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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
魔力変動の推移の観察

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好奇心というのは往々にして厄介なもの

城内の広い食堂に設けられた宴席の一段高く広い壇上で俺は、隣のリースさらに隣のヘグムマレーと並び、色鮮やかな料理を食べている。


地下室からあっというまに連れてこられ、そしてあっというまに、恐らく小城全ての人たちが集まった宴会が始まった。

この席からは、歌い騒ぐ屈強なメイドたちや、兵士たちが良く見下ろせる。

そんな光景を見ながら酒を飲んで、腹も膨れてようやく落ち着いたので、疑問をリースに尋ねてみようと横を向くと本当に幸せそうな顔で俺の方を見つめていて目が合った。

「なに?」

「えっと、さっき触った時冷たかったけど……」

「あれは、お父様の仮死状態にする氷の魔術がかかっていて、ナランが近づいたらその体温で解ける仕掛けだったの」

実に納得して、もうひとつの大きな疑問を尋ねようと

「大学内とか、さっきの地下室でリースの声がして、リースに後ろから抱きしめられる直前には半透明で裸のリースと会話したんだけど……すぐ消えたけど」

リースは首を傾げ、ヘグムマレーの方を見る。

彼も非常に興味深そうに俺の方を見てきて

「……それは、我々の計画に無いことじゃな」

「そうよね……聞いてないけど?」

「え……あれ……?」

二人に見つめられながら考える。だとしたら一つしか答えはない。

リブラーの何らかの機能なのだろう。

リースが顔を赤らめながら

「あ、あの……ご無沙汰って意味なら、この後に応えるつもりだけど……?」

「あ、え?ああ……」

俺は真顔で頷き

「と、ところで、三か月の間の生活はどんな感じだった?」

話題を変えようと尋ねるとリースは少し考えた後

「何も考えず、ひたすら精神と体調を整えるのに徹したわ。お父様が、毎日私が泣いてるとか言ったと思うけど、あれもこの仕掛けのための嘘だから。だって私は絶対にナランにまた会うし、ナランと一緒にいる運命だからね!」

自信満々に言い切った。

強いな、リースは。

人生でずっと強度のマイナススキルと付き合ってきただけある。

ヘグムマレーが補足するように

「ナランさんと離れている時間が長いほど、リースのマイナススキルは弱まってな。今では、以前と同レベル、よく転んだりものを壊したりする程度になったわ。なあ、無駄かもしれんがリブラーに副作用を緩和するように言ってはくれんかね?」

今度はリースが

「リブラーのことはもう聞いたから。気にしないで。当然言いふらしもしていないし、するつもりもないから」

俺はできるだけ真面目に頷いて

「リブラー」

と唱えた。


お尋ねの件ですが、非常に難しい問題です。

我々リブラーとしても、マイナススキルを戦闘に使用するため、その所持者に強力な副作用を起こすつもりはありませんし、防ぐために善処をしているつもりですが、効果的な対応が困難なのです。

しかし、可能性の一つとして、悪魔たちの住む世界で彼らのスキルを探査するということはマイナススキルの悪化を防ぐために

有益かもしれません。

……魔力の変動を感知しました。

アンジェラさんがここへ高速飛行で向かってきているようです。


遠くで爆発音が響いて、宴の出席者たちが騒ぎ出し察したらしきヘグムマレーが頭を抑えながら立ち上がると

「私の旧友の魔術師の客じゃ!!宴に招いておいた!皆の者、歓迎の準備をせよ!」

と言った瞬間に、何かが食堂の砂漠側の壁にぶち当たり、そして辺りは静かになった。

静かに食堂の窓が開いて、黒いローブの埃をパンパンと払いながら、角のない人に扮したアンジェラが入ってくると、壇上のヘグムマレーは手を上げ指示をして、会場のメイドや兵士たちが左右に分かれて道ができていく。


アンジェラは苦笑いしながら、左右に会釈しつつこちらへと近づいてきて

「あらー……どうも、お久しぶりです」

長い脚で壇上への階段をゆっくり上がってくる。

そしてこちらへと深々と礼をした後、大きな身振りで華麗に振り向き会場へと深く礼をした。

ヘグムマレーが拍手をすると、皆も拍手をしだし、また何事もなかったかのように、宴は再開し始めた。

アンジェラは急遽俺たちの前に設けられた席に座りヘグムマレーが人払いをしたのを確認すると

「ごめんなさいね。機雷に当たりながら来ちゃったわ」

「あんな派手な動きをしても大丈夫なのか?」

ヘグムマレーが真剣な眼差しで尋ねると、アンジェラは笑いながら

「ちょっと緊急事態なの。きっとお目こぼしがあるはずよ」

俺たちが黙って次の言葉を待つと、彼女は俺に目を細め

「えっと、ラストタジーファ地帯って知ってるわよね?その隣のドラゴンズエースト国も」

「最近フォッカーから聞いて、少しは」

答えると、アンジェラは満足げに頷き

「モノラースの所持者が、我が国に攻撃を仕掛け始めたのよ」

驚くようなことを言ってきた。アンジェラの我が国ってことは……悪魔達の本国に人間が戦争を仕掛け始めたということだ。

ヘグムマレーが真剣な眼差しで

「……セブンスクラウディー帝国にはそれほどの戦力があるということか?」

アンジェラは苦笑いしながら

「ない。ないから問題なの。我が国としては簡単に人間を殺さないようにしている。そこに、モノラースから供給される魔力だけは無限にある好奇心旺盛な若い皇帝様が乗り込んできた。我々ヒトが追い出しすると、一方的な虐殺になってしまう。ならば、我々ヒトに理解ある人間にやってもらえばよいのではないか?それで、人間界と繋がりのある私の謹慎を解かれたということなの」

「謹慎してたんですか?」

つい俺が尋ねてしまうと、アンジェラは真顔で

「国に、逮捕か無期限謹慎かって迫られたら、後者取るわよね」

俺たちと過ごしていた短時間で、悪魔の国的には何かよほどマズいことがあったようだ。

ヘグムマレーは真顔で数回頷いた後、苦笑いで

「まあ、好奇心と言うのは往々にして厄介なものじゃな。私もスライムについては、未だに抑えきれんしなぁ」

大人の言い回しで場を和ませると

「それで、何をすればいいのかね?」

アンジェラは真剣な眼つきになり

「……セブンスクラウディー帝国の若き皇帝様の鼻を徹底的に折って我々の世界から追い返してもらいたいの」

三人とも俺の顔を見てくる。

「い、いや……俺ですか?俺がやるの?」

リースはニコニコしながら

「私の復帰第一戦としては、これ以上ないでしょ?要するに行くとこ魔界よね?魔界で冒険ってことでしょ?」

ヘグムマレーは軽く息を吐いて、少し考えこむと

「で、リブラーは娘のマイナススキルの悪化については何ていっとったんじゃ?」

前の話題に戻してきた。

俺が正直に、リブラーが魔界に行って悪魔たちのスキルについて探査すれば、何かヒントが見つかるかもしれない的なことを言っていたと告げるとヘグムマレーは少し考え込んでから

「……良いかもしれんな。では、アンジェラさん二人を頼むな」

俺には拒否権は無いらしい……決まったようだ。

アンジェラはニコリと微笑むと

「明日までは客人のふりをして、それから出立しましょう。リースちゃんを連れて行くなら、その方が自然だろうし、何よりも久しぶりの地上のワインが恋しくなってしまった」

ヘグムマレーは笑いながら、軽く手を叩いて

メイドたちにアンジェラにも料理とワインを持ってこさせた。

急いでいるのか、急いでいないのかこの大悪魔は本当に分からないな……。

などと俺は何とも言えない気分になりつつある。


翌朝早く、小城を俺たち四人はメイドや兵士たちに見送られながら徒歩で出発する。

そこで気づいたのだが、昨晩の宴からシーネが居ない。

途中まで付き添いで来たヘグムマレーに尋ねると

「何か、どこかの暗殺任務が忙しいとか言って帰ったわ」

「暗殺ですか……」

「まあ、見るからに薄暗いものを背負っとる子じゃな」

「……」

俺は何とも言えずに黙り込んだ。

そのまま、砂漠を徒歩で背後の小城が小さくなるまで歩き続けるとアンジェラがニコリと笑って

「じゃあ、そろそろ早歩きでいきましょうか。この辺りに新規侵攻事業ポイントがあるの。そこに行きましょう」

ヘグムマレーは慌てて

「うちの、領地内にもあるのか!?まるでアリの巣じゃな」

アンジェラは嬉しそうに頷いて

「そうよ。この辺りは砂漠しかないから発見までの時間が遅れるでしょう?どうせ人間から発見されたら失敗するから、時間稼ぎする業者もいるの」

「んむむむ……危険なのか安全なのか……」

「まあ、責任者に会ったらわかるわ。予め談合しておけば、お互い犠牲者ゼロで上手くいくかもね」

リースが頭を押さえて少しフラッとしていたので、俺が背負うことにする。

本格的な運動は久しぶりらしい。

ちなみに、夜の二人での運動はしっかりした。

そういう体力損耗もあるかもしれないな……と自分でもかなり頭の悪いと分かるようなことをアンジェラとヘグムマレーの背中を見つつ考えながら、砂漠を足早に歩いていると

いきなり足元に流砂が現れ、俺はリースを背負ったまま瞬く間に吞まれていく。


……


ペチャペチャと何かに胸の辺りを舐められている感覚で起きる。

そして何とも言えない甘い吐息もかかる。

というかすげぇでかい口だろ……。

これさぁ……モンスターだよね……なんか舌もザラザラしてるし

「あ、ごめんなぁ、うちのサンちゃんが魔力吸っちゃってますなぁ……」

人のよさそうな男の声と共に、パッと明かりがつくと俺は恐怖で気絶しそうになる。

人間ほどの大きさの黄色い芋虫が俺の身体にのしかかって……。

「……」

「ほら、サンちゃんダメだってよ。この人間、アンさんの大事な客だべよ」

黄色い芋虫はゆっくりと俺の身体から退くと、後ろ向きになり暗い向こうへと去っていく。どうやらここは土壁でできた洞窟の様だ。

近くには、良く焼けた肌でツナギ姿の農夫のような格好の黒ひげが顔半分を覆い、短く刈り上げた頭に二本の角を生やした……。

悪魔だよな……あれ、ここ、どこだ?

慌てて立ち上がろうとすると、農夫のような悪魔が

「ちょっと動かねぇ方がいい。連れの方がそろそろ戻ると思う」

リースが遠くから

「ナランー!こっちだ。きっとこっちだよね?」

などと自分を励ましながら駆けてくる。

そしてよだれ塗れで、悪魔から照らされている俺を発見すると駆け寄ってきて

「だ、だいじょうぶだった?」

慌ててしゃがんできた。

「う、うん……謎の生き物に舐められてて、そこの悪魔のヒトに助けられた」

農夫の悪魔は噴き出し、豪快に笑うと

「ちげぇよ。うちの仕事仲間を退かしただけだっぺよ。あれはサンドワームのサンちゃん、まだ小さな子供だべ」

「サンドワームって……砂漠の龍って呼ばれるあの……?」

聞いたことある。砂漠の中を走り回る超巨大生物だ。

本当に存在していたのか……。悪魔はさらに笑い出すと

「いやいや、砂漠の巨大ミミズだべな。遥か地下層から何百年とかけて土壌改良する良いモンスターだべ。あ、紹介が遅れちまったなぁ。俺、タヌガワラっていうだ。職業はヘッドベヒーモスだよ。土木作業とか、土属性とか得意だーよ」

俺はゆっくり立ち上がって

「あ、なんか、ご丁寧に。ナランって言います」

「リースです。ナランの婚約者です」

「おーカップルさんかぁ……そうかぁ、ええなぁ。俺も娘っ子迎えてそろそろ結婚してえだよ……」

タヌガワラはそう言うとニカッと笑って

「あ、アンさんが来ただ」

背後の暗闇を振り返った。

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