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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
再構成と機能拡張

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再起動

ミヤとサナーに支えられながら起き上がるのと、ほぼ同時に頭の中でリブラーの声が


再起動しました。おはようございます。

まずこん睡状態の間、活動できなかった不手際を謝罪いたします。

サーチ開始します。リースさんの不在を確認、元村長の存在を確認。

事後のお伝えで申し訳ありませんが "混沌を包み込む聖母" 等のスキルをこん睡直前にスキル枠を開けるため一括削除しました。

こん睡状態の体調回復のため入れた高コストスキル "自然循環" を削除します。

"オートヒール"をレベル5まで下降し、スキル枠を開けます。

開いたスキル枠に "鉄壁の防御" を初追加 "心の傷を癒す口" を再追加。

"幸運の使者" "ウィズ王家との絆" を再追加。

現在のスキル数は計五です。

性能調整のため、近辺に存在確認した元村長から魔力を吸うためにリソースを使用しますので、しばらくリブラーの発動はお控えください。


なんか勝手に謝りつつ、よくわからないことを一方的に言いながら、いつものように俺のスキルを勝手にいじって黙り込んだ。

言われなくても発動はできるだけ控えてるけどお前が勝手に発動しまくってるんだろうがよ……何なんだよ、ほんとに……。


起きてすぐ色々と考えたくないので、とりあえず食卓につき、サナーとミヤがせっせと病人食を作るのを眺めていると

「にゃー邪魔するにゃー」

「うーい、邪魔するぜー」

ポトスンとローウェルが同時に入ってきた。2人は食堂に来るなり俺を見て、顔を見合わせながらニヤニヤしだした。

「にゃ?言った通りにゃー」

「まあ、あんたの勘は当たるからな」

二人は並んで食卓の椅子に座り、ローウェルが

「姉ちゃんたち、俺にもついでに朝飯くれー。あ、ナラン気にすんな」

「僕は要らないにゃ。ところでナラン君、おはよう」

今、昏睡から目覚めたところなんですけど。とは言えないので

「……あ、おはようございます」

適当に会釈を返すと、ポトスンは猫顔をニマーッと微笑ませ

「社長がお待ちかねだにゃ。昼過ぎに会社で鑑定のセッティングをするけど体調は大丈夫よにゃ?」

「とりあえず、何か食べてみてからでいいですか?」

ポトスンは微笑みながら頷いた。


四人からジッと見守られながら、ボーッとした頭で、温めたミルクにちぎってふやけさせたパンを浸したパン粥を啜って食べる。

すんなりと完食して喜ぶサナーがすぐに二杯目をテーブルに置き、それを食べていると、ポトスンが満足げに

「こん睡状態の時から、君は顔色良かったにゃ。なんかまた変なスキルが動いてたにゃ?」

「いや、寝てたんで自分じゃわからないですけど……」

確かリブラーは自然循環とか何とか言ってた気がするが朧げだし、いつものように黙っておこう。

ローウェルが一瞬、目を光らせ俺を見ると

「ヘグムマレーさんは、昏睡状態だとナランのスキルは止まると言っていたが、多分違うよな。俺が見舞いに来た時もお前から何か感じたわ」

そう言いながら出されたパン粥をすすって、あっという間に完食すると

「……うめえ。ありがとな。隠し味なに?」

サナーがぶっきらぼうに

「塩と砂糖の絶妙な加減だ。私もそれなりにナランの料理作ってるからね」

ローウェルはまた俺に向き直り

「なんか、また強烈な自己回復スキルをつけてたんじゃねぇか?」

俺は苦笑いしながら

「ポトスンさんに言ったようによく分からないな。そうだったんじゃないかな」

ローウェルは一人で納得した表情で頷いて立ち上がると

「じゃ、本社で待ってるわ。あ、社長から伝言で "おめでとう、正社員だ" とのことだ。二か月目で正社員は記録だな。普通はまだ研修も終わってない」

サナーが慌てて

「わ、私は!?」

ローウェルがニヤニヤしながら

「サナーもついでに正社員だ。ただし、主任のナランの部下らしいぞ」

「そ、それでもいい!!やったああああ!」

サナーは喜んで近くで気配を消して食器を片づけていたミヤの手を取ろうとして嫌がられ、ミヤに抱き着いてさらに嫌がられる。

ポトスンもローウェルと共に出ていき、サナーに抱き着かれたままのミヤがホッとした顔で

「ナランとかサナー以外の人間たちはまだ信じられないんだよね」

と言ってきて、俺は黙って頷いた。


リースのことも気になるが、とりあえず会社に赴こうと俺とサナー、付いてきたミヤの三人で、昼過ぎに本社の屋敷の扉を叩くと、メイド服姿のシーネが出てきた。

そして、俺たちではなくミヤを見て

「あらあらあらあらあらあら、うふふふふふ……」

嬉しそうにいきなり、ミヤの身体を黒いワンピースの上から触り出し

「ちょ、ちょっと待って!何この人!あっ、やめっ」

荒い息をしながらその場に座り込んだミヤをシーネは立ったまま見下ろし

「ふふーっ。悪意はありませんねー。悪魔のあなたもどうぞ入ってくださいねぇ。あ、ナランさんご無事で良かったですー。サナーさんもどうぞー」

サナーが呆然としているミヤの手を引っ張って立ち上がらせる。

俺たちはクルクル回るように踊りながら一階廊下を進んでいくシーネの背中を見ながら、屋敷内を歩いていく。


一階応接間に案内され、中へと入ると、すでにテーブルの向こうに車椅子に座った社長といつもの不機嫌な少女が並んでいた。

俺たち三人が反対側の椅子に座ると、少女が顔をとんでもなく顰め

「叔母さん……とうとうリアル悪魔連れてきましたけど、この人たち……」

上機嫌な表情の社長の方を向いた。

社長は自らの長い髪を片手で撫でながら

「別にそのくらい、いいじゃないか。さあ、まずは鑑定だ。この子は売れっ子でな。次の仕事が詰まっている」

少女は固い顔のままで頷いて、モノクルを片目に装着すると、まずは俺を見てくる。

そしてため息を吐いて何も言わず、今度はサナーを見ながら

「戦士レベル41ですね。スキルは以前と変わらず。ああ、介護スキルが3になってます。ナランさんへの介護の成果でしょう」

それから実に嫌そうに、気配を消して俯いているミヤを見ると

「悪魔です。サキュバス、レベル17から21の間くらい。スキルはわかりません」

社長が頷いて

「それだけで十分だ。魔界のもの、特に悪魔は鑑定がし辛いからな」

少女は頷くと、また俺を見て

「レア職のデビルテーマー、レベル39ですね。スキルはオートヒールレベル5、鉄壁の防御、心の傷を癒す口、幸運の使者、ウィズ王家との絆です。あと、薄れていてよくわからないですけど恐らくは"悪魔との絆"的なスキルが発現している気がします」

俺は驚きを顔に出さないように必死になる。

リブラーが言ってなかったスキルが付いているのか?

少女はあからさまに俺を向いてため息を吐くと

「たぶん、あなたは知らないでしょうから説明をしておきますと、デビルテーマーは悪魔を使役するレア職です。召喚士であるサモナーとは違います。デビルテーマー達は、我々とはスキル自体の違う悪魔たちを使役するため、悪魔たちが使う一部スキルを覚えていることが多いです」

「そ、そうなんですか……すいません、勉強不足で」

俺が素直に謝ると、少女は真面目な顔になり

「……どのような事情で、スキルや職が次々に変化しているかまでは私は存じ上げておりませんし、叔母様に尋ねる気もないのですけれど……」

そう前置きした後

「正直なところ、悪魔と関わるのはお止めになった方がよろしいかと思います。かの者たちについては、我々、地上の者たちには未知のことが多すぎるので、その分、不確定要素で足をすくわれることも多いのです」

「ご丁寧に忠告ありがとうございます……」

また頭を下げるしかない。

少女は社長から黙って札束をいくつか受け取ると、静かに応接間を出て行った。


少し間を置いて社長が、俺とサナーに

「お前らも晴れて正社員だ。あと、ミヤ?と言ったな?」

ミヤは社長と目を合わさずに頷く。

「ナランの部下の人間として派遣で登録しておく。困ったときは、これを使え」

ポーンと木札を俺に投げ渡した。そこには丁寧に深く

「この者ミヤを王国特別警備員ナラン・ベラシールの配下としてハルン・バートフルが身分保証する」

と焼き付けられた紋章と共に掘られていた。社長はニカッと笑いながら

「この州内なら、これを見せれば絡まれることはない。ナランの部下として仕事に励めよ」

ミヤは戸惑った顔で俺を見てくる。俺はとりあえず社長に

「社長、なんか、色々とすいません……」

社長はサナーに札束を八つほど連続で投げ渡し、サナーがどうにか全てキャッチすると

「今月分のお前ら二人の正社員給だ。ミヤはそこから適当に貰ってくれ。任務については追って伝える。それまで休んでおけ」

俺たちは応接間を後にする。


もらった大金を布袋に詰め込み、上機嫌なサナーと、俯きながら何かを考えているミヤと三人で本社の屋敷から、自宅へと帰るため廃墟群を通っていくと遠くから、尻を抑えながらローブ姿の老人が歩いてくるのが見える。

「あ、元村長だ」

近づいてきた元村長は、ボロボロのローブ姿で白髪も乱れきっていてさらに何か、憎しみに満ちた形相をしている。

「も、元村長……?どうしたんだ?」

サナーが思い出した顔で

「あ、補給任務でゴブリンに捕まって尻とか弄ばれてた……」

「ああ……」

思い出した。俺たちと関係ない会社の任務で酷い目に遭っていたはずだ。

元村長は俺たちの近くまで来ると

「私が村長です!!」

何かを訴える表情をした。俺とサナーが首をかしげているとミヤが進み出て

「もう一回言ってみて」

元村長がいつもの同じフレーズを繰りかえすと

「ああ、私を辱めたゴブリンどもに復讐したいから手伝ってって」

「分かるのか!?」

ミヤは逆に驚いた表情で

「他の人間たちより分かり易いよ?全身で会話してるじゃん」

「私が……村……長で……す」

今度は悲しそうに言ってきた元村長をミヤは見てから

「でも尻が痛すぎて仕事に行けず、金もなくて医者にも行けず食事も装備も買えないから、まずは金を貸してくれ、できればくれって言ってるよ」

ミヤの言葉に元村長は全力で首を縦にブンブンと振ってくる。

よくそんな複雑な内容を理解できるものだ。

俺に黙って見られたサナーが仕方なさそうに袋から札束をひとつ渡すと

「私が村長です!私が村長です!」

「ありがとう。一生忘れない。だってさ」

ミヤが訳している最中に元村長は尻を抑えて、街の方へと駆けて行った。

俺はサナーに

「しばらく別の仕事も無さそうだし、やってやるか?ゴブリンへの復讐」

何となく動きたい気分だ。

サナーは少し考えると

「ナラン大丈夫なのか?休まなくていいのか?」

「ああ、もう大丈夫みたいだな」

明らかにリブラーがつけた謎の回復スキルのおかげで調子がいい。

サナーは少し俺の顔を見つめ、決心したかのように

「じゃあ、元村長も一応は仲間だし、仲間の復讐を手伝うか!」

「だな」

ミヤは俺たちの様子を見ながら

「私もついていくよ。ナランたちの人間関係を知りたいし」

と言った。

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