闇の海(1)
巨大な船に車とバイクを載せて、ヒナタたちは船に乗り込んだ。船乗りは無口な初老の男が四人と一人の若い船乗りだった。
「王から話は聞いているよ」
若い船乗りが言い、ヒナタたちは深く頭を下げた。
陸の反対側には肥国の土地が僅かにあり、そこに接岸するのだとアサヒが教えてくれた。光の点滅で海を挟んで情報をやり取りし、船を動かす。タギの下へ行くと幸福になれると考えたものが、都へ行くために船を利用することもあるらしい。彼らはそういう人を乗せて運ぶこともある。船は波に乗り、ゆらり、ゆらり、と揺れている。潮の匂いが鼻に残り、船が波を切って進む音と、船体に打ちつける波の音が小さく響いている。
「俺も、海を渡るのは初めてだ。さすがの俺も、海を越えて向こうへ行こうと考えたことは無かったからな」
エイジが船首を見つめながら言った。カシは海にはしゃぎ、船上を走り回っている。子供にとって、未知の存在である海と、海の上を駆け抜ける船は興味をそそるものなのだろう。
「海って、しょっぱいって本当なんだね」
カシは布を長く切り、船上から海に下ろして遊んでいた。
「カシ、落ちるから、じっとしていなさい」
アサヒが残された片手でカシが海に落ちないように、カシのズボンを持っていた。
「平気だい。オイラは大人なんだい!」
アサヒの気持ちを知らないカシは、自分は大人なのだとアサヒに反論していた。ヒナタはその二人を見ながら、幼い頃の自分を思い出した。ヒナタは早く大人になりたかった。アサヒに追いつきたかった。アキラに頼られたかった。自分に出来ないことがあるとも知らず、大人になれば強くなれると、何でも出来ると思っていた。無邪気で、無邪気だからこそ残酷だった。
「子供ってそんなものだろ」
エイジが突然、そう言うとカシを追いかけて駆け出した。
「こっちに来るなよぉ!」
カシは笑いながら船上を走って逃げ回り、エイジが追いかける。船上で、そんな二人をヒナタは見ていた。暗闇の世界は気温が低く、風は冷たい。それでも、船の上という未知の場所に居ることがヒナタの心を高ぶらせ、寒さを感じさせなかった。海の上にたつ発電所の横を通り、ヒナタは発電所を見上げた。海の上に大きな発電所を立てる。それは、かつて太陽のあった時代に作られた橋を基礎に作られている。かつての時代は、それだけの技術を持っていたのだ。
「片手のお嬢さん、あんた、七年前も乗ったな」
初老の男の一人が手を止め、アサヒに言い、おもむろに途中で切れたアサヒの手を取った。
「良かった、生きておったんじゃな。この海を都に向かって渡るものは多いが、戻ってくるものは一人もいなかった。あんただけだ」
初老の男は続けた。
「なぜ、再び都へ向かうんだ?」
初老の男はアサヒに尋ねた。
「失った手を捜しにいくのよ」
アサヒは言って、笑っていた。笑えない冗談だとヒナタは内心思った。
「不思議だな、何も襲ってこない」
初老の男はリークの存在を知らない。何も襲ってこないことに対し、不思議に思っているようだった。走りつかれたカシがアサヒに抱きついた。
「きっと、神様が守っているんでしょうね」
アサヒが笑っていた。
「我らにとっちゃ、都から戻って来た、あんたが神さ。おーい!接岸の準備をしろ!」
初老の船乗りが若い船乗りに言い、若い船乗りはロープを持って駆け出した。




