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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
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井戸の下

アンジェラの身体に掴まってリースと共に井戸の下へと降りていく。底の方へと行く程、ぼんやりと明るくなっているのが分かる。アンジェラは真剣な口調で

「光り苔よ。古代遺跡を覆いつくしているわ」

確かに依然見たビル街のような形の上にボンヤリと光るコケが覆いつくしている。アンジェラは静かに光るコケ塗れのビルとビルの間の道路だったであろう場所に着地した。


 足元も光るコケに覆われていて、視界は悪くない。

「毒とかはないんですよね?」

リースが尋ねるとアンジェラは頷いて

「ない。ないけれど、魔力をかなり含む植物だからこれを好物にしてる者達が居る」

そう言いながら、いきなり遠くのビル街の間に光線状の炎魔法を右手の人差し指から照射した。猛烈に爆発したその中から

「なんてことするんだぎゃ!」

「悪魔ー!ひとでなしー!この悪魔ー!」

甲高い声が響いてきて、こちらへと数体の四つ足のモンスター……いや人か?筋肉質な女たちが四つ足で走ってきた。胸と腰にサラシを巻いているだけの恰好で頭からは真っ赤な角が生えている。尻からは真っ赤な長い尻尾が伸びているようだ。三人で彼女たちは、俺たちの近くまで駆けてくると、俺を指さし

「あっ……」

と顔を赤くして一塊になると、ヒソヒソ話し始めた。アンジェラはその様子を長身から冷静に見下ろしながら

「オーガよ。鬼ね。人間との混血モンスター」

「あの、アンジェラさん……なんでナランに顔を赤らめて……」

リースが微妙な表情で尋ねると、アンジェラは何でもない様子で

「オーガたちには男性は生まれないのよ。なので人間の男性の精液が必要なの」

俺はその場でがっくり項垂れる。そうか、それでフォッカーが攫われたのか……いやでも

「アンジェラさんなら取り返せたんでは?強くはなさそうですけど」

アンジェラは大きくため息を吐き

「我々の世界の約束事で、我々ヒトは生き物の頂点として他種族を保護しなければならないの。特にオーガは生命力の弱い種族だから、その繁殖行為に手は出せないわ」

リースは笑うしかないと言った顔で

「じゃあフォッカーは絞られてるんですか?」

「まだだけど、これから盛大にそうなるでしょうね。早めに交渉で取り返して欲しいわけ」

向こうでボソボソと話し合っていたオーガたちは、いそいそと俺の方へ近づいてきて

「あ、あの……お兄さん……我々といいことしないきゃ?」

「悪いようにはしないぎゃ。至福の快楽を与えるぎゃ」

「そうだぎゃ、お兄さん強そうだぎゃ」

ムッとした顔でリースが俺とオーガ間に入ると

「はーいだめだめー。このオスは先約済みー。どうしてもっていうなら、私を倒していきなさい」

と言いながら懐から取り出した短い棒を瞬く間に組み立て、長槍へと変化させ構えた。オーガたちは数メートル遠ざかり

「けちー!減るもんじゃないぎゃ!」

「赤ちゃん欲しいだけだぎゃ!」

「あんたにも迷惑かけないぎゃ!我々が育てるぎゃ!」

両手を広げて大げさな動きで抗議してきた。

リースもむきになって顔を真っ赤にしながら

「ダメだって!!ナランはウィズ家で王族になるの!オーガの婚外子が居たら後々ややこしくなるでしょ!」

オーガたちはその瞬間にピタッと止まり

「もしかして、あんたヘグムマレー様知ってるぎゃ?」

「知ってるも何も私のお父様よ!!」

リースがそう大声で告げた瞬間、付近のビルから、どんだけ見てたんだよと言うほどのオーガたちが大量に這い出てきて、そして俺たち三人を囲むと、一斉に土下座してきた。ヨボヨボの年老いたオーガが進み出てきて

「こ、これは姫様に失礼いたしましたぎゃ……あのお方には、この場所を見つけていただき、我々は細々とここと地上を行き来して営んできたんですぎゃ」

リースが唖然とした顔でアンジェラを見つめる。彼女は困った顔で上を見上げ

「あなたのお父様に、嵌められたわね」

と言った。どうやらそのようだ。


 光る苔むした古代都市をオーガたちをゾロゾロ引き連れながら歩いていくと、一際高いビルが見えてくる。光る苔も大量にへばりついていて明るくて目立つ。アンジェラはその一番上を指さし

「あなたたちの女王がうちの仲間を盗んていったわ」

老婆のオーガは恐縮しながらも

「……ヨモ様は聞きわけがないのです。察して下さいぎゃ」

次の瞬間にはアンジェラが右手を横に軽く振り、ビルの屋上まで続く半透明な幅の広い階段を創り出していた。

「時間短縮よ。絞られる前にフォッカー君を取り戻さないとね」

俺とリースは頷いて、階段を上り出す。背後ではアンジェラが立ち塞がり、上ろうとするオーガ達を止めていた。


 ビルの屋上へと辿り着くと、苔に覆われた土壁で出来た家があり、その幕の垂れた入口の付近では、屈強な女性オーガたちが身構えていたが俺を見た瞬間に

「おっ、男だ……強そう……」

などと言いながら頬を染め涎を垂らし始めた。リースが慌てて

「私はヘグムマレー・ウィズの娘であるリースです!そこを通しなさい!」

と言った瞬間、オーガたちはあっさりと信じ、頭を深く下げながら道を開けた。後から階段を風の様に上ってきたアンジェラが指を鳴らし、階段を消すと

「ちょっと覚悟してね」

俺たちに言ってくる。俺もリースも深く頷いて入り口の幕をくぐった。


 中では、縛られて猿轡を噛んだ裸のフォッカーが全身を若いオーガから撫でられて悶絶していた。

「ほれほれ……ここがいいんじゃろう?ここかえ?」

緑髪の全裸のオーガは俺たちに気づくと不機嫌そうに

「なんじゃ。邪魔するでない」

端正の顔立ちから緑の両目を光らせて睨みつけてきた。リースがすぐに

「ヘグムマレーの娘のリースよ。私たちの仲間を解放しなさい」

胸を張って言うと、オーガはゆらりとこちらを見ながら立ち上がった。

「人間の王家かぁ……我らをここに閉じ込めて幾年が経った?」

「し、知らないけど、そこはお父様に言ってよ」

オーガはさらに近づくと、引き締まった体を見せつけるようにリースの前に立ち

「……どっちが女として上か、はっきりしとるじゃろう?なぜ、我々はここに居続けねばならんのか」

リースが困った顔でアンジェラを振り返ると、アンジェラはため息を吐いて

「人間が受け入れると繁殖し続けて、オーガとの相の子が増えるからね。それで隔離をしているのでしょうね」

アンジェラは俺の背中を押して前に出すと

「この子が解決してくれるから」

言ってきた。気配を消していた俺は急に先頭になり動悸が止まらなくなる。


 数秒間、オーガの女王に見つめられた俺はここは仕方ないと割り切って

「リブラー」

小声で呟いた。いつもの声が頭の中で


この場を解決する方法は単純です。このオーガの女王を従わせるだけです。彼女は生来の女王と言う立場により、他者から尊重され自らが強く尊貴な存在だと自覚していますが、その為に自らの強いマゾヒズムに気づいていません。モノを扱うように、彼女に向けて命令を下してください。決して弱気になってはいけません。ナランさんの強気のみでこの場は解決します。


「……」

しばらく言葉を失くす。ほんと久しぶりに使ったら使ったでしょうもない解決方法を囁いてきた。しかし、他に良さげなやり方も思いつかないので仕方なく

「おい、ブス。フォッカーを解放しろ」

「な、ナラン?」

リースが驚いた顔をしてくるが、目を合わせて俺は頷いた。リースは即座に察してくれたようで後ろに下がる。オーガの女王は明らかに動揺したひくついた表情で

「オーガで最も、う、美しきわらわに、ぶ、ブスとは……」

「うっせえブス。さっさとフォッカーを解放しろ。舐めてんのか」

俺はサナーの口の悪さを思い出しながら無理して悪口を連発する。オーガの女王は涙目になり

「なっ、舐めてなどいない……な、なんと失礼な奴だ。こうなったら……」

腰を落として、俺に殴りかかる体勢になってきた女王に大きくため息を吐いて

「勝てるわけねぇだろザコ。さっさと這いつくばって許しを乞え。そしてフォッカーを解放しろ」

女王は腰から砕けるようにヘナヘナとなっていき

「う、うそだ……わらわはオーガ最強でもっとも美しい……。人間の男の言葉程度に負けるわけが……」

俺はもはやサナーになりきって、次にサナーが言うであろう言葉を口にする。

「お前はもう俺のペットだぞ?女王なわけねぇだろ。さっさと四つん這いになって、犬の真似をしろ。アホでも地上の犬くらい知ってるよなあ?」

絶対あいつなら、この圧倒的に優位な状況で調子に乗ってこう言うはずだ。そしてなんと、女王はプルプルと震えながら四つん這いになり

「わっ、わんわん……わんわん……」

犬の真似をし始めた。縛られているフォッカー含め全員が驚愕する。


 きっ、効きすぎだろ……何なんだよ……どうなってるんだ……。言った本人の俺が戸惑っているとリースが意を決した顔で

「おい、ダメワンコ。フォッカーを早く解放しろって最強のナランが言ってるけど?」

強めな口調で四つん這いになった女王に告げると

「わっ、わん……わおーん」

女王は長い尻尾を振りながら、あっという間にフォッカーの拘束を解いた。アンジェラはホッとした顔で

「よしよし、あとは空中を移動できる装置を探してもらおうかな」

と言う。

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