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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
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サーガ共和国上空

 飛行船は夕暮れの中、北へ向け飛びはじめた。俺はかなりの時間呆けていて辺りが暗くなり始めてから

「あっ……領主館とか……上から見……」

と言いかけ、アンジェラから苦笑される。

「リルガルムはとっくに通り過ぎたわ」

「ですよねぇ……」

ベルトを外して立ち上がる。操縦室内は謎の明かりが天井から照らしていて明るいが、外は夜の闇が包み込んできていて殆ど状況が分からない。吹き付けてくる風の音と微かな機械の駆動音が響いてくるだけだ。ちなみにリースとフォッカーは気絶したまま寝ている。


 アンジェラは満足げに外を眺め

「サーガ共和国は、空挺部隊が居ないのよ。領空に侵入する時間も完璧ね」

「……いきなり撃ち落されることはないわけですね」

「そういうこと。空の旅を楽しみましょう」

「サーガ共和国って、どんな国なんですかね?」

ふと思いついたので尋ねてみると、アンジェラは

「んー……国家としてはそれほど大きくないわ。近年、有能な民間人が傾きつつあった国の財政を立て直しつつある感じよね」

「そうなんですか。うちの国との紛争に参加したりとかも一応、俺やリースは経験してて、その時に出会ったのがフォッカーなんです」

気絶している二人を横目にそう言うと、アンジェラは微笑み

「調査済みよ。その戦で大物貴族の子弟を捕獲したのよね。ただ、相手方は共和国だからね、貴族や王族はあなたたちの国ほど権力は強くないわ。民間人交えた議会主導で政策を決めて行く政体ね」

「……で、何がアンジェラさんの気を引いているんですか」

当然の質問だと思う。このヒトが目的もなく行くわけもない。アンジェラは特に隠す様子もなく

「古代遺物があるからに決まってるでしょ?リブラーやモノラースみたいなね」

やはりそうか。少し考えた後、それについて尋ねようとするとアンジェラは口に人差し指を当て

「現地についてからのお楽しみ」

「……」

黙って頷く。

「うーんナラン……腋を舐めちゃだらめぇ……」

いきなりリースの寝言が耳に入り、何故か俺が顔を真っ赤になる。というか顔が熱くなっているので間違いなく耳まで真っ赤だろう。アンジェラは真顔で

「欲求不満なんじゃない?」

「い、いや……結構、相手してますよ?」

「ぶはっ……あ、失礼、起きるタイミングが無くて」

ずっと寝たふりをしていたらしいフォッカーが謝ってきた。

「今度、色んな技を教えましょうか?」

アンジェラの意外な言葉に、フォッカーが立ち上がり

「ぜひ!俺に!」

「やめとけって……」

「そうですかねぇ……ヒトの夜の営みも知りたいですけど……」

あのオーガの女王が中途半端にフォッカーをまさぐったようで、どうやら真の欲求不満はこの男らしい。


 飛行船は闇夜の中、ゆっくりと進み付け、二時間もすると遠くに煌々とした大都市の灯りらしきものが見えてくる。

「プラチナシティね。サーガ共和国の王族たちの領地よ」

フォッカーが思い出した顔で

「あ、あの……確か、この街だけは……防空に……」

コンコンと窓が人から叩かれ、俺とフォッカーがそちらを恐る恐る見る。


 灰色のローブを着たスキンヘッドで眉毛のない痩せこけた老人が満面の笑みを浮かべ、窓に張り付いてアンジェラを見つめていた。

アンジェラは黙って、扉の方を指さすと

老人は即座に扉の近くに移動して、アンジェラが手を翳し、念力で一瞬だけ扉を開くと、スルリと入り込んできた。

身長百六十センチほどの小柄な老人は

「兄ちゃんたちと、そこの悪魔さんや、領空侵犯じゃわ。こげん立派な空飛ぶ船に、我が国が通行許可証は出した覚えがないがのお」

得体のしれない老人の雰囲気に俺とフォッカーが黙り込んでいると、アンジェラは全く動じずに寝ているリースを指さし

「座席で寝ている方はリース・ウィズ様よ。非公式の視察ね。私はリース様のお友達で、そっちの二人はリース様の婚約者と、とある傭兵会社の使者よ」

老人は俺たち四人を舐めるように見つめると

「ふふふ。嘘ではないか。いや使者ではないが、これからそうなるということかの」

「あっ……ナラン……ちょっと激しいかも……ぐうぅ」

リースの寝言で、また俺が顔を赤くしていると老人はニコニコしながら

「仲良きことはすばらしきことかな。ところで悍ましきお客人たちは、どの王族に呼ばれたんかな?」

アンジェラは待ってましたとばかりの表情で

「アン女王よ」

聞きなけない名前を言った。老人が苦笑いしながら

「とうとうアークデーモンと戦争の火種までをも呼び寄せたか。あの子のミリオンボード好きも困ったもんじゃ」

老人はそう言うと、気を取り直した表情で俺たちを見つめ

「くれぐれも我が国を乱すでないぞ?事を起こせば、このディスティン・サーガがお相手仕る」

とだけ言うと、自ら扉を開け、闇夜の中へ落ちていった。フォッカーが怖怖と

「伝説は本当だったんですね。先王の一番上の弟が生きていて、王族の街を空から守っているって……」

「あの爺さんも王族なのか?」

フォッカー何とも言えない表情で頷くと

「共和国公式では行方不明ってことになっています。果たして一人で隠れて守っているのか……国として隠しているのかは……」

アンジェラがブルっと全身を震わせ

「……やはり魔力が無かったわ。これは報告するべきか……」

「まっ、魔力が無いのにこんな高い場所まで?」

フォッカーが難しい顔で

「不思議な力を使うという伝説も本当だったんですか……」

アンジェラは外を向いたままもう答えなかった。


 アンジェラがはめ込まれた鉄の延べ棒の凹凸を押すと飛行船は静かに暗闇の中降下し始めた。

「プラチナシティ郊外の森に降下するわ」

俺たちは黙って頷く。ここは信用するしかない。リースはまだ眠ったままだ。

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