旅の同行者(2)
二時間ほどすると、アサヒは鶏小屋に大量の餌を置いた。水耕栽培の食物の水を調整し、地熱発電の様子を最終チェックする。
「どうやって、ここまで作ったの?」
ヒナタは少しでもアサヒとの距離を縮めたくて尋ねた。
「材料は都へ行った対価として、豊の国の王からもらったの。野菜の種も、工具も、鶏も全て。後は、少しずつ作り出しただけ。地熱発電の知識は、私の命の恩人連絡をとって習ったの。少しずつ、生活を作り上げただけ。今じゃ、カシもいるから、何の問題も無い」
アサヒは右手だけで手早く仕事を行っていた。両手が必要な場面では口を使う。足も使う。アサヒはヒナタが持っていないものを沢山持っている。
「命の恩人?」
ヒナタが尋ねると、アサヒは苦笑した。
「片手を斬りおとして、平然とここまで帰ってこれるわけないでしょ。途中で助けてくれた人がいたの。私が豊国まで生きて情報を持って帰ることが出来たのも、そのおかげ」
アサヒは荷物を詰め、ヒナタの肩を叩いた。
「ヒナタ、行こう」
七年前、アサヒはヒナタをヒナちゃんと呼んでいた。しかし、今は違う。ヒナタは子供でない。一人の狩人として戦う力を持っている。アサヒと同じ場所に立っているのだ。
「アサヒ、準備できたよ。オイラ、ちゃんとやったよ」
カシが駆け込み、アサヒの足に飛びついた。
「ありがとう、カシ。エイジのところに行って、手伝うことがあるか訊いて。出来るわね?」
アサヒがカシの頭を軽く叩く。それは、かつてヒナタがアサヒに懐いていたときと同じ。
「オイラ、出来るよ」
アサヒに褒められて、カシは嬉しそうに駆け出した。それがアサヒの力。何も変わらない。アサヒの力。
「ここの準備も終わったし、行きましょ、ヒナタ」
アサヒが右手をヒナタに向け、ヒナタはその手を叩いた。それが、狩人としての出立の合図。ボルトでない相棒との出立の合図。
「行こう」
アサヒは身を翻し、ヒナタはその後を追った。
車はアサヒの家を残し、出立した。荷台にはヒナタとアサヒの二台のバイク、当分の食料と水、充電済みの予備のバッテリーが数個、そして眠るリークとヒナタ、カシが乗った。身をすり合わせれば可能な広さだった。
「オイラはカーシ。闇夜に駆けるー。バイクに乗ってー駆け抜けるー」
カシは素っ頓狂な歌を歌い続け、耳にキンキンと響いた。アサヒは地図と磁石をもって、方向を確認しながら道を案内していた。
――おいおい、ヒナタ。そこの小僧を黙らせてくれ。
ボルトが呆れてヒナタに言った。
「お前が黙れよ。オイラの歌はアサヒが褒めてくれるんだい!」
カシがヒナタのベルトに取り付けられたボルトに飛び掛った。
「もう、離れてって」
ヒナタはカシを引き離した。
「オイラは……」
カシはふてくされた様に頬を膨らませた。
――まったく、子供は勘弁して欲しいもんだ。
ボルトが呆れ、リークは相変わらず昏々と眠り続けていた。
エイジは、リークが弱っているかもしれないと話していた。それは事実かもしれない。その通り、リークは昏々と眠り続けていた。一日走り続け、車は止まった。時計に目を向ければ、時は夜となっていた。闇の世界では昼も夜も関係ない。しかし、生きていくには生活リズムを整えていくのが大切だ。簡単な食事を取り、休息を取る。眠ってはいるが、リークが一緒だから闇の世界の生き物は襲ってこない。それが救いだった。




