三つ巴の戦い(4)
ヒナタは短銃の銃口を迫る黒軍の兵士に向け、トリガーを引いた。ヒナタは何百メートルも離れた場所から獲物を撃ちぬく狩人だ。こんな短距離で外すわけが無い。
黒軍の兵士は倒れた。暗い世界で黒い服を着た者が倒れた。次に迫った黒軍の兵士をアサヒが斬り伏せ、黒軍に挑む盗賊も次々と倒れていった。響くのは銃声、怒号、金属がぶつかる音、断末魔……。死ぬ必要の無い人が死んでいった。これが正しいのか、ヒナタは己に問うた。これで正しいのか。これで、光は戻るのか。
「もう、止めてくれ……」
荷台から声がした。ヒナタが振り返ると、荷台にリークが立っていた。毛布を被り、身体を隠しているが、僅かに見える顔色は悪い。
「誰も死ぬ必要なんてないんだ……。悪いのは只一人。他の人が死ぬ必要はないんだ」
リークが言っていた。病んだリークにはどのような光景に見えたのだろうか。リークを狙う黒軍。リークを守るヒナタたち。巻き込まれ、結果的にヒナタたちを守っている盗賊。誰もリークの言葉に耳を貸そうとしない。リークの願いは虚しく掻き消えた。
「もう、止めてくれ!」
リークから眩い光が零れた。それは、サンズグモからヒナタを救った時とは異なる。弱いけれど、怒りに満ちた光であった。閃光は辺りを包み、ヒナタは思わず目を閉じた。光は希望だ。光に触発されて、幾人かが立ち尽くし、武器を下ろした。
「もう、止めてくれないか?光を取り戻したいのは、同じ。同じ夢を見ているのに、どうして敵対しなくちゃいけないんだ……」
リークは言い、膝から崩れ落ちた。咳き込むリークの口から赤い血が零れた。黒軍の兵士たちが武器を捨て、逃げ始めた。盗賊たちは戦意を喪失したように立ち尽くしていた。リークの光がそこにある。光は希望。この闇の世界で生きる者は皆、同じ気持ちのはずだ。見たことの無い太陽。望んだことのない希望。未来。
「お前たち、足止めをしていろ!」
一人が叫び、バイクのエンジンを吹かした。突如、急発進させ、瞬く間に崩れ落ちたリークを奪い取った。リークは抵抗をしてもがいていたが、その手足に力は無い。変色し、腐りかけたようなリークの皮膚から赤い血が流れた。目を背けたくなるのは、ヒナタが弱いからだ。
突然の事に身動き一つ取れないヒナタと対照的に、ヒナタの近くにいたアサヒはすぐに動き始めた。アサヒの姿が消えたかと思うと、アサヒは自身のバイクに跨り、荷台から飛び出してきたのだ。
「約束の場所で!」
リークを連れて逃げる黒軍の兵士。そして、それを追うアサヒ。アサヒは約束の場所で、と言い残すと、躊躇うことなくリークを追い始めた。リークは光で、希望だから。




