肥国にて(2)
荷物を積み終え、充電を終えると、ヒナタたちはすぐに出立した。待つのは海だ。海を越えなくてはタギの下へたどり着けない。ヒナタはあまり海へ来ない。豊国の海は、潮の流れが速く、下手に入れば大洋へと流されてしまう。光が満ちていた頃の世界では、海には多くの魚が泳いでいたというが、今の海では陸地と同様、暗い海に適応した獰猛で巨大な生き物しかいない。ヒナタたちは陸地の狩人だ。そして、海には海の生き物を狩る漁師がいる。海の掟は陸の掟とことなり、住む生き物も戦い方も異なる。陸地の狩人であるヒナタは、海に対する知識を何も持っていない。
「海か……」
ヒナタは暗く先の見えない水の先を見た。潮の香りは鼻を突き、身体を満たして行く。肥国の電力は潮力発電、波力発電、風力発電によって作られている。地熱発電によって生きる豊国とは異なる。
「どうやって海を越えるわけ?」
ヒナタは車から降りて、目の前に迫る海を見た、暗い海の先は何も見えず、まるで見えない闇の奥に引きずりこまれるような気分がした。海に沿って、発電所が立ち並び、電力が各地へ送られている。村々に発電所を持つ豊国と異なり、肥国は一箇所で電力を大量生産し、電線で村々へ送られている。一箇所に人が集まらないのは、闇の世界の生き物の生態系を崩し、襲撃させることを防ぐため。そして、タギから攻め入られたとき、食料や資材を一度に奪われないようにするため。予備の発電所が海沿いに作られた村々にあるのだろう。そして、村々で作られた食料がここへ運ばれる。発電所で働く人々の姿が、黒い海の上に見えた。
エイジも車から降りて、ヒナタの横に立った。そして腕を組み、暗い海を見つめて笑った。
「この国は海で生きる人々の国だ。陸と陸の間を抜ける速い潮流を利用して、電気が作られている。どうやって発電所の整備をしていると思う?どうやって資材を海上の発電所まで運ぶと思う?」
――船か……
ボルトが感心したように言った。
「正解だ。ボルト。肥国は海の生き物を狩るほど生きる者が多い。巨大な船を電力で動かし、資材を海上へ運ぶ。王が約束してくれた。俺たちを、反対側の陸地まで乗せてくれるってな。ほら、車に戻るんだ。船が待っている」
エイジはヒナタの背を押した。
ヒナタは陸地で生きる狩人だ。身の丈ほどの長銃を使い、闇の世界で生きる生き物を撃ち抜く。相棒のボルトと一緒に、豊国を駆け抜ける。しかし、海の上は別物だ。
――おいおい、本気か?本当に海の上に行くのか?
考え、判断することが出来るボルトが怯えたように素っ頓狂な声を上げた。
――馬鹿な考えは止せよ。海には巨大な化け物がいるんだろ。
ボルトがヒナタの気持ちを代弁するように、怯えていた。ヒナタの目の前には暗い海。そして、錆びた金属で作られた大きな船が接岸されていた。ヒナタ、エイジ、アサヒ、カシの四人はその船の前に並んで海を見ていた。
「大丈夫。ボルトは七年前に一緒に渡ったでしょ」
アサヒが笑った。ボルトと同じ気持ちのヒナタは、小さく息を吐いた。すっと、ヒナタの肩に温もりが乗った。見れば、エイジの手がヒナタの肩に乗せられていた。思ったよりも近くに寄せられたエイジの顔から、発せられた言葉はヒナタの頬を熱くした。
「俺だって怖いさ。でも、大丈夫。俺たちはリークと一緒にいる。海の凶暴な生き物も、リークを襲ったりしないさ」
「そんなこと、当然じゃない」
ヒナタはぶっきらぼうにエイジに言い捨てた。




