結婚式、ゲーム内
その後、「6」の目を引いた俺とサナーは燃え盛る火山を冒険して火竜から神家防護兜という難しい名前の兜を貰い、水竜に届けるというこれまたレアイベントが発生させてしまった。火竜が自分でレアイベントと言っていたので間違いないと思う。そして次のターンに強制で5マス横の水の神殿に移動した俺達は水とモンスターが溢れる神殿内を高レベルの暴力で楽々と踏破して、奥に佇んでいた水竜に兜を無事に渡し、ブリザードソードという武器を貰った。
サナーは神殿内で次のターンを待っている間もひたすらリースの不幸を想像し俺に語り続けながら、ブリザードソードを振り続け、終いには師匠から貰ったアイスナイカッツオをブリザードソードで放つという1人連携技まで完成させてしまった。そして、次のターンが回ってきた。
サイコロを振ると「4」が出て、俺達は自動で神殿から巨大な城を囲うように建物が立ち並ぶ広大な城下町へと移動する。西側には港もあり大小の船が行き来している。係員の声が
「この街は、街の中にマスがあるタウンマップとなります。進みようによっては王にも、大富豪にもなれます。頑張ってみてください」
水着の背中にチェンソー3本と氷の大剣を背負ったサナーはすっかりやる気になり
「ナラン!王になるぞ!」
「まあ、やってみよう」
今までのパターンからだと、最良の結果が出続けて王になるんだろうな……と漠然と思っていたが……。
5ターン後には、俺は巨大な城の玉座に座っていた。1ターン目に街の巨大下水道のダンジョンで財宝を発見し大富豪になった俺は2ターン目には流れで騎士に志願し、3ターン目には前王に見初められ、有り余る金の力で王国の財政問題を一瞬で解決すると、4ターン目に王国に巣食う魔物だった側近から暗殺されそうになったがサナーがブリザードソードでのアイスナイカッツオで一撃粉砕し、そして5ターン目には王座を譲られていた。
他プレイヤーのターン待ちで、玉座に座ってボーッと天井を見上げていると、装備を外し玉座の近くのカーペットの上でゴロゴロ転がって遊んでいたサナーが、玉座の間の扉が開いたのを見て立ち上がる。扉の先には何と微笑むアンジェラが立っていた。彼女は玉座の前に進み出てくると
「王様、西方の地へ航海に出たいのだけれど、資金援助してくれますか?」
俺は戸惑いつつも
「もちろん許可します!好きなだけお金を使ってよしっ!」
アンジェラはホッとした表情で頭を下げると
「ターン終了したわ。今のうちに情報交換したいのだけれど」
アンジェラの周りではしゃぐサナーを見ながら提案してくる。
玉座を降り、今まで起こったことを全てアンジェラに説明すると、彼女はまずサナーを褒めてから心配そうに
「リースちゃんは無理しないと良いわね……アン王女についての情報はある?」
ないと俺達が答えると
「彼女は王族の特権を使って幼い頃からこのゲームを幾度もやり込んでいたの」
アンジェラはそう言ってから、アン王女が恐らくは裏ルートの様なものを発見していて、既に遥か先のマスに進んでいるのではないかと推測してきた。サナーが不思議そうに
「でもゴールしたプレイヤーは今までいないんだろう?」
アンジェラは頷き
「アン王女は初のクリアプレイヤーになるつもりよ。ナラン君、サナーちゃん」
俺たちの顔を真剣な眼差しで見つめ
「私は調査があるからクリアは難しいと思う。2人にあとは任せたからね」
そう言うと玉座の間を立ち去って行った。
またサナーと玉座の間でダラダラしていると係員の声で
「ナランさんのターンになりました。王になったので結婚イベントが発生します。好きな相手を指定して結婚してください。異性、同性、モンスター、犬や猫、武器や道具であるアイテムでも結婚可能です」
サナーが不安げにジッとこちらを見つめてくるので、深呼吸したあと
「サナーと結婚する!」
宣言すると、サナーが飛び上がって喜びを爆発させた直後、花吹雪が玉座の間に舞い、どこに隠れてたんだよ!というほど兵士やメイドや執事たちが現れると、白いタキシードとドレスに着替えさせられた俺達は連れ去られるように街の海と港が見える高台にある教会へと向かうことになる。
優しげな神父から祝福され、結婚の誓いを交わし指輪交換をしながら……確か武器とも結婚できると言ってたな……これは惜しいことしたかもしれない……手持ちの剣と結婚したらどうなってたんだろう……などと本気で考えていた。左右から祝福され、喜びに頬が桃色になっているサナーに腕を絡められヴァージンロードを歩いて教会から出て行くと、思ってもいない光景に俺は戦慄する。
金に塗装された豪華な馬車に繋がれているはずの馬の代わりに、四つん這いで繋がれていたのは、あのレース場でのリースホースの格好そのままのリースだった。羞恥で全身が赤くなっていて微妙に震えてもいる。サナーは一瞬嬉しそうに何か言おうとしたが止め、余裕の笑みを浮かべると、俺の手を引いてリースに近寄り、しゃがんで金髪を撫でながら
「かわいらしい雌馬さんが、私達の結婚を祝福してくれて良かった」
優しげに言い放つ。リースは大きくブルッと震えると耐えていた表情が急にトロンとしたものになった。
おいおいおいおい!サナー!リースを追い詰めすぎだろ!大丈夫かこれ!?焦っていると俺はサナーの腕力に引っ張られて馬車へと乗せられる。ようやく人の目がなくなったので
「おい!リースを助けないと」
サナーは満面の笑みで首を横に振り
「この結婚式、ゲーム内でのことだぞ?どうせ現実では、あの金髪不幸振りまき女はナランと結婚するだろ?」
馬車の扉を開こうとするがどうしても開かない。クラッカーが一斉に鳴らされ「おめでとう!」の祝福の連呼の中、馬車がゆっくりと進み始める。小窓を開けて前方を見つめると
「ううん……くっ」
「ああっ……ぐうう」
などと呻きながらリースが馬車を引き出した。慌てて
「リース!大丈夫か!?」
声をかけるとリースは止まった後にまたブルッと大きく身体を震わせ、剥き出しの全身が発汗し始めた。
「お、おい!リース!?」
サナーが俺を押しのけると小窓の外に向け
「リースホース!進め!王と王妃である私達の栄光の結婚式のために!」
そう言ってピシャッと閉めた。馬車はまたゆっくり進み始める。俺が呆然としているとサナーはニヤニヤしながら
「負けすぎて、負けが気持ちよくなりつつあるな」
「……そ、そんな事ないだろ」
「ふっ……とにかくこの世界では私の圧倒的勝利だ!金髪女はもはや人ですらない馬で、私は王妃だ!最高だなこのボードゲーム!ずっとここに住みたい!」
サナーは喜んでいるが、俺は、愛するリースがとんでもない目に遭い続けているのがはっきりしたので、震えと冷や汗が止まらない。




