リークの言葉(1)
ヒナタは用済みとなった。都へはエイジとリークとアサヒとカシで行く。ヒナタは必要ない。リークがいれば、都まで闇の世界の生き物は襲ってこない。そして、アサヒがいれば、都までの道を案内してくれる。ヒナタは必要ない。アサヒはヒナタの存在に気づいているだろうに、何も言わない。もちろん、ヒナタもアサヒに何かを言うつもりはなかった。七年間の溝を埋められるとも思っていなかった。ヒナタはボルトがアサヒに何も言わないことに安心した。ボルトが口を開かない限り、ヒナタはアサヒの存在を無視し続けることが出来るだろう。ここから、狩人も村までバイクで帰ることが出来る。ヒナタの生活は以前と何も変わらない。
「じゃあ、私は帰るから」
ヒナタはエイジに言った。これ以上、この場所にいたくなかった。
「待て」
エイジがヒナタを引きとめようとしたが、ヒナタは止まるつもりは無かった。このまま帰る。それが一番だ。
「ここまで案内したから、私の仕事は終わったでしょ」
ヒナタはエイジに言い、エイジは何の反論も出来ず黙り込んだ。なんとも表現できない緊張が辺りを包み、冷えた空気が更に静まり返った。
「それじゃ」
ヒナタは言った。それを引き止めたのは、リークだった。場の空気を読まないリークの行動は、あえて空気を読んでいないようだった。あえて空気を読まず、空気を和ませていく。
「充電、させてもらったら?」
リークは美しい金色の目を細めて微笑んだ。毛布に包まり、その場の空気を和ませていく。温かく、優しいリークの言葉、
「バイクの充電なら外に出て左に充電所があるから、好きに使って」
アサヒは言い捨て、ヒナタは外に飛び出した。
ヒナタは外に出て、エイジの車からバイクを下ろした。そして、アサヒの言うとおり、バイクの充電のためにコードを繋いだ。
――ヒナタ、大丈夫か?
ボルトがヒナタに言った。
「何が?」
何も言って欲しくなかった。ヒナタはアサヒのことを何も知らず、アサヒの話を聞こうとせず、責め立て、狩人の一族から追放されるアサヒを見ていた。何も出来ない。何もしたくない。それが正直な気持ちだった。
――一緒に帰ろうな。
ボルトが言ってくれたことが嬉しかった。
ヒナタはバイクに寄りかかって座った。寒さが骨に凍みたが、建物の中に入りたくなかった。空を見上げて息を吐けば、白い息が暗い空に向かって昇り消えていく。
「ボルトって優しいよね」
ヒナタは愛情を込めてボルトを叩いた。
――叩くなって言っただろ。
ヒナタには相棒のボルトがいる。それで十分だった。だから、近づいてくる足音も無視した。
「ヒナタ」
それは、エイジの声だった。
「何か用?」
ヒナタはエイジに問い返した。
「一緒に来てくれないか?」
その申し出にヒナタは首をかしげた。
「何で私が一緒に行かなきゃいけないの?アサヒがいる。それで十分じゃない。もともと、私はアサヒの家まえ案内しただけなんだから」
「分かっている。でも、一人でも多いほうが良いし、ヒナタは狩人だ。それも腕の立つな。リークが一緒だから、闇の世界の生き物は襲ってこない。でも、都では何が起こるか分からない。一緒に行こう。アキラが生きているかもしれないんだ」
エイジの言うことは最もだが、ヒナタは同意するつもりは無かった。
「それで、どうしろって言うの?アサヒは狩人の一族を追放されたの。私たちは何も知らないでアサヒを追放したの」
「だから……」
エイジは何かを話そうとし、言葉を飲み込んでいた。そして、しばらく押し黙った後言った。
「話してみろよ。アサヒと。気づいているんだろ」
ヒナタはエイジの言葉に腹が立った。エイジは全てを知っているようで、何も知らない。そもそも、豊国の王が全てを承知でアキラとアサヒを危険な都へ送り込んだのが始まりなのだ。その中枢に近い存在であるエイジも同罪なのだ。
「いい加減にして。関係ないじゃない!」
ヒナタは声を荒げた。これ以上、厄介なことに関わりたくなかった。
「関係ないとか言うなよ、俺は……」
「それが本当のことよ。黙っていて。何も言わないで」
ヒナタはエイジを振り払った。
「私は私の生活に戻る。これまで頑張って七年間作り上げてきた生活なんだから。邪魔をしないで」
ヒナタが言うと、エイジは一つ息を吐いた。
「分かったよ」
エイジは何も知らない。アキラを失って七年間、ヒナタがどうやって生きてきたか。作り上げてきた生活に無神経に割り込んで欲しくなかった。今更、アサヒとやり直すことなんて出来ない。
「上手くやれると思ったんだ。光を取り戻すため、一緒に都へ行けると」
エイジは立ち去った。




