2天王
カエルビーストは俺を口に飲み込むと、凄まじい轟音を立てて飛んだ。いや多分飛んだと思う。見えないがこの圧力のかかり方は急激に移動した時のそれだ。直後に明らかに着地した衝撃があり、パカっと口が開くとペッと外に吐き出される。
辺りは一面赤黒い荒野だった。魔王城っぽい建物は見えない。黒雲が覆った暗い空からは不吉な稲光が鳴り響いている。カエルビーストは
「悪いけどここが限界だよー。じゃーねー」
と言うと、その巨大な身体を跳躍させ黒雲の中へと消えて行った。係員の声が
「地獄マップの魔王城タウンマップに着きました。サイコロを振り、中心の魔王城を目指して下さい」
とにかく近くには来ているようなので、黙って右手に出現した2つのサイコロを振ると、合計で2だった。幸先悪いな……と思いながら自動で進み出した脚に行先を任せる。
瞬く間に不吉な荒野を抜けると、まるで沸騰した血で出来たような赤黒い煮立った湖の脇を通り過ぎ、そして崩れ果てた見張り塔の前へとたどり着き、脚が止まる。崩れた塔の中で座っていた異形の人影が静かに立ち上がると、俺の前へと出てきた。
異形は腕が六本生えた長身で骨太なスケルトンだった。スケルトンは頭蓋骨の歯をカチカチ鳴らしながら
「……レベル99、フル装備か。一つ言っておく」
うわああああ!何か怖い脅し文句言われるだろこれ!咄嗟に虹色の剣を抜いて身構えていると、スケルトンはどこか安堵した様子で
「良いか、四天王を倒すと魔王城への道が開かれる。わしはアシュラスケルトンのヤモー!四天王の一人じゃ!」
俺が即座に虹色の剣を一閃すると、明らかに自分から当たりに来た異形は、瞬時にバラバラとなり消えた。
呆然とするより早く、係員の声が
「ヤモーを撃破しました。戦闘ターン1。腕多き四天王を制す者。の称号を獲得。次のターンをお待ちください」
称号って何だよ……と思いながら座り込む。よく分からないが、とにかく四天王とやらを倒さないと魔王城には入れないらしい。リースを助けるためにはやるしかないだろう。
次のターンも合計で2が出て、崩れた見張り塔から続く荒れ果てた道の跡を俺の脚は自動で走っていく。そして強そうな巨大モンスターが大量に彷徨っている広大な廃墟群を何事もなく突破すると、紫色の竜巻が空高くまで吹き上がっている、恐ろしい場所にたどり着いた。脚が勝手に動いて、否応なく俺は竜巻に入り込み、グルグル回りながら空高く巻き上げられた。
……
目を開けると、心配そうな四つの赤目にのぞき込まれていた。
「姉ちゃん、管理部門に報告あげないと。この魔王マップ刺激強すぎだって。レベル99でこれだよ?」
「ノヴェナ、黙って。プレイヤーさんの意識が戻った」
赤目達は俺から距離を取る。どうにか立ち上がり、相手の姿を確認すると、全身がそれぞれ赤と青の派手な体毛に覆われた2匹の若い雌のハーピーが、地上1メートル程の高さで
羽ばたいていた。両腕は手の先まで大きな羽根と同化していて、気の強そうな表情の赤い体毛の左側はポニーテール、心配そうな表情の青い体毛の右側はツインテールの髪型だ。
青い方のハーピーが明らかに無理をした強気な表情で
「我らは激強ハーピー姉妹だ!モクゾウさん……じゃなかった……四天王の一角キングウッドモクは!長期休暇中で!つまり私と姉のスヴェナが2天王だ!」
「……?」
意味不明なことを言ってきた青いハーピーに俺が首を傾げると、赤い方のハーピーが大きくため息を吐き、こちらをジッと睨み付け
「……冒険者よ……よくぞたどり着いたな。私は魔王四天王のスヴェナ、そして同じく魔王四天王のノヴェナがお前の相手をしよう……」
妖しげな魅力を振りまきながら冷たく微笑んだ。俺は赤いハーピーに向け虹色の剣を向いて構える。
青い方のハーピーが急に
「すごーい!あれさ!超序盤のカジノで勝ちまくらないと手に入らない裏技的な最強武器だよ!」
赤い方のハーピーは
「……冒険者よ……少し待て」
冷たく言い放つと、背後へと、青いハーピーを羽ばたいたまま押していき、着地させると2匹とも後ろを向き、赤い方が
「あんたさあ!この仕事をなんだと思ってんの?運よく採用されただけだよ?大体暇だから仕事したいって言ったのあんたじゃん!ちゃんとやって?四天王役なんてかっこいいからやりたい人、山程いるし、ここまでたどり着いたプレイヤーさんも苦労してるんだよ?わかってんの!?」
「……ごめん。ごめんてえ……久しぶりの挑戦者だったからあ……嬉しくてえ……もう黙っとく……」
「言い過ぎたかも……とにかく気を付けて」
赤い方が羽根と同化した右腕で青い方の背中を励ますように叩くと、こちらへと向き直り羽ばたいてきた。
言っていることはよく分からないが、何かもう見ていられないので
「あの……剣を……一閃すればよろしいのでしょうか……」
つい尋ねてしまうと、赤い方が妖しげな笑みを浮かべ
「ふっ……私より、青い方が強いぞ?そなたに斬れるかな?」
チラチラと、横で項垂れて羽ばたいている青い方のハーピーを見てくる。俺は少し考え、これはつまり……妹を斬らないでくれということなんだな。と理解したので、赤い方に虹色の剣を一閃すると驚いた表情で
「ちょっ!そうじゃないっ……それ違……」
消えていった。直後に青い方が項垂れながら
「……ひっさーつ……ハーピープリティすまーいる……」
力なく微笑む。大量のピンクハートが俺に振り注ぐが1個も当たらずに、俺が虹色の剣を青い方に一閃すると、何と回避された。
青い方のハーピーは棒読みで
「……ははは……姉を殺された私の怒りは……うちょうてんだー……回避率あがったぞー……」
わざわざ説明してくるとまた項垂れて
「……ちょーひっさーつ……はーぴーたいふーん……」
ボソッと呟いた直後、俺は猛烈な嵐に包まれた。吹き飛ばされそうだったが、どうにか耐えきった。大きく息を吐いて吸う。こいつは強敵だ。ここは師匠に教えられた技を使うしかない。サナーが使えたんだから俺もいけるはずだ。そう強く思うと身体が青く光り出した。
青いハーピーは驚いて
「それ……!ほとんど裏技のヒーローイベントクリアしたプレイヤーの光でしょ!?ちょっと待って!」
「……なんでしょうか……」
青いハーピーは俺の周囲をゆっくり一周すると
「ほえー……マイケルさん喜んでるだろうなあ……ここ十年プレイヤーと会ってないって昨日の給湯室で愚痴ってたし、あっ……必殺技は必中だから私に当たると思う!どうぞ!」
軽い調子で言ってきた。俺は一瞬呆気に取られたが、何とか気を取り直し黙って頷き、剣を鞘に収め、青いハーピーに向け腰を落とすと
「アイス!ナイカッツオ!」
掛け声と共に右手を全力で突き出した。青い閃光が振り注ぎ包まれていったハーピーは楽しげな声で
「ぐえーやられたあ!」
叫んで、そして消えた。




