どうなってんだ
「これで最後だああああ!」
何も纏っていないサナーがすっかり小さくなったスライムを踏みつけた。ここまで永遠に感じるような時間戦い続けていた。スライムの絶対に当たらない凄まじい一撃を見て、2人でそれぞれ一発ずつ打ち込んで……という作業を延々と続けていたらスライムは少しずつ小さくなっていった。ちなみにサナーが何も着ていないのは、勝手に脱ぎ捨てたからだ。色んな意味でやる気が違うらしい……。俺にも脱ぐように促してきたが意味が分からないので、当然拒否した。
サナーは踏みつけたスライムが消滅したのを確認すると自慢げに
「私達の愛の勝利だな!さあナラン!私と愛し合うぞ!」
即座に俺に襲いかかってきたが、次の瞬間には下着を元のまま着ていて、俺と横に並んでいた。空から係員の声が
「ナランさんの勝利です!かかった戦闘ターン数は8075です!獲得経験値51368555!ナランさんは99レベルになりました。シャドーブリングも自動的に同じ強さになります。他のプレイヤーのターンが終了するまでお待ちください」
とにかく無事に終わったらしい。
その場に座り込むとサナーは立ったまま首だけ動かしこちらを見てくる。
「か、身体が動かないんだが……」
「脱ぎまくるから、ペナルティ食らったんじゃないのか?そういうゲームじゃないからな?」
「そ、そうかも……ところで」
「なんだよ」
サナーはしばらく黙った後
「金髪不幸振りまき女は、どこにいるんだ?」
一応気になるらしい。このボードゲームもプレイヤーの一人だと教えるとサナーは悔しそうにした後、閃いた顔で
「……このゲームの能力が元々のスキルで決まるなら、やつは特にやべーことになってるだろうな!」
「心配させるようなこと言うなよ」
サナーは心底嬉しそうに
「もう絶対にすっごい不幸塗れになってるぞ!奴隷になってエロい事させられまくってるとか!借金まみれで炭鉱で強制労働とか!呪いでおかしくなってるとか!」
「……もう黙っとけ。それよりも……」
時間がありそうだったので、井戸の中から、サーガ共和国でのことをサナーに全て話すと、涙目で
「……付いて行けば良かった……」
「いや来なくて良かったと思う……今のところろくな目に遭ってない」
「……ナラン……私は目覚めたら、手足を何とかしてくっつけて、絶対に皆を追うからな!」
「無理せず寝てろ」
サナーはふくれっ面で黙り込んだ。
しばらく待った後、係員から俺の番を告げられてサイコロを振る。今回は素直に腕が動いて「6」の目が出た。俺達は自動で沼地の上の廃墟群をピョンピョン飛びながら越えていき、そして広い河を小舟で渡り、高い山脈を猛スピードで登山して反対側から下山していき、高い城壁を持つ城下町を通り過ぎ、深い樹海を抜け、広い湖を横目に進み、そして大きな夜の街に着いた。
自動で街の奥にある大きなカジノ内へと俺たちは進んでいき、入口近くのカウンターに入るとバニーガールの格好をした背丈2メートルほどのスキンヘッドのマッチョメンが
「カジノウルトラブラザーへようこそ!」
日に焼けた顔の白い歯を見せて微笑む。サナーが驚いた顔で
「凄い……盛り上がってる……」
マッチョの下半身を見て、早速余計なことを言い始めたので慌てて
「ここってカジノなら、どういう賭け方をすればいいんですかね?」
マッチョメンは微笑みながら
「千コインを既に所持しています。各コンテンツの前で宣言して賭けて下さい。コインが無くなるとターンが終わります。景品はこちらです」
マッチョメンが背後の大きな表を指してきたのでサナーと見ると、こう書かれていた。
セブンススレイヤー 7777777コイン
際どすぎる水着 450000コイン
凄いメタリックな鎧 390000コイン
かなりメタリックな盾 200000コイン
チェンソー(林業) 100000コイン
チェンソー(工業)100000コイン
チェンソー(商業)100000コイン
リンゴ(無農薬) 5コイン
「……ふざけすぎだろ……」
唖然とする俺の横でサナーが勝手に
「お兄さん!リンゴ2個!」
早くも10コイン消費してしまった。仕方ないので一個受け取りサナーと齧っていると
「こちらです」
別のバニーマッチョメンにカジノの奥に案内される。
カジノ内は謎のキラキラしている機械が並び、トランプゲームやルーレットのためのテーブルや機器も並んでいる。サナーは吸い込まれるように俺の手を引きルーレットに座らせると
「ナラン、3に全ベットし続けろ」
耳元へ囁いた。小声で
「なんで3なんだよ」
「サナーさんの3だ。幸運の数字だぞ」
などと適当なことを言ってくる。まあ、コイン全て無くしたところで別にターン終了するだけだしな。と気軽な気持ちで残りの990コイン全て3に賭けるとルーレットは自動で回り始めた。そしてすぐに
「だろ?」
サナーはドヤ顔を向けてくる。当然のように転がる玉は3に入り、20倍とかのコインが戻ってきた。俺は大きく息を吐いて、もう一度同じ数に賭ける。それを延々と繰り返した。
瞬く間にコインは限度枚数の9999999枚まで増え、俺達は全ての景品を交換した。俺は七色に輝く剣を提げた銀色の重武装になり、サナーは青い紐水着姿に3種類のチェンソーを背負っている。知らなかったチェンソーについての説明もマッチョバニーに受けた。凄い刃が回転する機械らしい。しかし、コインがまだかなり残っているので、使い切るまでは終われない。リンゴをもらいまくって使い切ろうとも思ったが、それも勿体ない気がしたので、サナーと共に絶対に負けられる方法を探して、ほぼ全てのギャンブルをプレイし始める。
しかし……
「負けられないな……」
コインが200万枚まで増えてしまった。完全に幸運の使者のスキル効果が裏目に出ている。このままだと永遠にカジノから出られないぞ……と若干焦り始めているとサナーがカジノ奥の扉を発見して
「ナラン!これ行こう!モンスターレースだって!これなら行けるだろ!」
「そうだな。弱そうなモンスターに賭ければコイン減りそうだな」
そして扉を開けて俺達は驚愕する。
青空の下、整備された芝生の二百メートル程の円環状のレース場が広がっていた。周囲には段状の観客席が囲んでいるが、観客もモンスターも一切見当たらない。入ってすぐの所に、輝く文字の書かれた立て札があり、そこには
ゴブゴブお レート1.7
スライも レート3.3
うさぎメン レート1.2
ウルフこ レート1.5
リースホース レート125.9
サナーは立て札を見るなり爆笑しだし
「リースホースヤバいな!絶対勝てないやつだろ!ざっこ!雑魚モンスター!」
「でも安心だな。これで負けられるぞ」
サナーは立て札を見ながら
「一回20万枚までだから、10回リースホースに賭けたら終わりだな。ナランが賭けるって言えばレースが始まるらしいぞ」
俺は安堵しながら、近くの観客席にサナーと並んで座り
「リースホースに20万コイン賭ける!」
すると、目の前のレーストラックにモンスターが五体出現する。
ゴブリン、スライム、ウサギのモンスター、狼人間の雌、そして……サナーが立ち上がり
「リース……!?」
皮の局部ガードだけ付けた姿で四つん這いで、耳まで真っ赤にして前方を必死に向いているのは何とリースだった。尻からは馬の尻尾が伸びていて、口には喋れないように皮の猿轡の様なものを巻いている。サナーが指差し笑い出し
「ほらー!もう不幸になってる!リース姫様ー!馬になった気分はどうですかー!?私を弄んだ天罰じゃないんですかー!?」
俺がサナーの口を塞ごうとするより早く、リースがこちらを絶望的な羞恥に満ちた表情で見てきた。俺は「大丈夫、気にするな」という意味を込め真顔で黙って頷く。リースはしばらく俺と目を合わせた後、真剣な眼差しで頷き返してきた。
「パンッ!」という破裂音と共にモンスターレースは始まり、瞬く間に他の4体のモンスターは2周目に入るが、四つん這いで必死に進むリースはまだ1周目の半分にすら至っていない。しかも日頃の恨みが散々溜まっているサナーが
「リースホースに20万も賭けてるんですけどー!?負けたら大損だなー!」
とか
「そんな格好して恥ずかしくないんですかー!?もしかして趣味?王家のお姫様はど変態ー!?」
他にも
「どうしてそんな馬になるみたいな罰ゲームやってるんですかー!?もしかしてボードゲーム激弱だったりー!?」
容赦なく煽りまくるので、リースは耳まで真っ赤になりながら全身汗まみれになっていく。レースは3周で終了だったのだが、リースは遅れて5位でゴールするとその場にうつ伏せで倒れ込み、待っていた他のモンスターと消えた。
俺がとんでもない状況に固まっていると、目の前に先ほどの立て札が出現して今度はこう書かれていた。
うさぎメンマックス レート1.1
レッドゴーレム レート1.9
ゼラチナス・ダークマター レート1.4
フルウルブズ レート2.0
リースバニー レート1089.2
サナーは立て札を見ただけで爆笑しだし
「ナラン!人生我慢してたら良いこともあるもんだな!色んな金髪クソざこ姫を後9回も観れるとか!」
「いや、もう煽るのやめろよ。介護でお世話になってるだろ……」
サナーは真顔で首を横に振ると
「ぜーーーーーーったい!あの金髪女は!シモの世話をしながら私を下に見てほくそ笑んでる!今こそ復讐の時!ほら!はよ賭ける!はよ!」
サナーに促され渋々と
「リースバニーに20万コイン賭ける……」
そう宣言すると、漆黒のウサギモンスター、赤い巨体のゴーレム、大きな半透明の黒い核を持つスライム、強そうな巨漢人狼、そして……。
サナーは大喜びで両腕を振りながら
「そう言うコスプレが趣味だったんですねー!ヘグムマレーさんにおーしえよー!」
早速煽りだした。足を開いてしゃがんだ状態のリースは耳まで真っ赤にして、もはやこちらを見ない。胸の先と局部だけ白い毛で隠したリースはバニーヘッドを被り、尻にはウサギの白い尻尾が貼り付いている。
破裂音と共にレースが始まると、他のモンスター達は5秒で3周終えたが、リースだけは「うーんうーん」「くっ……」などと唸りながら、ウサギ跳びで汗を大量に垂らしながらレース場を必死に進み続け、ようやくゴールした直後に、仰向けで倒れ込み、他のモンスター達と消えた。さすがにサナーも途中で煽るのを止めていた。俺はリースがゴールした瞬間に決めた。もうこんなのは止めよう。絶対に間違っている。
渋るサナーの手を引き、レース場から出ると観葉植物に隠れるように配置されたゴミ箱が目についた。できるか分からないが、思いついたのでやってみることにする。大きく息を吸ってから
「残りのコイン全部、このゴミ箱に捨てる」
と言った次の瞬間には俺達は街の端に立っていた。係員の声が
「ナランさん、ターン終了です!他のプレイヤーの皆様の行動が終わるまでお待ちください!」
水着姿でチェンソーを3本背負ったままのサナーが残念そうに座り込み
「あの金髪女に復讐するいい機会だったんだぞ?」
重装備の俺も横に座ると
「よく考えてみろよ。まだ俺は3ターンで9マスしか進んでないんだ。リースも似たような状況のはずだよな」
サナーは意味が分かったようで嬉しそうに
「やつの不幸は始まったばかりということだな!?」
「……めちゃくちゃ心配だよ。いくらゲームとは言え、なんで序盤であんな過酷な罰ゲーム受けてるんだよ……どうなってんだ……」
「ナラン!最高のゲームだこれ!私達が快進撃を続ける裏で金髪女は不幸を極めていく!いい!凄くいい!やっほー!」
サナーは、飛び上がってはしゃぎ回りだしたが、俺はリースのことを思うと不安でたまらなくなる。




