるヒナタたちに力を貸してくれた。それは、感謝という言葉だけでは足りなかった。




