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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
魔力変動の推移の観察

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57/82

大砲

訪ねて来たフォッカーに俺は

「さっき帰ってきたばかりだよ……どっから聞きつけたんだよ」

「も、寝る……」

サナーが動く死体のようにフラフラと二階へと上がっていくのをフォッカーは眺め

「噂は本当でしたか。法廷に連れ出される寸前でヘグムマレーさんに事業を返したというのは」

「確かにそうだな……えらい目に遭った……」

フォッカーは、持ってきたワインをテーブルに置くと

「とりあえず飲みましょう。俺も旅の話をしたいですし」

ミヤはニコニコしながらキッチンで何か作り出した。

元気で助かるなぁ……と思いつつ、グラスを二人分持ってきてフォッカーにワインを注いでやると、良く焼けた顔でニカッと笑い

「金も余ってて、仕事請けなくても良い上に隊長たちが商売で忙しそうだったので、ドラゴンズエースト国の方に行ってきました」

さっそく飲みながら旅の話をし始めた。

「隊長たちが商売を始めたのと同じタイミングでギーヤン将軍っていう、三賢者の一人が亡くなったんですよ。それでこれは国が荒れるだろうなと思って勇んで見に行ったんですけど……」

フォッカーはそこでワインに口を付けながら少し考え

「……まったく、国の様子が変わらなかったんですよ。なので、つまんなくなっちゃってさらに西方へと足を延ばしました」

「その国からさらに西か……想像もできんな……」

フォッカーがそこから語った話はこうだ。


ドラゴンズエーストの西には、ラストタジーファ地帯と言う、西の果ての海辺を含んだ広大な戦乱地帯がある。

そこでは、十六の国々や私設集団がモノラースという、高さ十メートルほどの直方体で虹色に輝く半透明な結晶を奪い合っているとのことだ。

勢力のひとつで、五番目にできたといわれる蝙蝠連合という風の強い山岳地帯を根城とする勢力の中にフォッカーは混ざりこんだらしい。

その国は、レナード・ガラァファという六十半ばの老人が率いていて彼に気に入られたフォッカーは様々なことを教えられた。


ラストタジーファ地方で最も勢力が強いのは

セブンスクラウディー帝国という七番目にできた勢力で今では、モノラースをその手中に収め、国として大きくなっているようだ。

蝙蝠連合は、現在、十二番目にできた小国のネローズ共和国と同盟を組み、セブンスクラウディー帝国を潰すべく、日々人を集めているらしい。


聞き終わった俺は、話が複雑すぎて頭から即座に内容が抜けていった。

フォッカーは熱っぽく

「隊長、今度、俺と一緒に紛争地帯を統一しに行きましょう!」

などと言ってくるが

「いや、ちょっと社会に揉まれて疲れててな……そもそもモノラースって何なんだよ……そんなに凄いものなのか?」

フォッカーは待ってましたと頷いて

「無限に魔力を供給する装置だそうです。なのでセブンスクラウディー帝国は、それを利用して荒野を緑化し国力を上げているとか」

「ああ……そういうヤバいやつね……」

リブラーに最初に色々と説明された時、各地に自らと似たような武器や魔法があるみたいなことを言われたような気がする。

恐らくモノラースもその手のものの一つなのだろう。


ミヤが食事を作ってきてくれたので一旦、ラストタジーファ地帯の話は切り上げ、何故三か月も会社からの招集がかからなかったのかそちらに話を持っていくと、フォッカーは苦笑いしながら

「ヘグムマレーさんが止めていたそうですよ。隊長たちに経営権を貸したのも、リースさんとナランさんの再会の機会を伺っていたとのことです」

「……」

大穴での神聖生物との戦いの後、裁判、会社経営と延々流されていたので、正直、リースのことを完全に忘れていた。

「会いに行こうかなぁ……」

「ヘグムマレーさんも隊長の気持ちが固まるのを待っていたのでは?」

「……そこまで俺が頭が良くなかったのが、全ての間違いだよな……」

日常に必死すぎて、そこまで思い至らなかった。

リースの父親がそこまで大きな気持ちで俺を見守っていてくれたとは。

大きく息を吐いて立ち上がる。

「ちょっと一人で、フーンタイ市まで行ってくるわ。ヘグムマレーさんに会って、リースを迎えに行ってくる」

フォッカーはニカッと笑うと

「副長のことは俺に任せてください。ここで二人で待ってます」

ミヤは付いて来たそうな顔をしたが

「そんなに長くはかからないから二人と待っていてくれ」

俺がそう言うと、仕方なさそうに頷いた。


少し酔っぱらった頭のまま家を出て、街で高い金を払って、足の速い馬車を雇い、俺はフーンタイ市へまた向かっていく。

リースかぁ……待たせたなぁ……などとボーッと考えているといつの間にか夜中の市内へと入り、目的地の大学についていた。

御者に礼を言って馬車を帰らせ、敷地内へと入っていくと貴族の大学生らしき子弟たちが爽やかに雑談しながら歩いていくのとすれ違う。きっと彼らは、俺と同じくらいの歳なんだろう。

勉強かぁ……縁がなかったなあ……などと思いながら庭園へと向けて歩いて行き、さらにヘグムマレーが居るであろう、例の二階建ての建物を探していると、石に躓いて盛大に吹っ飛ぶように転ける。

頭から行ったが、地面が柔らかくて幸い怪我はなかった。

「ふふふ」

聞き慣れた声が聞こえたような気がして、ゆっくりと体を起こす。

辺りには誰もいなかった。

なんだろうな……なんか今、リースの声が……。

社会から詰められすぎて、頭おかしくなったかな。

などと考えながら、庭園をさらに歩いていき二階建ての見慣れた建物の扉を叩いた。


なぜか、メイド服姿のシーネが扉を開けて出てくる。

「ふふぅーそろそろ来る頃だと思っていましたよぉ。どうぞどうぞー」

シーネはクルクル回りながら一階のリビングまで俺をいざなう。

室内ではヘグムマレー、そして傭兵会社の社長がテーブルを挟んで座っていた。

ヘグムマレーは俺を見るとホッとした顔で

「……娘が、手首を切りおったよ。一時間前に、魔法伝書鳩で知らせがあった」

衝撃的なことを言ってくる。

言葉が出ないまま口をパクパクさせていると社長が真面目な面持ちで

「そこのバカ、さっさと座れ。時間がない」

「はい……すいません……」

俺は社長の隣に座らされて項垂れていると

ヘグムマレーが憔悴した表情で

「まだ生きておる。ただ、かなり出血してから見つかったので助からんかもしれん……」

俺は口が乾いていて何も言葉が出ない。

社長が苛立った様子で髪をかき上げると

「ヘグムマレー様、リース様が造った大砲型移動装置で直ちに現地へと向かってください。このバカと、バカの補助で賢いシーネを付けるので」

「あ、ああ……そうじゃな……」

一気に老け込んだ感じのヘグムマレーはシーネから支えられ立ち上がると家の外へと出ていく。座ったまま固まっていると社長が恐ろしい顔で俺の背後に周り

「おいバカ!!さっさと付いて行け!リース様が死んでもお前が何とかして絶対に生き返らせろ!」

などと無知無茶なことを言われながら、バンッと背中を思いっきり叩かれ、飛び上がり外へと駆けだしていく。


ヘグムマレーはシーネに支えられながら庭園の端まで歩いて行き、新しいが、いい加減に建てられた感じの小屋の中へと入っていく。

俺も続くと、小屋の中には人間がちょうど三人くらいは入れそうな長さの黒光りしている大砲が北東へ向け置かれていた。

シーネが大砲を見ながら怪しく微笑んで

「ふふぅー鬼門の方角ですねぇ。なかなか楽しいことになりそうですぅ」

「鬼門ってなんですか?」

「失われた術の概念ですよぉ。ざっくりと説明すると鬼が好きな不吉な方角ですねぇ」

「すっげえ良くないってことですよね……」

シーネはそれには答えずに小屋の脇に畳まれていた大きなシートを広げると、俺とヘグムマレーをその中にまとめて座らせ、そして、まるで荷物のように俺たちをシートで包み始めた。

俺とギュウギュウ詰めになっているヘグムマレーが力無い声で

「シーネさんは、要らんかの」

「私は要りませんー。そのままで行けますのでぇ」

「あの、何を行くんですか……うわわっ」

ヘグムマレーとシートに包まれた俺はフワリと持ち上げられ、そのまま、恐らくは大砲の中へと、雑に詰められていく。

「いたっ、いたたっ……」

「あ、すいませんねぇ……一応骨格は見えてますのでぇ、骨折はさせませんよー」

た、多分、シーネが大砲の中に俺たちを詰めてるんだよな?

シートの上から俺たちの骨格が見えているということか?

もう怖いので俺は目を閉じて黙っておくことにする。


シュルルルル……と外で導火線に火が付いたような音がすると

「よっこいしょ。失礼しますねぇ……」

俺の頭上にシート越しに柔らかい何かが当たった。

たぶん尻だな……などと馬鹿なことを思った瞬間、猛烈な爆発音が大砲の筒の中に響き渡った。

そして小屋の天井をぶち破った感覚もあり、あ、俺きっと今飛んでるわ。

という前方から強烈に押し付けられているような圧力に包まれ、なんで大砲に打ち出されたのに死んでないんだろ……。

などと薄れる意識の中、俺は考えていた。


……


「ふふぅー。固結びでよかったですねぇ……よしよし、二人とも骨折なしっと」

シーネの声で目を覚ます。

俺は砂まみれになっていた。

包まれていたシートは近くに飛んでいた。

見回すと辺りは夜の砂漠でかなりの寒さだ。

ヘグムマレーはゆっくりと立ち上がり苦笑いしながら

「娘の発明品はいつもこうじゃな。距離を予め計算して置いていたのに……ふふ……随分と離れた地点か……」

などと辛そうな顔で晴れた夜空を見上げている。

シーネはサッと彼の腕に自らの腕を絡ますと

「さあ、行きましょー」

ヘグムマレーと砂漠の中を歩き出す。

俺はシートを慌てて畳んで手に持ち、そして二人の背中を追う。

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