三つ巴の戦い(2)
山道を抜けるには一日要す。この道は都と地方を結ぶ主要道路。商人は必ず通らなくてはならず、また、タギへ送られる贈呈品もこの道を通る。この道にはびこる盗賊から身を守るために、通行する人々は金銭を支払い、黒軍を雇うが、黒軍から狙われているヒナタたちが、黒軍を雇うことは出来ない。そして、先を急ぐ旅。回り道をすることは出来ない。日に日に弱るリークの姿が、ヒナタたちに焦りを告げていた。
「言っても、回り道をする時間は無いし、俺たちに残されたバッテリーも少ない。先を急がないと……」
エイジが言った。エイジはヒナタと同じ意見だ。吐く息は白くない。気温はそれだけ上がっていた。
「ヒナタ、ボルトを常に起動させておいて。人影が見えたら、すぐに分かるように。そして、人を殺す覚悟をしなくちゃいけないわね」
アサヒはカシの頭を軽く叩くと、言った。
「カシ、山道に入ったら、おとなしくしていなさい」
「分かったよ。オイラ、反省しているんだもん」
カシは頬を膨らませてふてくされた。
岩山の道に入ったからと言って、何も変わらない。車は小さな音を立てて走り続ける。ヒナタが運転するエイジを覗き込み、バッテリーメーターに目を向けた。充電は残り三十パーセントほど。いざバッテリーが切れたら、車を捨てなくてはならない。目の前に広がるのは漆黒の闇。慣れているとはいえ、心細さが心の隙間に入り込んでくる。
――熱センサー始動。感知範囲半径千メートル。
ボルトが動き始めた。
(本当に恐ろしいのは人間)
不思議と、ヒナタの脳裏にアサヒの言葉が浮かんだ。本当に恐ろしいのは人間。人間に銃を向ける。それを想像することは難しかった。
エイジも言葉数が少なく、ボルトも沈黙を決め込んでいた。もちろん、ヒナタも何も言わない。低く響く車の音。豊国と同じ闇の景色。景色は変わらずとも、気温の変化が都に近づいていることを示していた。
「度の過ぎた警戒ならそれが一番。不要な心配ならそれが一番さ」
エイジが言った。
――熱源感知。数九十六。三時の方向。距離八百。
ボルトが突然警告を発した。ヒナタの背中にジワリと汗が浮かび、考える前に長銃を組み立てていた。
「逃げ切れると思うか?」
エイジが言った。その問いはボルトに向けられている。
――無理だな。
機械のくせに、前向きなの良いところのボルトが不可能を告げるのは珍しい。
――警告。十一時の方向に熱源感知。数百二十。距離九百。
「はあ?」
ヒナタは思わず言った。どうして敵が二方向から来るのか。しかし、ボルトの言うことに間違いは無い。
――三時の方向の敵、距離三百。時速九十キロで接近中。邂逅まで三十秒。
ボルトがカウントを始めた。
――二十三、二十二……
そのカウントが恐ろしく感じた。
――十一、十……距離百。
エイジが車を走らせながら刀を抜いた。荷台ではアサヒも刀を抜いているはずだ。
囲まれたのは瞬く間であった。数え切れない程のバイクヘッドライトが車を囲み、エイジは急ブレーキを踏んだ。暗闇の中で見た姿は、ぼろぼろの衣服を纏った統率感の乏しい集団。統率感は乏しいのに、団結力を感じた。荷物を目的とした盗賊だ。扉を開いて引き出される前に、ヒナタとエイジは外に飛び出した。黒軍でないことを安堵するべきか、盗賊とであったことの不運を嘆くべきか、考える前にヒナタは荷台へ駆けた。車を奪われないようにエイジが運転席を守った。




