リメイクボード
抱き合ってキスをしている二人を俺たちが見つめていると、フォッカーが口を離した瞬間、エロマンが
「もっ、もういい!エロくていい!王子様!私をさらってくれ!」
フォッカーは今さら困った顔でこちらを振り向いてくる。老人が微笑みながら
「……エロマンや。その覚悟は変わらんかね?」
エロマンは何度も頷くと、フォッカーの胸に顔を埋めた。老人は俺を見ると
「母のマロンにはわしが説明する。数十年ぶりの再会じゃが良かろう。行きなさい。リメイクボードを持って」
「……」
いやもうわかんねえよ!王族さらった挙句に古代遺物も持って行って良いのかよ!?俺が固まっているとアンジェラが
「エロマンさんが今世代のリメイクボードの所有者なのね。分かりました」
了承してしまい、そしてリースが
「デスティンさん、ご案内頂いても?」
老人は首を横に振り
「エロマンか、婿殿に案内してもらいなさい」
エロマン以外が俺を見てくるので頷くしかない。
確か……こっちだったよな。という判断の連続で気付いたら、皆を連れて塔の扉の前にいた。エロマンが扉の鍵を回し、開けると青白い渦巻く光に部屋中が照らし出されていた。それはよく見ると殺風景な石造りの部屋の奥に飾られた1枚の絵画から発せられていた。
リースが吸い寄せられるように近づいて行くと青白い光は瞬く間に絵画の中へと吸い込まれ、歓声が部屋中に響き渡り、額縁の中には白いタキシードとドレス姿の俺とリースの結婚式の光景が映し出されていた。無数の人々が赤い絨毯が真っ直ぐ敷かれた街の大通りを歩いていく俺たちを祝っている光景だ。
「ああ……凄い……」
覗き込もうとしたリースの腕をアンジェラが引っ張って引き離すと
「リースちゃんは魔力はそれほどないから、それ以上は危険だわ」
呆けた表情のリースを俺に渡してきたので抱き寄せると、気付いた顔になり
「あっ……あれ……結婚式は?」
「あの絵に魅了されてたみたいだよ」
リースは恥ずかしそうに俺に強く抱きついて来る。
アンジェラは大きく息を吐き、自らが近づいて行くと、今度は絵の中には、玉座に座り怪しい笑みを浮かべた……何と、ミヤが居た。絵の中のミヤは局部だけを隠した際どい格好で、アンジェラに妖しく手招きする。アンジェラは苦笑いすると、入口付近まで下がり
「まあ、そうね。理想の一つではある。具現化の仕方としては原始的且つ短絡的に過ぎるけれど」
難しい事を呟きながら、フォッカーに抱きついたままのエロマンを見た。
エロマンは、また光の渦を放ち出した絵を見つめると
「王子様、私の……本当の姿を知って欲しいんだ」
フォッカーは半ば強制的にエロマンに抱きしめられたまま絵の近くまで連れて行かれた。そこからは、もう……うん、一切言葉にしたくない凄い倒錯した性愛の世界がエロマンとフォッカーをモチーフに絵画の中で音声付きで無数に繰り広げられ……うん……俺もリースも途中で吐き気が止まらなくなり退出した。
二人して外で並んでしゃがみ込んでいると、アンジェラも出てきて涼しい表情で
「エロマンさんの妄想の愛欲の世界を具現化したのね」
「すげー気持ち悪かった俺は、間違ってるんでしょうか?」
アンジェラは首を横に振り
「他人の混じり気無しの性的趣向なんて気持ち悪くて当たり前よ。でもパートナーは受け止めないとね」
「フォッカー……」
彼は酒に酔った勢いでリブラーの策略にはまり、とんでもないド変態をゲットしてしまったらしい。リースが俺の肩に手を回して不安げに
「わ、私も……もっと恥ずかしいこと色々やった方が?」
「い、いや、今のままでお願いします」
ホッとした表情の後、リースは微笑む。
しばらく外で待っていると中からフォッカーの声で
「ちょっ!ちょっと待って!」
「落ち着いてエロマンさん!それは!」
そしてエロマンの声で
「はわー!しゅきいいいい!王子様しゅきいなのおおおおお!」
「ふおおおお!しゅきがとまりゃないいいいいのおおおおお!しゅきしゅきファイアー!しゅきしゅきファイアじゃんぷー!うおっほ!うおっほ!エロマンオリジナルラブファイアー!うおっほおおおおおおん!」
さらにフォッカーが
「ぬおおおおお!……あーっ!ふあああ!」
外で俺たち3人は無言で固まる。しばらくフォッカー達の喚き声を聞いた後、アンジェラが
「地上風に言うと、エロマンさんの推定レベルはファイアモンクレベル69とファイアウィザードレベル66よ」
「……ファイアモンクって格闘系の珍しい上級職では……」
リースが呟くと、アンジェラは真顔で頷いて
「ちょっと燃えてるわ。リアルに」
小さな爆発音の様な音も室内から連続で響いてきた。俺はさすがに心配になり
「止めないでいいんですか?」
「……どうかな。他人のプライベートでしょ?」
「いや、怪我的な意味で」
「自分を燃やしてるから大丈夫よ。フォッカーさんはちょっと熱いだけだし」
「そ、そうですか」
ド変態の世界はもはや俺には想像がつかない。
1時間程待っていると、中から汗だくのフォッカーが顔だけ出してきた。
「あの……服が燃えちゃって」
「怪我は無かったか!?」
慌てて尋ねるとフォッカーは恥しそうに
「……ない……です」
しかもちょっと痔持ち良さそうなのが……いや、もう色々考えないでおこう……。
「よ、よかったな……」
アンジェラが大きく息を吐くと、階段を風の様に降りていき、瞬く間に何処かから二人分の着替えを持ってきた。
しばらく待ち、室内へと入ると服を着たフォッカーが立っている横に、服を着たエロマンが目を閉じて寝そべっていた。
「寝てたので着せました……」
アンジェラは微笑むと、壁にかけてあった発光を止め真っ白になったリメイクボードを額縁ごと外し
「理想を現実が超えたから、混乱して機能停止してるわ。もう安全よ」
俺に渡してきたが
「そ、そうですか……」
としか言えない。一応受け取っておく。もはや何が何だか分からない。アンジェラは満足げに
「じゃ、塔を降りて、飛行船へと帰りましょうか。捕まる前に」
俺たちに言ってきた。
アンジェラは俺たちを二人ずつ、宮殿から森に停まっている飛行船の横まで飛んで連れて行くと、飛行船の扉をリモコンで開き、タラップが伸びてくるのを確認すると律儀に
「ホテルをチェックアウトして来るわ」
と言ってまた飛んで行った。
「……」
とりあえず、フォッカーがエロマンを背負い、俺とリースと飛行船に乗り込んでいく。
リメイクボードを横に立てかけ、座席に座りながら思う。正直、忙しすぎる。俺、何時間寝たんだろう……。夜中にプラチナシティに入り、朝になる前に出て行くという、とんでもない早さだった。
「ナラン、楽しいね」
隣のリースは上機嫌なので、その笑顔でようやく、なんとなく色々と許せる気がし始めた。アンジェラが戻ってきて、前方のパネルにリモコンをはめ込むと、扉は自動で閉まり、飛行船は浮き上がり始めた。
「次はニャバロンを目指すわ。サーガ共和国の麗しの都よ。宮殿内のアンリミテッドボードも見学してみましょう」
アンジェラは微笑んでくる。フォッカーはエロマンの隣で気絶するように寝ていて、俺はまた強烈な眠気が襲ってきつつある。




