弱虫な自分
静けさが辺り一面に広がる夜の海。
こんな時間に人間二人がいていいのだろうか・・・
そもそも、ここで働いてる係員?っていうのかな?
ここらへんに安全確認で来るもんだと思ってたのだが・・来ない。
俺は今、体が疲れて動くこともままならない程・・・と言うのは過言だが、さっきから中々寝付けない。
ひとまず彼女を起こそう、親が心配するだろうし。
「おい、起きろよ!」
しばらく肩を揺らしていると、彼女の目はゆっくり開いてきた。
「え・・・あれ!?今何時!?」
把握しきれない状況の中、彼女は驚きを隠せず叫んでいた。
今の発言からすると自分が溺れていた事など忘れて、ずっと眠っていたなどと勘違いしているのだろう・・・。
「君、海で溺れてたんだよ」
混乱している彼女を制するように俺は言った。
すると彼女は俺の存在に気付いたらしく、
「そう言えば私・・・綺麗な貝殻を見つけて、追いかけていたら潮に飲まれて・・・
じゃあ、アンタが私を?」
いきなり初対面の女に「アンタ」って言われたらキツイが、ここはグッと堪えた。
「そうだよ、結構助けるの大変だったぜ!」
すこし照れている感じで俺は苦笑いをした。
すると彼女は
「誰が“助けて”なんて言ったっけ?
正直余計なお世話なんだけど?」
・・・・・・
俺は彼女が次に言う言葉を分かっていたつもりだった。
命がけの救出など棚に上げて、余計なお世話と話をまとめる彼女・・・少しムカついた。
でも、彼女もいきなりの出来事を前に素直になれないだけだと思う。
(まぁ確かに彼女は“助けて”なんて言ってないし・・・ハハ・・ムダ骨だったな。)
俺は何も言い返さなかった。いや、何も言い返せなかったのかな・・・。
「何よ、その“お礼の一つでも言ったらどうだ”と言わんばかりの顔は?
調子に乗らないでよね!じゃ、私は帰るから!」
そそくさと帰る準備をしている。
説教の一つや二つ、当たり前だよこんなヤツ・・・。
あれ?だったら説教してやればいいじゃないか!
なのに・・・何でできないんだろう・・。
弱虫だな、俺・・・・・・。
やがて彼女の帰る姿が目に映った。
その姿を見守るように俺はしばらく、その場に座っていた。
やがて俺はびしょ濡れの状態だが、何も言わずに帰路を行く事にした。