リモコン
「な、なんか、すごく長く拘束されていた気がします……」
自由になったフォッカーが自らの身体をパンパンと軽く叩きながら言う。アンジェラがニコリと笑うと、顔を真っ赤にしながらチンチンのポーズで尻尾を振っているオーガの女王を長身から見下ろし
「ふっ」
と軽く噴き出すと、自らの胸元から長い布切れを女王に向かって投げた。
「腰に巻きなさい」
女王は一瞬、キョトンとした表情をした後、渋々と腰に布を巻き付けて立ち上がった。
「うぅ……美しいわらわの身体を何で隠さねば……」
などと愚痴っている女王にアンジェラは
「空飛ぶ船を探してるんだけれど」
凍り付くような冷たい微笑みを向ける。
女王がまたまた気配を消していた俺に涙目を向けてきたので
「……知ってるなら、よこせ。今すぐ」
サナーだったらこうだろうなと想像しながら言うと女王は渋々と頷いて、トボトボと室内の横壁を押して土を崩し、隠し入口を開いた。
土壁に囲まれた狭い室内の中心には、古びた机が置いてあり、その上にはポツンと
埃を被った細長い錆びた金属の延べ棒が置いてあった。アンジェラは躊躇なく延べ棒を手に取ると裏返し、その表面の凹凸に目を細め
「ふむ……リモコンね。動力は魔力と」
そう言いながら、延べ棒を握りしめた。うっすらと紫色に光り始めた延べ棒に女王は驚いた顔で
「そ、それを使えるのかえ?」
アンジェラは事も無げに頷いて
「これの本体の位置は特定した。目標達成ね。帰りましょうか」
俺とリース、そして服を取り戻して着ていたフォッカーに言う。
翼を背中から出したアンジェラは俺たち三人を長い両腕で抱え、あっさりとビルの屋上から下まで飛び降りた。
屋上からオーガの女王が何か叫んでいるが遠すぎて聞こえない。フォッカーが何となく名残惜しそうに
「連れて行かなくていいんですか?」
尋ねてくるが、アンジェラはニコリと微笑み
「ちょっと、性的に過ぎるでしょ?」
リースを見つめる。リースは難しい表情で頷いて
「うーん、確かにナランに近づけたくない感じはするかも……」
俺は苦笑いしかできない。フォッカーはまた名残惜しそうにビルの屋上を見上げ
「……如何にも田舎娘で下手でしたけど、磨けば光るんだけどなぁ……」
失言をしてリースに軽く睨まれた。
遠巻きに付いて来るオーガたちに見守られながら、割れた足元に気をつけながら歩き、そして半分ほど崩れ落ちたビルの中へと入り込む。中はガレキだらけだったが、あっさりとアンジェラが手を軽く払った衝撃波で粉々にして奥の通路までの道を造りだした。足早に歩いていくと通路の下は四角い縦穴になっていた。アンジェラは、軽く息を吐いて
「エレベーターの通路よ。さっ、降りましょうか」
有無を言わさず俺たち三人を長い両腕に抱え、下へと一気に飛び降りた。
錆びた金属の足元に着地すると、直後にアンジェラは思いっきりその金属床を踏み抜き穴を開け、下へと飛び降りていき、俺たちも続く。飛び降りた下は、錆びた金属の四角い箱のような部屋で手前は両開きのドアノブのない扉が中途半端に開いたまま止まっていた。アンジェラは身体を横にしてその間を通っていき、俺たち三人も続く。
真っ黒な通路を、爪に火をともしたアンジェラを先頭に進んでいくと錆びた巨大な金属の扉に突き当り、アンジェラがそれを手を横に払って出した衝撃波で粉々にした。
その先には、真っ黒で広い空間に一隻の船体の金属部分が錆びた飛行船が置かれていた。
アンジェラは、爪に灯した火を大きくして天井付近まで飛ばし全体を照らし出す。
「……すごい、まるで王族が使っている飛行船のような」
リースが驚愕の声を上げる。俺も人生で何度か似たものが空を浮いているのを見たことがある。滅多に見ないので目の前に本物が佇んでいるのが不思議な気分だ。アンジェラは気に入った様子で
「持ち主がアンティーク趣味だったみたいね。使われた形跡もないわ」
そう言いながら鉄の延べ棒を船体に向け、凹凸を何度か押した。すると船体の横から錆びた金属のタラップが自動でシュルシュルとこちらへと伸びてきた。アンジェラを先頭に全員でタラップを上る。




