オリーブの葉を加えた鳩が箱舟に降り立った。人々は洪水が引いた証と喜んだ。 だがオリーブの木の上には掌印を組んだニンジャが静かに座っていたのだ。
念仏と共に引き金がカチリと音を鳴らして引かれると、切り落とされた短い銃身から、火薬の濁流に弾き飛ばされた礫のような散弾が轟音と共に飛び散った。そして銃口の先、石膏のデスマスクで象られたような慈母の微笑みで固定された天使ニンジャの顔面が、コマンドー・忍法、ソードオフショットガンの術によって、まるでスイカを砕くように爆散し中身をぶちまけた。
阿鼻叫喚を切り裂く轟音が静寂をつくりだす。その代わりに、銃口から静かに吐き出される白煙が告げる。これよりここは狩場に非ず、ニンジャとニンジャの戰場。忍法飛び交う鉛玉のジャングルだと。
まるで案山子となった天使ニンジャたちを威嚇するように、金属の歯車が噛み合うような音がガシャリと唸り声を上げ、赤黒に染まった忍力弾が地面を踊る。次弾装填。戦闘再開。コマンドー・ニンジャが鉛色の死神を再び構えたその時、パソコンのファンがフル稼働するような低い音を立てて、空中に浮かぶ漆黒立方体がゆっくりと回転をし始めた。
風も起こさずに速度を増していく漆黒立方体。敵の母艦かゲートのような役割なのであろう物体が取り始めた奇怪な行動に、コマンドー・ニンジャの顔に警戒の色が浮かぶ。奴らはニンジャ。であるならば何を行っても不思議ではない。その取りまとめのような役割を果たしている物体ならば尚の事。やがて残像を残すほどの速度に達すると、バチバチと電流が放射され天使ニンジャ達へと降り注いだ。
天使ニンジャ達の頭が一斉にビクンと跳ね上がり、体は高圧電流に感電してしまったかのようにブルブルと痙攣し手足がバタバタと振り回される。石膏のデスマスクの口は、声を上げていないのに断末魔の悲鳴が聞こえてくるように思えるほど大きく開かれていた。無機物的だった天使ニンジャ達が嫌に人間臭くバタバタと悶える姿は、どこか生理的な嫌悪感を感じさせる不気味の谷のような感情をコマンドー・ニンジャに抱かせた。
そして、漆黒立方体が回転を緩やかにし、やがて何も無かったとでも言わんばかりに静止する。
ただ一つ違うのは、頭の中に強制的に流し込まれた膨大な情報に脳がオーバーヒートを起こしたかのようにプスプスと目の隙間や口から白煙を漏らしながら、小刻みに震える白い彫像達。
異様な光景を前に征くべきか退くべきかを決めあぐねていたコマンドー・ニンジャが、頭数を少しでも減らそうと忍具の引き金に指をかけたのと同時。未だ白煙が燻る頭がピタリと停止し、ぎこちなくコマ送りのようにコマンドー・ニンジャを見据えた。
見よ、あの悍ましく冒涜的な貌を! 限界まで見開かれた眼は血の涙を流し、瞳は全てを塗りつぶす黒一色。柔らかな微笑みを湛えていた口は耳まで裂け、真っ赤な口腔はまるで、モンゴリアンデスワームを彷彿とさせる牙で埋め尽くされているではないか! これのどこが天使なものか、まさしくこれはニンジャ! 人外魔境に蠢く魑魅魍魎!!
天使ニンジャ達が、四方八方からコマンドー・ニンジャへ向けて殺到する姿はまさに光。観客を襲っていた時とは比べものにならないほどの最大戦速。辺り一面の天使ニンジャ達が一条の光となって、コマンドー・ニンジャという点へと向かって収束していく。
迫りくる光の壁に怯むことなくコマンドー・ニンジャが咆哮を上げ、羽虫を叩き落とすがごとく、手に持ったソードオフショットガンをヌンチャクのように振り回した。一振りする度に大気をガラス細工のように撃ち破る轟音が鳴り、そのたびに吐き出される赤黒の空薬莢が地面に散乱し、鉛色の天蓋がコマンドー・ニンジャを覆う。
猛スピードで振り回された忍具の加速×忍力×爆発力が光速で駆ける天使ニンジャの加速エネルギーと真正面からぶつかり、その体をミキサーにかけられた野菜の如くすり下ろしていく。これはまさしく回転リロード。いや、コマンドー忍法・爆散の術!!
寄ってくる端から次々と、まるでオセロの盤面を端から塗り替えていくように、コマンドー・ニンジャへと殺到した真っ白い光たちが粉微塵に四散し、ただの瓦礫へと変わっていく。撃ち抜かれた天使ニンジャの破片が舞い上がり、石膏のデスマスクの残骸を降らせる。
僅かに途切れた光の壁の隙を突いてコマンドー・ニンジャが地を蹴り、鉛色の残像を残して横方向へ跳躍する。それを追うように煙の向こうから新たな光の壁を作りコマンドー・ニンジャへと殺到した。しかし、大きくつんのめりその動きはもつれ、倒れ、右往左往し立ち止まっている。
何が起きたのか? その正体は、彼らの足元に絡みつく白銀の茨の如き鋼鉄、鉄条網マキビシ!!コマンドー・ニンジャは跳躍の一瞬の間に鉄条網マキビシを仕掛けていたのだ!
その隙を逃さずコマンドー・ニンジャが掌印を結ぶ。ドローン・キャデラック・ポップコーン。そして、奈落へと突き立てた親指!
またしても赤黒の炎が渦巻き、その手に握られたのは、むせ返るジャングルを思わせる濃緑色、手榴弾! ピンを抜き鉄条網マキビシに絡め取られる天使ニンジャ達の顔面に、ランディ・ジョンソンもかくやという豪速球を投げつける!
爆発!炎上!死亡確認!!
轟音と爆炎とともに、天使ニンジャのデスマスクが辺り一面に爆発四散する。なんという無慈悲、げに恐ろしきはコマンドー・忍法、火遁の術!
次々と繰り出されるコマンドー・忍法により次々と散華していく天使ニンジャ。漆黒立方体から現れた彫像たちはその悉くが瓦礫へと姿を変えた。後に残ったのは火薬と硝煙の匂いと静寂。歓声から悲鳴、そして沈黙。
煌々と輝くリングライトだけが、未だ何事もなかったかのように、赤く散らばった花弁の海に佇むコマンドー・ニンジャを照らしていた。
見回しても、生きている人間はどこにもいない。エイドリアンも、いない。ただただ、虚無と孤独と悲劇の余韻が広がるばかり
一体奴らは何者なのか。何が目的なのか。そして何故、エイドリアンを攫ったのか。何も分からない。分かることはただ一つ。タカシはニンジャだ。これだけである。




