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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
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再びリルガルム地方へ

十一台の荷馬車と数百人の元山賊と共にリルガルム地方へと進んでいく。俺たちの荷馬車の御者のフォッカーが

「このペースだと深夜に領主の館に到着ですね」

振り返らずそう予測する。リースは頷いて

「そうね。一度、領内で野営した方がいいかもね」

座ったミヤに抱えられたサナーは欠伸をしながら

「なんか、平和過ぎるんだよなぁ」

ミヤがニヤニヤしながら

「そろそろ、おトイレの時間ですよねー」

サナーは俯きながら仕方なさそうに

「もう拭いてもらうのも慣れつつある……そんな自分が嫌だ……」

行列は休憩のために草原の道の真ん中で一度停止した。


 ミヤとリースが勇んでサナーを抱えあげると凄まじい勢いで遠くの森へと連れて行った。俺は荷車の上で、ホッと一息を吐く。

水をやったりと馬の世話を始めたフォッカーがこちらを見て

「まあ、穏やかですよ。元山賊さんたちも大人しいですし」

確かにこの馬車の後方で停止している荷馬車や休憩している人々は穏やかに談笑していて、緊張している様子はない。

完全にリースを信じ切っているようだ。


 その後、何事もなくリルガルム地方へと入っていき、低い山をいくつか越え平野に降りて荒廃した集落跡に入る。ちょうど日が沈んだので、建物跡を利用して朝まで休憩することになった。フォッカーが荷馬車から馬を外すと、近くの柵に手綱を括りつけ

「先に領主の館に行って、報告してきます」

と言いながら、歩きですぐに出て行った。

屋根のある建物跡での宿泊は元山賊たちの内、子供や老人たちに譲ったので、俺たちはテントを設営して、そこで寝ることにする。


 フォッカーは深夜に戻ってきて

「あっさり許可が出ました。到着したらリースさんと隊長と話したいそうです」

たまたま起きて、外で月を見あげていた俺に報告してきた。感謝を告げると

「領主様、喜んでましたよ」

「良かった」

俺達は朝まで休むことにする。


 何事もなく朝になり、皆で朝食を取り、そして、また平原の中を出発し始める。ミヤの膝の上のサナーが荷車の上で欠伸をしながら

「なーんか、つまらんなー。なんの嫌な予感もしないし」

「そろそろおトイレの予感じゃないの?」

「……ふっふふふ……お前らが私のおトイレを待っているのは知っている」

サナーは不敵な笑みを浮かべながら

「水を飲む量を減らしたのだ……このサナー様の叡智を舐めるな」

ミヤが心底心配そうな顔をしながら

「大の方が固くなっちゃうよ?人間の排泄機能ってそうなんでしょ?」

サナーは顔を真っ赤にして

「んぐぐぐ……私のシモの話題から離れろ!そのうち治ったら覚えてろよ!」

と言いながら、ミヤから頭を優しく撫でられて何とも言えない顔で沈黙した。サナーのペット化が着々と進行しているな……手足が戻った時、すんなりと自律出来るんだろうか……などと考えながら俺は荷馬車に揺られていく。


 本当に何の問題もなく、昼前には領主の屋敷へと到着した。何か裏があるんじゃないのかと疑いたくなるくらい不穏な予感がない。

元山賊たちには荷馬車ごと敷地内で待ってもらいすっかり再建された領主の屋敷へとリースとフォッカーの三人で尋ねると、リルガルムの領主タックリンから直々に出迎えられた。


 古びているがきちんとした貴族服に身を包んだ、日焼けした老人はまずリースと丁重に貴族式の挨拶をかわし、それから

「ひさしぶりじゃな。我が放蕩息子よ」

と茶目っ気のある笑顔で言うと、俺を強く抱きしめてきた。

「ただいま。父さん」

照れくさくて短く返すと、彼はパンパンと笑顔で背中を叩いてきて

「さあ、話を始めようか」

と言ってきた。


 応接間に通された俺たち三人は、俺がタックリン側、そしてフォッカーとリースがテーブルを挟んで対面側と言う席で座る。

タックリンはニカッと笑い

「挨拶は先ほどしたので省略させていただきます。リース様、奴隷を復興のために提供してくれるとのことですが?」

と尋ねた。リースは頷いて

「みんな元共和国民で、二日前まで山賊をしていた者たちです。何かと大変かもしれませんが、よろしくお願いします」

タックリンは、笑い声を立てると

「お父様の破天荒さを継いでおられるな。正直で助かります」

リースの隣のフォッカーが真剣な眼差しで

「書類関係の手続きは、すでにベラシール領から早馬を走らせ、ウィズ公に直々に事情を説明しております。本日早朝には着いているはずなので恐らくは、公の性格的に……」

いきなりガチャリと扉が開いて、ローブ姿のヘグムマレーが入ってきた。

「実はもう大砲型移動装置で来とったぞい。手紙は読ませてもらった。一通り民達の観察も済ませた。リース、うーん……」

彼は腕を組んでしばらく考えた後

「素性をもっと深く尋ねるべきじゃな。やったこと自体は王族の義務を果たしておる」

リースは座ったまま深く父親に頭を下げた。さらに彼は俺を見てきて

「サナーさんのことは大変じゃったな」

そこまで手紙に書いてたのか……というより手紙を出していたことすら俺は全く気付いていなかった。苦笑いして頷くと、ヘグムマレーはニヤリと笑い

「その辺りは、また今度尋ねるとしよう。とにかくタックリンよ。さ、直接尋問しにいこうかの」

「そういたしましょうか」

タックリンは立ち上がり、ヘグムマレーと共に出て行こうとしたので慌てて

「あの、俺たちはやらなくていいんですか?」

ヘグムマレーは爽やかに笑うと

「疲れたじゃろう。それに、たまにはリースと二人休んだらどうじゃ?」

と言ってササッと出て行った。唖然としているとフォッカーが真顔で

「お二人の反応は上々ですよ。あとは任せるべきです」

「こっからは大人の世界って感じなのか?」

「そう思うべきですね。政治的な思惑もあるでしょうし、なにより、他国の者への尋問のテクニックがヘグムマレーさんより上の方はこの場に居ないと思います」

フォッカーはそう言うと

「では、俺も横でそのやり方を学んできます。お二人は、二階で休んでてください。副長も外ですし」

意味ありげに言って、サッと応接間から立ち去った。


 俺とリースがテーブル越しに残される。リースは少しモジモジしながら

「あのね、これってお父様が……」

「そういうことだよな。まぁ、ありがたく休もうか」

ある意味余計なお世話だが、確かに一週間くらい二人きりになっていない。俺とリースは立ち上がり、寄り添って応接間を出ると待っていたらしき老メイドから

「ウィズ公から命じられて、お風呂と二階の客間は整えております。ごゆっくり」

人のよさそうな笑みで言われ、すぐに屋敷内端の風呂場へと連れて行かれた。礼を言って二人で脱衣場で服を脱ぎ入る。


 風呂場はやたら広く、タイルが貼り付けられた床と壁と広い浴槽があった。二人して黙って身体を洗い合い、風呂に浸かる。

「ナラン……ありがと」

「俺こそ」

などと短い言葉を交わし、少しして風呂から出て、今度はお互いの身体を真面目な顔で拭きあって、脱衣場で服を着て廊下に出ると老メイドが控えていて、部屋へと案内される。


 老メイドの足音が遠ざかったのを確認すると服を脱ぎ捨てて、もつれあいながら勢いよくベッドに倒れこみ、納得いくまで、交わって、気絶するように眠り込んだ。


 ……


 真夜中に目覚めた。隣ではリースが可愛い寝息を立てて眠り込んでいる。腹減ったな……と思いながらベッドから出ると

「あら、良い身体ね」

「……!」

月明かりに照らされてアンジェラが窓際に立っていた。彼女は微笑みながら俺の下着を正確に手元へ投げてきた。慌てて履くと

「やっと、地上への派遣許可が下りたわ。ミヤちゃんも見てきたけど、元気そうね」

「どうも、久しぶり……」

戸惑いながら、さらに服を着ようとするとアンジェラから手で止められ、近寄ってきた長身の彼女は見下ろしてきながら

「お暇?」

と尋ねてきた。

「暇と言えば、暇かもしれないですね」

俺がどうにか言葉を絞り出すと、アンジェラはニコリと笑い

「ヘグムマレーさんたちの流民たちへの尋問をこっそり聞いていたんだけど、私、南のサーガ共和国に興味が出てきちゃってね。一緒に行かない?もちろんリースちゃんも連れて」

「ああ、元山賊たちは共和国から流れてきたとか言ってましたね……。いや、しかし、傭兵としての仕事もそろそろありそうですし……」

俺が渋ると、アンジェラはニコッと笑い

「私がリースちゃんとあなたを空から連れて行くから、数日で家に帰れるわ」

「いや、ちょっとまずは、サナーとも話さないと……あっ、手足直せませんか?」

アンジェラは顔をしかめて

「あの子は、ちょっと今、難しいわ。魔力が大量に出入りしているし少し、あなたも離れておいた方がいいかもね」

「確かにリブラーがサナーの中の古代遺物を接続したとか……」

アンジェラはニコニコしながら

「だと思うわよ。あなたにもサナーちゃんから魔力が常に流れ込んでいるもの」

と言いながら、俺の目の前の宙を、右手の指先でクルッとかき回すとその指に緑色に光る何本もの糸のようなものが絡みついた。

「あなたに流れ込んでいる魔力を可視化してみたの」

そう言うと、光る糸をフッと吹いて消した。

「それの何が、問題なんですか?」

「強すぎる電磁波に当たりすぎると、身体に良くない……って言っても分からないか……そうねぇ……」

いきなりアンジェラは俺の額の前に掌を翳し、次の瞬間には目の前が緑色の光に満ちた。それと同時に強烈な吐き気や眩暈で立っていられなくなりその場に座り込む

「ごめんごめん。やりすぎたかも。ちゃんと吸収して消したから」

次の瞬間には吐き気も眩暈も消えていた。

「魔力を浴びすぎると、そうなるのよ。あなたのリブラーはあなたが具合が悪くならないギリギリのラインで吸収し続けているけれど、このままだとあなたの身体はいつか壊れるわ」

「……」

俺が言葉を失くしていると、扉が静かに開いて顔を出したガウン姿のヘグムマレーが

「おお、隣の部屋から大量の魔力変動を感じたので来てみたが、久しぶりじゃのう」

アンジェラは会釈して、サーガ共和国に俺とリースを連れて行きたいとさっそくヘグムマレーに静かに説明し始めた。

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