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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
宿主の可能性の追求と試行期間の続行

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41/81

滞在

それから、俺たちは十日ほど、騎士たちが塞いだ魔界への穴が再び開かないか監視するためリルガルム地方に滞在した。


というか、やっと、漸く、ほんとに漸く、俺は休暇を満喫……できなかった……滞在中は、荒廃している領地の整備やタックリン伯爵のボロボロになった屋敷の改修を延々とやっていた。

……朝起きて飯を食べて、騎士たちや仲間たちと共に遠くの森の木を伐り出してそれを屋敷へと運んでいったり、屋敷周辺の草取りや、または激しい戦闘で荒れ地になってしまった場所の整備、さらには、ゴブリンの残党狩りに駆り出され広大な山野や、集落跡などを皆と駆けずり回っていた。


ミヤは改修が必要のない涼しい地下室で、タックリンの蔵書を一人読んでいて一日の終わりに、汗まみれで疲れ果てた俺とサナーが様子を見に行くと

「ご主人様たち、お仕事大変だね」

こちらを見ずに言ってくるのがムカつく。


そんな毎日の最大の難所は夜だった。

俺と風呂に入って疲れたサナーが寝てしまうと隣の部屋から音を立てずにリースが入ってきて

「よし、今日も朝まで親交を深めましょう!」

少し赤らめた頬でササッと俺の手を引きながら隣の部屋へと連れて行く。

……リースは当然ながら王族なので、毎日俺やサナーについてくるが、一緒に来る騎士たちの監督役という立場であり、つまり、木陰で見ている役なので力仕事はしない。ということは夜まで体力が余っている。

しかも何かと対抗してくるサナーが先に寝てしまう。

……明け方まで、男女の交わりが続くということだ。


俺はオートヒールのスキルの効果か、殆ど寝なくても問題はなかったが、さすがに連日続くとありがたみも薄れてきて、メンタルも擦り減り

「今日は寝ない?」

という提案を何度もしたのだが、その度にリースは服を脱ぎながら首を横に振り

「だめ。ナランとの子供が欲しいの。それにナランのオートヒールの効果で私も寝なくていいみたい」

とか言いながらベッドに飛び込んできた。

七日ほどそんなことが続いた後、とうとうリブラーにリースを寝かせてほしいと頼んだが、いつもの声で


センシティブな内容で申し訳ないのですが、ナランさんの子種が子宮に着床していません。

ここは未来のことを勘案すると、もっと粘るべきです。


などと訳の分からないことを言われつつ、とにかく拒否されたので

「いや、センシティブとか子宮に着床ってなんだよ……とにかく何とかしてくれ……もう辛いんだよ……」

そう返すと


直截的かつ分り難い間違った表現を謝罪します。

ナランさんたちの時代の水準に合わせて言い直します。

この場面はピンチではなく、愛する女性ときちんと相対するという大人への修行の場なのです。

パートナーとの夜の付き合いも大切です。

なのでスキル構成等の変更は必要ありません。


「とにかく、ダメってことかよ……」

リブラーが頑なに拒否してきたとか初めてだったし、しかも、なんかまた説教されている気がする。大悪魔に続いてリブラーにも説教されている俺とは……。


そんなこんなで十日ほど経った頃、夜のことを知らないサナーから

「なんか最近、痩せたね。大丈夫?」

呑気に言われて、適当に頷いた俺は、綺麗になった屋敷を庭から休憩中の騎士たちと眺めていた。


騎士たちの土魔法で庭を整備して、風魔法で木材を切り出しゴミの焼却にはリガースたちの炎魔法など駆使した結果、完璧に屋敷は蘇っていた。まるで新築のような建物をボーッと眺めていると、領主のタックリンが微笑みながら俺に近づいてきて

「やはり、君はウィズ公の見込んだ通りの若者じゃな。手抜きのない働きぶり、見事じゃったよ」

「……ははは。自分で言うのもなんですけど、頑張りました……」

ほんとに頑張った……昼もだけど……夜の方が大変だった……。

ずっと機嫌と調子の良いリースは、少し離れた場所で朗らかに屋敷の老メイドと談笑している。

少し気になっていたことを尋ねる。

「あの、ヘグムマレーさんとローウェルさん知らないですか?フォッカーも数日前から見当たらないんですけど……」

タックリンは苦笑いしながら

「君のお兄さんたちのとこに行っとるらしいな。なんでも、ベラシール家が中央政府へとウィズ公の弾劾を画策したとかでのう。監視させていたらしき騎士から報告が来とったのを見たわ」

当然ベラシール家の出であることはこの老人には話している。

「ああ、兄たちならやりますね。また公に懲らしめられてるってことですか?」

若干心配しながら問うとタックリンは何とも言えない表情で

「ウィズ公は未だに相当にやり手なのは知っとるじゃろ?」

たった十日で綺麗になった自らの屋敷と庭を見回す。

確かにその通りだ……。つまり……想像よりやり返されている可能性がある。

俺は黙って頷くしかない。兄たちは大丈夫だろうか……。


さらに一日が経ち、休暇も領地内の補修も終わりそうな時に事件が起こった。

地下室で読書だけをしていたミヤが倒れたのだ。

食事も拒否していて、性的エネルギーやレベルも吸いたくもないとずっと言っていたので、尊重しつつ様子を見ていたが、とうとう限界が来たらしい。

「う……く……お腹……すいた……」

夜中にいつものように地下室へと様子を見に来た俺とサナーは床に倒れて涙目でこちらを見てくる生気のない肌のミヤを前に固まった。

すぐにサナーは我に返ってミヤに駆け寄るとしゃがんで

「おい、何か食えよ!果物食べてたんだろ!?」

「い……や……だ……」

サナーは顔を真っ赤にして怒りながら

「そんなにウンチとかおしっこ出るのが嫌なのか!?」

俺は慌ててサナーに駆け寄って

「いやいやいや、はっきり言いすぎだろ……言葉選べって」

サナーは真剣な表情で

「でも出るもんは出るだろ!?文句を言わずに食えって!」

ミヤは両目を閉じて動かなくなってしまった。気絶したらしい。

「ほらぁ……お前が、うるさく言うから……」

「だって……ここまで食わないとかかっこつけすぎだろ」

俺は少し、地下室の石の天井を見上げてリブラーを使うか迷う。

いや、ここは使わない方がいい気がする。

どうせまた妙なレアスキルをくっつけられて、ろくなことにならないだろう。

気付くとサナーが気絶したミヤの口の中に自らの指を突っ込んでいた。

「な、何してるんだ……お前」

「レベル吸わせようかと思って」

「いや、サキュバスだから女のレベルは吸わんだろ」

「そ、そうか……じゃあ、もう死にかけのタックリン爺さん呼んでくる!」

さっそく出て行こうとしたサナーを何とか引き留め

「俺に任せてくれ」

サナーは即座に首を何度も横に振り

「嫌だ。ナランのレベルが吸われるのは嫌だ」

「……なあ、サナー……俺のレベルなんて、何かやるたびに勝手に転職しまくって上下してるし別に吸われても問題ないんだよ」

サナーは涙目で俺の顔を見て来ると

「ナラン!傭兵になってから私に話せないことあるだろ!?ずっと心配してるんだからな!」

「……」

リブラーについて、一瞬、言おうか迷ったが

俺は兄妹の様に大切なサナーをこの変な魔法に巻き込みたくない。

こんな調子で大事に巻き込まれていけばいつか俺は本格的にヤバいことになるだろう。

特に今回の巡察でそれは確信に変わった。

サナーには、リブラーがもたらしている富や栄誉だけに触れてもらって、それで俺がもし何処かで……。


俺と涙目のサナーが黙って見つめあっていると

「よーう。邪魔するぜー」

軽い調子で煙草臭いローウェルが地下室へと入ってきた。

彼は見つめ合っている俺たちと、床に倒れているミヤを見回すと

「……あーおじさん、長年の経験で分かっちゃったわ。ミヤが倒れてて、それで介抱しようとして揉め始め、そっから長年の積もり積もった夫婦喧嘩だなー?」

「ちがう」「そうだよ」

同時にそう言って、ローウェルは口を抑えて笑いそうになり、俺が

「おい、サナー、そうだよってなんだよ」

「昔からの夫婦みたいなもんだろ!そんな私が居るのに!!リースと何で結婚しようとしてるんだよおおおばかああああああ!!」

サナーは俺に抱き着いて大泣きし始めた。

随分、堪えていたようだ……そうか、ここまで思い詰めていたのか……。

いや、しかし、ミヤがヤバい……どうしよ……。

ローウェルはニヤニヤしながらそんな俺たちの様子を眺めつつ、ミヤの横にしゃがみこみ、パリパリ音をさせながらミヤの角や、胸や局部の黒い毛を剥がし始めた。

俺は号泣するサナーに抱き着かれて動けないまま

「お、おっさん、何を……」

「ん……抱くんだよ。こいつをな。そしたらあっさり復活するぜ?なんせ、サキュバスだからな。ガキは趣味じゃないけど仕方ないだろ」

いきなりサナーが身体を翻してローウェルに殴りかかろうとして、ローウェルは風のようにかわし距離を取る。

「おっさん!!女をなんだと思ってるんだよ!なんで男はみんな胸とか股と尻とか顔とかばっかし見て!!馬鹿なんだよ!」

意外にもニカッと歯を見せたローウェルは、少し考え

「人間の女ならこんな事はしない。でもこいつは人間の女じゃない。悪魔って俺たちが呼んでる別の種族だ。姿が似てるだけでモンスターだぜ?」

サナーは涙をポロポロ流しながら

「もういい!!ナラン!!必要なんだろ!?ミヤを抱いてやれ!私はこの汚れエロおっさんと一緒に外に出てるから!」

ガシッとローウェルの腕を掴まえると、泣きはらした顔で外へと出ていく。

その間際、俺を見たローウェルが口の形で"あとは任せた"と俺に言ってきた。

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