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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
魔力変動の推移の観察

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お店屋さんごっこ

目覚めたのは宮殿内の天幕のある豪華なベッドの上だった。

横でうつ伏せで寝そべって本を読んでいた下着姿のサナーがホッとした顔で

「お疲れ様。良く寝てたよ」

「アンジェラさんが連れてきてくれたのか?どれくらい時間が経った?」

サナーは笑いながら

「ナランが意識を失った次の日の午後だな。おっさんが背負ってきた。あとアンジェラはどっかに行った」

「……他には変わりはあったか?」

サナーは伸ばした足をバタバタと上下させながら

「ニャンニャンタマタマ組の取りつぶしがさっそく始まって、傘下の違法風俗店とか、鍛冶屋とかが全てヘグムマレーのじいさんのものになりつつある」

「ウィズ家の利権になったのか……」

サナーはニヤリと

「それで、例の違法風俗店の経営権はナランと私に貸してくれるんだって。だから、私でもわかる経営学の本読んでる」

「……いや、やめとかない?無理だろ」

サナーは本に目を戻しながら

「チャンスにはまず飛び込んでみる。やってみないとわからないだろ?」

真面目なことを言ってきた。黙って頷いて俺は二度寝する。


翌日からはとにかく忙しかった。

公的には行方不明ということになっているニャンタマーの被告人不在の弾劾裁判が始まった。

俺は証人の一人として、傍聴人と裁判官や書記官が見守る中、二回くらい証言する機会があった。

三日ほどのスピード審理で結審した結果、ニャンタマーは国家一級反逆罪、死刑相当ということになり彼の財産は全て没収され、正式にウィズ家が管理することとなった。


その後、ニャンタマーの財産引継ぎが正式に決まると、正式に管理者代理に任命された俺とサナーは、例の違法風俗店を警備員付きで下見したり、たまに襲い掛かってきたニャンニャンタマタマ組の残党たちを軽く返り討ちにして、まとめて拘置所送りにしたりと、とにかく休む暇がほぼなかった。


アンジェラは一度だけ顔を見せにきて

「ちょっと国の監査委員会から、私の地上での行動について疑義が提出されたから報告と申開きで戻らなきゃならないの。ミヤちゃん頼むわよー」

悪魔たちの国から動きすぎて怒られたみたいなことを言って去っていき、それから見かけることはなかった。

ミヤは機嫌がすっかりよくなり、宮殿に用意された俺たちの部屋で

「いっそ捕まっちゃって、永遠に帰ってこなければいいのに」

などと軽口を叩いて、街から買ってきた本を読み漁っていた。


そんな日々が一週間ほど続き、破壊された宮殿の一部の修復も始まり、ドラゴンとサイクロプスも使役者ごと北部戦線送りされ、フーンタイ市の様相は変わっていった。

さらにニャンタマーがらみで執政官の汚職についての裁判が開かれたころ、俺とサナー、そしてミヤは元違法吸引屋のスタッフたちと向き合っていた。

やる気がない俺は一歩引いた位置にある椅子に座っているが、先日ヘグムマレーから貰った煌びやかな軍服姿のサナーは壇上に立って、人間やサキュバスとインキュバスのスタッフたちに対し

「私が新しい経営者のサナー・ミニジーオだっ。この店を中抜きしまくっていた悪は滅んだ!もはやこの店は、ウィズ公の公認で違法ではない!私が諸君に新たなる栄誉を与えよう!」

などとやる気のありすぎる演説をして、いつもの黒ワンピース姿のミヤだけに拍手されている。

見覚えがあるカウンターに座っていた中年女性が手を上げ、サナーから発言を許されると

「あのー……サナー社長、事前説明によると勤務形態は変わらずに給料だけ上げるってことですよね?雇い止めも無しと」

「その通りだ!!私とナランの月給百万イェン以外は経費を差し引いて、店のスタッフに還元するぞ!」

ミヤがニコニコしながら、何かが書かれた紙を悪魔のスタッフたちに配っていく。

悪魔たちはそれを見ながらすぐ理解したらしく頷いて

「簡素ですが、ちゃんと我々の世界の雇用契約書になってますね。そちらの方が?」

サナーは偉そうに頷いて

「そうだ!ミヤは君たちのために我々が雇った悪魔マネージャーだぞ!何か相談がある時は、文書で彼女に尋ねてくれっ」

ミヤはニコニコしながら悪魔たちに頭を下げる。


その翌日から、吸引屋は営業再開をし始めた。

そしてすぐに問題が起こった。

レベルドレイン中毒者たちが多数出入りしていることが分かったのだ。

一応、正規の風俗店なのでこの状況は非常にまずいということで、サナーがコースを軽めのものだけにして、レベル吸引数の月ごとの上限をつけた。

すると売上が一気に危険なラインまで下がってしまい、俺とサナーの給料を返上しなければならない羽目になった。

「な、ナラン……どうしよ……お店潰れちゃう……」

青ざめたサナーにため息を吐きながら、リブラーに解決方法を尋ねようとして、絶対ろくな事言ってこねぇわ……と思いとどまった末に、たまたま会社事務所に立ち寄ってきたローウェルに相談すると彼は笑いながら

「市に許可を取って、隣に低レベル帯のレベルアップ道場を併設して、それから風俗店の方の吸引上限を撤廃しろ。そしたら客が行き来して両方の店で無限に金が儲かるようになる。あと、お店屋さんごっこはそこそこにして、たまにはうちの会社に顔出せ」

思ってもみなかったアドバイスをしてきた。


翌日、俺たちは貯めていた私財をはたいて隣の空いていた建物を買い取り、レベルアップ道場ビジネスにも手を出すことにした。

講師は、暇そうにしていたゴッツ、デイ、コザーの三人を雇った。

レベルアップ道場ビジネスは大当たりして、中毒者たち以外のレベルを上げたい真面目なお客様達も通うようになり、二つの大成功事業を持った会社は瞬く間にとてつもない金額を稼ぐ優良企業となってしまった。


だが、ホッとしたのもつかの間だった。

今度は、レベルアップ道場とレベルダウンする吸引店を行き来しだした中毒者たちが働けずに借金塗れとなり、しかもその人数が急激に増えだし、フーンタイ市の社会問題化しはじめた。


そこで、俺とサナーはギブアップしてウィズ家に助けを求めビジネスの諸々の権利を全てヘグムマレーに戻し、道場も彼に売り払い

残った三千万イェンを持って、疲れ果てた状態で自宅へと三か月ぶりに帰宅した。


俺とサナーは食卓に並んで座り、黙って天井を見上げていた。

テーブルを挟んで反対側に座るミヤだけが元気で

「あー楽しかったね。中卒の私がまさか高給マネージャーやることになるとは。ヒトのみんなからは頼られるし、本も一杯買って読んだし、姉貴は来なかったし、地上の美味しいものも色々と分かったし、またサナーちゃん会社造らない?」

サナーは心労でコケてしまった頬を動かし

「いや……も……い、い……」

俺も言葉が出ない。ビジネスの世界がこんなに過酷だったとは……。

最後は新聞社の記者が連日俺たちを張っていたりと、ストレスしかない生活だった。

とにかく、事業を売り払うことで逃げられて、倒産や破産をせず、多少なりとも金が手元に残ったということだけが救いかもしれない……いや、待てよ。

レベルアップ道場造るときに注ぎ込んだ私財も考えるともしかしたらプラスマイナスゼロなんじゃないか……?

ま、まあ、少なくとも風俗店の店員たちの雇用は守ったしやり遂げたとは言えるんじゃないか?


サナーと並んで天井を見上げ、とりとめもなく考えていると、ガチャリと入口の扉が開けられ

「お、帰ってるって聞いたんで、顔を見に来ましたよ」

フォッカーが入ってきた。久しぶりに見た彼は日焼けして少し逞しくなっている。

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