三つ巴の戦い(3)
荷台からはアサヒが飛び出し、刀を抜いた。ヒナタも長銃を背負い、短銃を抜いた。人を撃つ覚悟があるのか。その問いの答えは見つからないが、リークを守らなくてはならないという決意がヒナタを突き動かしていた。暗闇の中、ヒナタが見たのは、闇の世界で生き抜こうと必死になっている人々だ。無造作でばらばらのようで、計り知れない団結力がある。この闇の世界で、生きるために戦っている人々だ。本質はヒナタたちと変わらない。
――十一時の方向。距離五十。邂逅まで十秒。
最悪の状況が生じていた。この状況で黒軍が襲ってきたら、修羅場となるだろう。結末は、死体の山が暗闇にそびえる地獄絵図。
――来るぞ。
ボルトが言った。何が来るのか、問い返す暇も無い。来るのは、盗賊と黒軍。盗賊の一人が刀を抜いた。盗賊たちが狙う荷台にはリークとカシがいる。
無意識のうちに、ヒナタは心の中でリークに助けを求めた。同時に、カシを救った金色の鳥に救いを求めた。誰でも良いから助けて欲しかった。リークに救いを求めることは間違っている。リークは病み、身動き一つ取れない。それでも、絶望の闇の中、光を灯すのはリークなのだ。
黒軍のバイクのヘッドライトが眩く辺りを照らした。それは三つ巴の戦いが火蓋を切った合図であった。
黒軍を間近で見たのは、ヒナタも初めてであった。黒い服を着て、黒い布で顔を隠し、黒いバイクに乗る。闇に溶け込み、闇の中で生きる者たち。盗賊たちも一瞬ひるんだ。
「何で黒軍がいるんだ!」
盗賊の一人が苛立ちを露にした。盗賊の頭領と思われる男の声は若い。
「行け!」
号令と共に黒軍が駆け出した。黒軍の敵は盗賊であり、ヒナタたちであった。
「ここは俺たちの住処だ!」
盗賊たちは逃げるでもなく黒軍に挑んでいった。
「狙いはリークだ。ひるむな!」
黒軍は明らかにリークを狙っていた。やはり、リークの存在はタギに悟られていたのだ。何が何なのか分からなくなった。黒軍たちは銃を抜き、盗賊が倒れる。暗闇の中放たれたその銃弾は黒軍自身を撃ち抜く事もあった。盗賊たちは倒れた敵を盾にして、倒れた仲間を踏み分けて挑んでいった。盗賊の数九十六。黒軍の数百二十。持っている武器の性能も違う。勝ち目は無い。ヒナタはアサヒと一緒に荷台の前に立った。何があってもリークを守らなくてはならない。恐れてはならない。
「ヒナタ、恐れず行きなさい。私たちは誇り高き狩人。闇の世界で生きる強大な生き物と戦う狩人。大丈夫。大丈夫だから」
アサヒがヒナタに囁いた。
黒軍は盗賊を掻き分け、荷台へ迫った。アサヒが刀を抜き、躊躇うことなく迫った黒軍を斬り伏せた。次に迫った敵に、ヒナタは短銃を向けた。
――ヒナタ……
小さくボルトの声が響いた。闇の世界で生きる生き物を狩る時とは違う。クロムカデを捌く時とは違う。感覚が違う。罪悪感が違う。アサヒは恐れるなと言ったが、ヒナタの理性が躊躇いを生んだ。




