いつか勝てる!
左右からリースとアンに挟まれて待っていると、どうやら前の組が終わったらしく、執事服を着込み筋骨隆々とした男性係員が俺たちの近くに来ると、貼り付いた笑顔で
「アン王女の順番となりました。そちらの3人もご同席でしょうか?」
アンは仕方なさげに
「そうよ。始めましょう」
係員達が中庭一面に広がるボードゲームの左下部分へと俺たちを連れて行く。
「スタート!」と書かれた小さなマスの前に俺たち四人が立つと係員が
「これから皆様はゲーム内へとワープいたします。そしてボードゲームプレイヤーとして別の人生を歩み始めます。ゲームオーバーは亡くなった時です。ゲーム内で亡くなってもこちらの世界へと戻ってくるだけなので心配せずにゲームをプレイして下さい」
リースが手を挙げ
「あの!ゴールするのは難しいのですか?」
係員は頷くと
「ゴールをしたという記録は公式には残っておりません。気にせずにお楽しみ下さい」
リースは生真面目な面持ちで頷いた。係員は大きく息を吸うと
「時間となりました!では勇敢なプレイヤー様達に栄光と幸運を!」
俺達四人を光が包み込んだ。
……
人けの無い見知らぬ町に俺は立っていた。町は山林に囲まれている。俺は何故か下着だけしか着ていない。手元には1から6の目のサイコロだけを持っていた。とりあえず地面に向けそれを振ると、サイコロは宙でクルクルと回転し続け「1」の目で止まった。
「……」
なんだこれ……と思う間もなく、俺の身体は勝手に走り出し、町を駆け抜け、山道を通り過ぎ、そして平原で停止する。
平原にはポツンと大きな宝箱が置かれていて、近付くと
「レベル255のトラップだ!鍵開けスキルはありませんが、開けますか?」
係員の声が空から響いてくる。しばらく宝箱の前で真剣に悩んだが、多分リブラーの怪しげなスキル効果が効いているはずなので悪い結果にはならないはずだ……開けよう!と俺は宝箱に手を伸ばした。
次の瞬間、目の前を閃光と共に轟音が響き渡り、そのまま景色が停止する。係員の声が
「スーパーノヴァのトラップが発動!サイコロを振って3回、5が出れば回避です!」
それ、どんな確率だよ……こりゃ、もうゲームオーバーだな。と投げやりにサイコロを振ると、5が出て、当然のようにその後2回とも5が出た。宙で停止したサイコロを見つめ、な、なんかもはやイカサマだろこれ……幾らリブラーのスキル効果があるとは言え……と申し訳ない気持ちになっていると、係員の声が
「トラップ回避したので宝箱が開きます」
ピカーッと宝箱が光りながら開くと、中からなんと下着姿のサナーが出てきた。
意味が分からない。しかも五体満足だ。
「……サ、サナー?」
「あれっ……手足がある!ナラン!手足が治った!」
俺に抱きついてきたサナーに唖然としていると係員の声が
「ナランはシャドーブリングを手に入れた!このアイテムの効果は、戦闘時に行動力が2倍になります。効果は永続です。では他の3人のターン終了までお待ちください」
俺はその場に座り込む。アイテムかあ……どうせこのサナーは古代遺物が作り出したまがい物で、ゲームアイテムに過ぎないんだろ……?もういいよ。そう言うのは……。どんだけ古代遺物に惑わされてきたと思ってるんだ。
俺が周囲をはしゃいで飛び回るサナーに背を向けていると、サナーは俺の顔を覗き込んできて
「ナラン?所でここは何処なんだ?」
「……古代遺物の作り出すボードゲームの世界だよ」
「そうか……そこに呼ばれたから、多分手足があるんだな。なんでそんなに不機嫌なんだ?」
「……」
偽物に色々言っても仕方ないだろ、と思いながら背を向け、膝を抱えて黙っていると、サナーは嬉しそうにまた前に回り込んで来て
「どうせ私が偽物だと思ってるんだろ?」
ニヤニヤ笑いながらしゃがみ込んでくる。目を合わせないようにしていると、サナーは恥ずかしそうに
「……今日の昼寝前にもミヤに散々可愛がられたんだよ……トイレと身体拭きとベッドで撫でられながらの添い寝のフルセットだぞ?服も自分で着られないんだ……くそお……そして起きたらここに居た」
サナーは大きく息を吐き、しばらく黙ると
「……安心しろ!私は本物だ!私が保証する!ナランの奴隷のサナーだよ!私が信じる私を信じろ!」
間違いなく俺がよく知っているサナーな発言をしてくる。俺が目を合わせると
「どうやらここには、金髪不幸振りまき女は居ないし、黒髪落ちこぼれリアル悪魔も、その姉の優しいアンジェラも私のファン一号のフォッカーも居ないようだな……」
ニヤーッと笑うと下着を全て脱ぎ捨て
「つまり!ナランと愛を育み放題ってこと……」
そう言った瞬間にはサナーは元のように下着を着ていて、俺と二人、並んで立っていた。
係員の声が
「ナランさんのターンになりました。サイコロを振って下さい」
サナーは悔しげに何かを言おうとするが言葉が出ないようだ。俺は黙ってサイコロを振ろうとするが何故か手が動かない。10秒ほどすると自然に手が動き、放り投げられたサイコロが宙で回りそして「2」の目でピタッと止まる。
俺とサナーは自動で前方に進んでいき、足早に草原を超え、その先の洞窟には入らず、その横道を進んでいき、沼地に沈む廃墟群の前へとたどり着いて停止した。沼地から廃墟を破壊しながら巨大な灰色に発光するスライムがせり出してくる。係員の声が
「デススーパースライムが出現しました。戦闘を開始します。この戦闘はどちらかが全滅するまで続きます。ナランさん達の戦闘ターンからです」
「……」
いやこれ……無理だろ……今度こそゲームオーバーだよこんなもん……。俺が呆然と廃墟群を覆い尽くすスライムを見上げていると、隣のサナーが
「あー!賢いサナーさんは分かったぞー」
そう言いながら、俺の手を掴んで沼地のほとりにちょっとだけはみ出ている巨大スライムの柔らかい身体に蹴りを思いっきり入れ、俺にもそうするように目で促してくる。
よく分からないが同じ場所を蹴ると、今まで動かなかった巨大スライムが俺達目掛け覆い被さってきた。死んだ……両眼をつぶったのも束の間、巨大スライムの身体は俺とサナーを避けるように土に落ち、そのまま動かなくなった。サナーは俺の手を取りスライムの身体に回し蹴りして、俺に目で促してくる。またサナーの真似をすると、スライムが巨体を横にスイングして攻撃してくるがまたもや何故か当たらなかった。サナーは嬉しそうに
「幸運の使者持ちのナランにボードゲームの敵ごときの攻撃が当たるわけないだろ!よしっ!ナラン!この調子でちょっとずつ削るぞ!いつか勝てる!」
「……う、うん」
なんとなくサナーの考えている事が分かって、俺はその果てしなさに絶望する。




