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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
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古井戸

話を聞いたヘグムマレーは

「申し訳ないんじゃが、ちょっと移民を定住させるために我が娘とナランさんが必要でなぁ」

髪のない頭頂部を撫でる。アンジェラは微笑みながら頷いて

「じゃあ、仕方ないわね。終わり次第また来るわ」

そう言うと、窓を開け長い脚で跨ぎ、そのままスルリと脱げ出たかと思うと、漆黒の翼を背中から生やして月夜に飛んでいった。ヘグムマレーは軽く息を吐いて

「二日後くらいかのう。サナーさんたちにも予め言っておくべきじゃ」

俺は真剣に頷いた。そう言えばモノラースにサナーが寄生されたのは俺が勝手にリースを迎えに行ったからだ。伝達したり事前の話し合いは大事だと痛感している。


 翌日からは、俺とリースはヘグムマレーとタックリンに連れられ元山賊たちの定住候補地を周りはじめた。モグと数名の元山賊代表者も同行していたので四か所周ったところ、時間にして半日ほどで定住地は決まった。近くに川も山もあり、村の廃墟などもない場所でリルガルム地方内での移動も簡単な北西の位置となった。


 モグとヘグムマレー、そしてタックリンは生活が安定するまで税金は一切取らないなどの話し合いを始め、俺とリースが近くでそれを見守っていると、いつの間にか横に、全身ピッタリとした黒づくめでつばの大きなブラックハットを頭に斜めに被ったアンジェラが立っていた。

「終わったみたいだけど?」

俺は苦笑いして

「まだ、サナーたちに話してないんですよ」

アンジェラはニコリと微笑むと、静かに向こうで話し合いをしているヘグムマレーに近づいて行き

「そろそろいいかしら?」

ヘグムマレーは一度話をやめると、アンジェラと共にこちらへと来て

「どうやらアンジェラさんは待ちきれんらしい。付き合ってやってくれ。ただサナーさんたちに説明はしてほしい。少し離れた場所から、領主の館まで二人を飛んで連れて行ってもらえんかね?」

アンジェラは微笑んで快諾した。


 少し離れた森の中からアンジェラの両脇に俺とリースはそれぞれ抱えられながら大空へと飛び、次の瞬間には別の森の中へと着地していた。目を回しながら、すぐ近くの領主の敷地内へ歩いていくと、広い敷地内でテントを張って野営している数百人の元山賊たちが居り、さらに屋敷へと近づいて行くと、ちょうど屋敷内からミヤに抱えられたサナーが出てきたところだった。姉を見たミヤは一瞬サナーを落としそうになり、慌てて踏ん張って留まり

「……うわぁ……」

心底嫌そうな顔をこちらへと向けてきた。

アンジェラは微笑みながらミヤに手招きをする。


 アンジェラは心底嬉しそうに

「久しぶり。もっと自由に地上を動き回れる権利を得たわ」

ミヤは舌打ちをして

「よかったね」

とだけ言い、サナーをリースに預けると俺の背中に隠れる。アンジェラは微笑みながら

「サーガ共和国への旅行にナランさんとリースさんを連れて行こうと思うの。ミヤちゃんも来る?」

「行かない。サナーちゃんと待ってる」

リースに抱えられたサナーは慌てた顔で

「まっ、待て。私も行くに決まってるだろ!」

アンジェラは微笑みながら首を横に振り

「数日前から、あなたたちを監視していたけれどサナーちゃんの魔力はナランさんによくないわ。少し離れていた方がいいと思うの」

「……う、モノラースのせいか……」

サナーはリースに頭を撫でられながら黙り込んだ。ミヤが俺の背後から顔を出して

「……姉貴、あんまり私に近づかないでよぉ……」

アンジェラは意外にも頷いて

「そうよねぇ。ちょっと世界旅行に行ってみたいなとも思ってるのよねぇ。サーガ共和国だけじゃ面白くないかも」

サナーがいきなり意を決した顔で

「リースとナランと世界旅行に行ってこい!私はミヤと一緒に、ナランの居ない中で頑張ってみる!」

さすがに俺が心配になって

「いやいやいや、大きく出すぎだろ……無理しないでいいんだぞ?数日で帰ってくるつもりだし」

サナーは首を横に振り

「いや!ダメだ!あとアンジェラ!私の手足を治してくれ!今すぐ!」

リースとミヤも頷く。アンジェラは同情した表情で

「……うーん、ナラン君にもそれ訊かれたけど、あのね。治せなくもないんだけど、あなたの手足とは別のものをつけることになるし……それにあなた、今は手足が無い方が良いんじゃないの?」

「どういうことだ?」

真剣に困惑したサナーにアンジェラは軽い調子で

「寄生されてる古代遺物を全くコントロールできてないもの。手足がない方が暴走しなくていいんじゃないかなーって」

「うっ……そうかもしれない……」

というか手足がモノラースから勝手に外されている時点でそうだろ……と俺が思っていると、フォッカーが敷地内から駆けてきて

「あれ、アンジェラさんですよね?どうしました?」

不思議そうに尋ねてきたので、サーガ共和国に数日行くという話がいつの間にか世界旅行になりつつあるというと

「あ、俺も行きたいです。見分広めたいと思ってました」

あっさり乗ってきた。アンジェラは微笑んで

「よし、じゃあ、抱えて飛んでいこうと思っていたけれど付近の古代遺跡から、飛行船でも探しましようか」

良く分からないことを言ってくる。


 アンジェラに連れられて敷地内から少し歩いた森に枯れた大きな古井戸前へと行くと、彼女は古井戸の分厚く直径三メートルはありそうな石の蓋を軽々と外し

「……壊していいかな?ちょっと訊いてくるわね」

と言った次の瞬間には森の木々の遥か上へと飛び立っていた。

皆で古井戸の底を見下ろしていると、ミヤが呆れた顔で空を見上げ

「テンション上がってる時の姉貴はほんんんんんんっっっととと迷惑!」

全力で文句を言う。俺が苦笑いしながら

「あれはやる気満々なのか?」

そうは見えない。ミヤは何度も頷いて

「どうせ予め、ここの古井戸も調査してたんだって!ああああもうううぅぅ!なんなんあの人っ!」

ミヤは森に向けて吠え出した。かける言葉もないのでそのままにしているとアンジェラが空から急降下してきて、古井戸の横でピタッと止まる。ミヤもピタッと黙り込んで俺の背中に隠れる。


 嬉しそうなアンジェラが

「破壊しても良いと言われたわ。行きましょう」

そう言うと、いきなり古井戸の底に向け、かざした右手から稲妻が炎の玉を包んでいる魔力球を放った。すぐに底の方で破壊音がして、辺りの地面が微かに揺れる。アンジェラは大きく息を吐くと

「ちょっと、フォッカーさんついてきて、多分すぐ終わるから」

「あ、喜んで行きますよ!」

フォッカーはアンジェラの身体に抱き着いたまま古井戸へと潜っていった。

ミヤは姉の姿が見えなくなると、また怒った顔で

「いっつつも自分だけじゃん!他人の都合も考えないでさ!」

リースに抱えられたサナーが呆れ顔で

「文句言いすぎだろ。そんなに姉ちゃんが居ない期間が楽しかったのか?」

ミヤは怒りながら何度も頷いて

「当たり前でしょ!!せっかく私が地上で自立しかけてたのに!」

「いや、自立してないだろ……私もお前もナランに養ってもらってるだけだ」

俺はさすがに見ていられなくなり

「サナー、それは言いすぎだろ。俺一人じゃ何にもできんぞ」

サナーは顔をしかめて

「でもナランが居ないとミヤだってもう死んでるだろ。前にこの地方で他の騎士に遭遇した悪魔たちは死んでるんだぞ?」

ミヤが戸惑い顔で

「そ、それはそうだけど……」

「派遣の初仕事でエロい恰好で死ぬんだぞ?それを救われただけだろ。生きてたとしてもナランと暮らしてなかったらエロい恰好のまま、人間から隠れてリンゴとかで飢えをしのいで、野山で独りウンチとかおしっことかしながら生きるんだぞ?トイレもない場所で。当然アンジェラはそんなお前を大喜びでカメラで撮り続けるわけだ。助けもせずにな。そんなお前が平穏に暮らせるのはナランのお陰だぞ?」

「……サナーちゃん……日頃の恨みを晴らしてるでしょ……」

ミヤの言葉に俺も頷くしかない。いくら何でも嫌味を付け足しすぎだ。サナーは真剣な顔で

「いいか?お前は私と同じで所詮はナランの奴隷なんだ。奴隷が自立してるか?してないよな。ナランがエロい恰好しろと言えばしなければならないんだぞ?自分が雑魚悪魔でしかないことを分かっているのか?」

「……サナーちゃん……」

ミヤはフルフルと震え始めた。俺は止めようと

「サナー、ちょっと本気でやめろ。調子に乗りすぎだろ」

サナーは悔しそうな顔になって

「……私だってナランと一緒に世界を周りたい。ちょっとくらい文句も言わせてくれよ……毎日丸出しで拭かれてるんだぞ……」

ミヤはいきなり吹っ切れた顔でサナーを見ると

「自立できてなくても、サナーちゃんの介護はできるし!そろそろおトイレの時間だし!」

と大声で言うと、リースからサナーの身体をひったくり

「まっ、まてえええ!!牛乳を入れるのだけはやめてくれええええ!自然に出る!自然に出るからあああああああ!」

サナーの悲鳴と共に物凄い勢いで屋敷の方へと駆けて行った。


 リースが苦笑いしながら

「置いて行っても大丈夫そうね」

俺も頷いていると、古井戸から猛烈な勢いでアンジェラが上がってきて少し困った顔で

「フォッカーさんが捕まっちゃったわ。手伝ってくれる?」

と言ってきた。あっさり終わると思っていた俺とリースは大悪魔の意外な言葉に戸惑うしかない。

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