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装置

炎の渦が、超スローモーションで俺の目の前に迫る。

あ、死んだ……でも、弄ばれて死ぬわけじゃないからいいか……と思った瞬間、子供のころからの記憶が、一気に俺の頭に流れてきた。


優しかった父さん、母さん、近寄りがたかった兄貴たち、いつも俺を馬鹿にしてきたメイドたち、呆れながら世話をしてくれた老執事のルース、そしてルースの葬式、あれから、俺に勉強教えてくれる人がいなくなって学校でもついていけなくて、さらに馬鹿にされたなぁ……。

そして両親が死んで、俺は馬鹿にされるだけになって……。

自暴自棄になり、傭兵なんかになってしまいこんなとこで高レベルゴブリンに炎で焼かれるというバカな死に方をして……。


クソみたいな俺に、いつも絶え間なく付きまとってきたのが幼少期から俺の遊び相手としてつけられてたサナーだ。

別にうれしくもなかったし、性格も合わなかったし、むしろうんざりしてたけど、サナーが居るおかげで、俺はもしかしたら、ずっと本当に孤独じゃなかったのかもな……すまないサナー……守ってやれなくて……。

意識が薄れていく。


「ナラン!!」


次の瞬間に、サナーの叫び声で飛び起きる。

俺もサナーも、黒色塗れで臭い匂いを放つ身体も傷一つなく無事だ。

「な、なにが起きたんだ……」

サナーはニカッと笑いながら

「あのおっさんやりやがったな!!これ、エンチャントスモークだよ!たぶん氷属性の守備魔法を私たちの身体に巻きつけてくれたんだ!」

「あの煙草の煙がそうだったのか……だから魔法をかき消した……」

俺たちは静かに立ち上がり、剣を抜き、ゴブリンの方を見る。

レッドゴブリンは多少驚いた顔をしていたが

すぐに残虐な笑みを取り戻し

「ゴブブブ……力にも圧倒的な差があるがな?」

憎たらしく首をかしげて言ってきた。

サナーはゴクリと固唾を飲んでから

「でも!!お前の得意な魔法は、もう使えない!私たちの丸焼きが食えなくて残念だな!!バーカ!!」

と言い放つ、俺も死を覚悟したからか、不思議と肝が据わってきて

「お前の指一本でも、あの世に持って行ってから死んでやる!」

剣先をレッドゴブリンの方へと向けながら宣言した。


レッドゴブリンは不気味な笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。

俺が、死ぬ前にサナーに感謝の言葉を伝えようと口を開きかけた瞬間、なにやら甲高い警告のような異様な声が図書館中に響き渡り

その次の一瞬で、レッドゴブリンの小柄な体が透明な液体で満たされた水球の中に閉じ込められていた。

レッドゴブリンの真っ赤な肌は、瞬く間に土気色に変色していき、そして下をベロンと出したまま気絶……いや、水死したようだ。


そのさらに次の瞬間には、俺たちはもっと不思議な光景を目にする。

水死したゴブリンの身体が、光を放ちながら砂のように分解されていき、水球の中で消え失せていった。

その光景をサナーと二人、固まって眺めていると球はパチンッと小さな音を立てて弾け、今までそれがあった空間には静寂だけが残った。


「な、なんだったんだ?」

俺が動けないまま呟くと、サナーがポツリと

「たぶん、火災消火装置だ……」

と言った。何を言ってるんだこいつは?と思いながらその顔を見るとグシャグシャに涙をこぼしながら

「わ、私、会社で聞いたんだ……火魔法は古代図書館では絶対禁止だって前に、ここに探索に来た傭兵が、それで酷い目にあったって……」

それだけ言うと、サナーは俺に抱き着いてきて大泣きし始めた。

俺はなんかその様子にホッとする。

こいつもずっと怖かったのか……無理しやがって。

生き残ってしまった。

レッドゴブリン……怖かったな……あれが上位ゴブリンの力か……。

もうやめよう。絶対この任務から帰ったら

サナーと一緒に、この仕事辞めよう。


その場に座り込み抱き着いたサナーが泣き止むまで待っていると何となく、まっすぐ伸びた通路の先が気になって仕方ない。

呼ばれているような気すらする。

いや、きっと勘違いだ。それよりも、落ち着いたらきちんと任務を遂行しないとな、ちゃんとやることはやって辞めよう。金も貰わないとな。

いや、待てよ……どうやって帰るんだ?

入り口はひとつで、外にはまだウヨウヨとモンスターが居るぞ……。

食料は一日分あるか怪しいし……。

俺は首を横に振る。今は恐れるのはやめよう。

とにかく、やれることをやるんだ。たしか、左の列、奥の段の本の調査だよな。

もし使えそうな魔法書があれば、持ち帰るんだっけか……。

成果次第でボーナスが出るのだが、それに釣られて酷い目にあってるな俺たち……。

やっぱり仕事はあとにしよう。少し休みたい。


サナーは結局、泣きつかれて眠ってしまった。

こんなことしてやる義理はないんだが、膝枕してやると表情が気持ちよさそうになり、さらに深い眠りに入ったようだった。

しばらく動かずにそうしていると、どうしても通路の先に行きたいという気持ちが強くなってきてしまう。

いやいや余計なことはしないほうがいい。この気持ちは抑え込もう。


その後、膝が重くなってきたのでサナーを袋を枕に床に寝かせ、横に胡座を組んで座り、一時間くらい奥に行きたい欲求を堪えた時、通路の先から、靴音が響いてきて、よく見つめると人型の何かが、こちらへと向け近づいてきているのが分かる。


敵か!?

と一瞬、立ち上がりそうになると頭の中に声が響いてくる。


適格者様、我々は、あなたの言葉、しぐさなど全てを、この森に入ってきた時から観察させていただきました。


「……!?」

驚いているとさらに言葉が響いてきて


適格者様、我々は、七万年前、ボウガーを不適格者に授けてしまいました。

その時から、対となるこのリブラーを与える存在を探し続けてきました。


「ボウガー?リブラー?」

な、なんだ、とうとう頭がストレスでおかしくなってしまったのか?

戸惑っていると、いつの間にか俺のすぐ隣に立っていた、豊かな緑髪を左右に分けたメイド服の長身女性が俺に一礼してきて、まるで立ち上がれと言わんばかりに手を伸ばしてくる。

「ナラン様、わたくしがサナー様を背負います。あなた様は、ただ、わたくしについてきていただけますか?」

不思議なことに俺は目の前にいて間近で見ている女性の顔が分からない。

しかし、さっきまで悪辣なレッドゴブリンと対峙していたから分かる。

この人からは敵意や悪意は感じない。ついていっても大丈夫だ。

俺は女性の手を取って立ち上がった。

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