助けに行く
結局、教会から城に続く長い道をリースの引く馬車は進み続け停止した、ようやく開いた馬車の扉から飛び出ると既にリースは居なかった。花嫁衣装のサナーが満足げに
「きっと、このゲームが終わった頃には、ナランは違う金髪女を目撃するはずだぞ?」
俺はそこで耐えきれなくなって
「リブラー!」
大声で叫んだがが応答が無かった。直後に俺たちはメイド達に取り囲まれ、城内のもっとも高い塔の最上階の一室へと連れて行かれ扉が閉められる。係員の声が
「ナランさんの次のターンは自動的に子作りターンで一回休みです。結婚相手と励んでください」
3人くらい寝られそうなデカいベッドと広い窓で夕暮れの城下町が一望できる一室で立ちすくんでいると、いつの間にかベッドに横たわった純白ドレスのままのサナーが目を閉じて
「さ、神聖なる子作りを始めるか」
「……」
扉のドアノブを何度も回してみたが開かない。これは覚悟を決めるべきか……と思った直後に思いつく。いや、待てよ……これ、物とも結婚できるわけだろ……?当たり前だが、物と人は子作りできないよな?ということは……もしかして……。
俺は大きく息を吐いて、寝ているサナーの肩を少しだけ触った。同時に係員の声が
「おめでとうございます。子作りターン終了です。これから出産までの10ターン結婚相手はこの街から動けませんが、ナランさんはその間、サイコロ2倍のボーナスがつきます。では次のターンをお待ちください」
サナーは唖然としながら飛び起きると
「お、おい!金髪馬女はエロい事させられまくってるのに!私はエロ禁止なのか!?しかも動けないって……」
「なあ、サナー」
俺はベッド脇に座る。サナーは不満そうに
「何だよ」
「リブラーの付けた怪しげなスキルのお陰で、俺は今まで良すぎる結果しか出てないだろ?多分だけど、ボードゲーム側もこんなプレイヤーがいると想定してないと思うんだよな……」
「そうだけど……あっ、そうか」
「多分、リースは俺達の真逆なんだよ。ありえないマイナススキル持ちだろ?だからゲーム側が狂い始めてて、本来絶対に受けないような性的な制裁とか労役みたいな事をさせられてるんだと思う」
このボードゲーム自体、本来はエロ禁止なのではないかと思っている。サナーは真剣に腕を組んで考え込みながら
「……だったら、助けないといけないよな?ボードゲーム激弱での自業自得馬女プレイじゃないわけだろ?それは公平じゃない!」
俺は当然頷く。
「サナー、俺はこれからゴールを目指さず、ひたすらリースを助けに行く。良いか?」
サナーは素直に頷くとニカッと笑い
「もうナランと最初の結婚式は挙げたからな!良いぞ!これはゲーム外でも有効だからな?」
「……考えとく」
曖昧に返事をするとサナーは嬉しそうに
「じゃあ、金髪馬女の探索にでも行ってこい!あいつが現実で結婚しても永遠に二番目だ!ひゃっほー!このゲーム最高!私がナランの正妻になった!私のナランだ!」
俺に抱きついてきた。
しばらく何とも言えずに、幸せそうなサナーから抱きしめられるがままにしていると、係員の声が
「ナランさんのターンになりました。王となり結婚式も済ませたので、サイコロを振る前に追加能力の選択ができます」
そう言うと、目の前の宙に3つの選択肢が現れた。
1. 周辺マップの表示
2. 常時全体攻撃
3. 他プレイヤーの位置把握能力
全く迷うことなく
「3で!」
そう言うと係員の声が
「承りました。この能力は常にどこでも使用できます。対象者の名前を言うだけです」
いつの間にかサイコロが2個右手に握られていたが、振るよりも先に
「リースの位置が知りたい!」
大声で言うと、係員の声が
「ここから最短ルートで59マス先にある地獄マップに居ます」
「……地獄マップ……しかも何でそんな先に……」
背後のサナーが笑い出して
「どうせマイナススキルが発動しまくって、最悪の確率でワープしまくった挙句に地獄に落ちた、とかだろ!?」
振り返って
「いやでも、さっきまで馬車引いてたぞ?」
サナーが何でもない顔で
「地獄からワープで派遣されて来てるんじゃないのか?できるだけ恥をかくような場所にな」
なるほど……なんとなく納得がいったので
「サナー、行ってくる」
そう告げて2個のサイコロを同時に振った。
「6」と「6」の目が出た直後に俺は、重装備に戻っていて、城を自動で走り出ていた。港の手前まで進むと、係員の声が
「船に乗りますか?」
「地獄マップへの最短ルートでお願いします!」
ダメ元で青空へと叫んでみると、俺の足は再び自動で進み出し、船に乗り込み出港する。そのまま高速で過ぎていく数日間、船に乗り、途中で小さな嵐に遭ったり、遠くの水平線に巨大龍の姿が見えたりもしたが、大きなイベントは起こらず、別の港街にたどり着いた。自動で俺は船から降りて町を出ると、ねじ曲がった渓谷の底を足早に進んでいく。そこを抜けると大きな河を漁師に金を払って小舟で渡り、ジャングルに分け入った所で俺の足は止まった。どうやら12マス分進んだらしい。
ジャングルにゆっくりと分け入って行くと大きな村があり、その中では狼人間達が宴を開いていた。俺が入口に突っ立っていると酔っ払った狼男が近づいて小突いてきたので、反撃しようかと一瞬思ったが、レベル99なので、瞬殺する可能性があるな……と思い直し、逃げるように村を迂回してジャングルを出ると、係員の声が
「ターン終了です。お待ちください」
と告げてきた。
サナーがいないので欠伸しながら待っているとターンが回ってきた。サイコロを振り、今度は合計11を引き、足が自動で進み出す。ジャングルを抜けた先の高原の大村落を通り抜け、雪が降る高い山脈を登っていき、マグマの海にかけられたとてつもなく長い石橋を渡り、その先の漆黒の渦を迂回して通り過ぎ、氷原に天から射す一筋の光に入ると空の上にワープして、朽ちた空中都市の誰もいない街中を通り過ぎ、黒い渦に自動で入ると、いつの間にか広い砂漠のド真ん中に立っていた。
直後に地響きを上げながら巨大な茶色のウシガエルのようなモンスターが出現した。慌てて、鞘から抜いたカジノの景品の虹色の剣を一閃すると、ウシガエルは派手に仰向けに倒れ気絶した。係員の声が
「カエルビーストを倒したので、ターン終了です。かかった戦闘ターン1。経験値は最高レベルなので入りません」
と告げてきたのでその場に座り込む。今さら気付いたのだが、まともに寝ていないし、食べてもいない。カジノでのリンゴくらいだ。多分外と時間の流れが違うとかかな……よくわからんけど。後でしわ寄せが来るとかは勘弁して欲しい。
すぐに次のターンは周ってきて、係員から声をかけられた直後、いつの間にか起きていたカエルビーストに
「あんた超強い!気に入った!ゴール周辺以外のどこへでも、一回だけ連れて行ってあげるよ!」
そう提案された。まずリースの位置を確認すると
「ここから40マス進んだ先の地獄マップの魔王城に居ます」
係員の声が教えてくれたので迷わず
「地獄マップの魔王城へと連れて行ってくれ!」
「分かった!魔王城だね!引き受けた!」
地響きのような了解が響き渡り、俺は大口を開け、伸ばしてきたカエルビーストの舌に巻き込まれ、口内に飲み込まれる。




