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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
宿主の可能性の追求と試行期間の続行

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39/81

戦闘後

今のは一体何なのか、頭の処理が追い付かない状態で立ち尽くしていると、ローブが穴だらけで顔中煤塗れのヘグムマレーが足元を魔法で凍らせながら、高速で滑ってこちらへと近づいてきて、さらにリガースと一緒に馬に乗りニヤニヤした顔のサナーも俺たちの近くまで来た。

リガースはサナーを降ろすと颯爽と森に囲まれた屋敷方向へと駆けていく。

反対方向の一つの小山を残し、ほぼ焦げた平らな荒野になった場所では人型だった可変型ゴーレムが、ガチャガチャとこちらまで響く音をさせながら元の三角錐へと形を変化させていっている。


ヘグムマレーはチラッと俺の隣で固まっているミヤを見てから俺の肩をポンッと叩くと

「ナランさん、合格じゃ。娘の婿としてこれ以上ないくらいの能力の高さ。きちんと見届けた」

「……は、はい」

何か試されていたのか?ヘグムマレーは自虐するかのように苦笑いすると

「……というのは、王族としての強がりでな。助かった。久々に死ぬかと思ったわ」

大きく息を吐いて、そして吸う。

「……なんか、よくわかんないけど、終わったんですかね?あと、あの……ヘグムマレーさん、俺、アークデーモンから説教されたけど……」

ヘグムマレーは何度か頷いて

「あちらには、あちらの事情があるという話はサナーさんから軽く聞いたわ。そのサキュバスも尋問せぬとな」

ミヤはブルっと身体を震わせて横を向いた。


平原向こうの森の中にあるボロ屋敷にヘグムマレーとサナーと共に戻ると鎧を脱いだ騎士たちが、俺たちを囲んで歓声をあげた。

負傷兵たちも上半身を起こして、拍手をしてくれている。

しばらくして、歓迎も収まったころに相変わらず鎧も兜も脱がないリガースが駆けてきて

「体力のあるもの全員で直ちに魔法による穴の埋め戻し作業を開始します!」

ヘグムマレーは頷くと

「もう戦闘はない。鎧、武器等は置いて、できるだけ身軽になり、ドワイドたち土魔法所持者を主に、即刻穴埋めを進めよ」

威厳のある口調でそう命令した。

負傷者と介抱者以外のリガース含めた全ての騎士たちが、鎧や剣や槍をその場に置き、馬に乗り屋敷の庭から、平原へと向かって一斉に出て行った。

ヘグムマレーは大きく息を吐くと

「ちょっと、我々は休憩と食事と言うことにするか」

俺とサナーは深く頷いてから気づくリースが居ない。フォッカーも……。

「あれ……」

辺りを見回していると、屋敷の方からずぶ濡れのリースとフォッカーが駆けてきた。

リースは俺に飛びついて抱きしめてきて

「良かった!ナランが遠くに行き過ぎたから、いつものが……」

フォッカーが辺りを見てから小声で

「まあ、凄かったですね。リースさんがいきなり錯乱して、屋敷の水場で"ナランを助けないと"って言いながら水浴びを始めてしまって。止めようとした俺もこんな感じです」

リースは恥ずかしそうに

「た、たまに、マイナススキルの影響で頭が濁りすぎちゃうことがあるの。でも、もう大丈夫!ナランが傍に居るから!」

フォッカーが真面目な顔で

「水場に置いていた木桶も三つくらい、恐らくマイナススキルの影響でいきなり割れました。その飛んできた木片はどうにか俺が避けさせましたからね」

マイナススキルが発動しまくっていたらしい。

そこまで距離が離れていなかったので、"混沌を包み込む聖母"のギリギリ影響範囲内かと思っていたが、考え直す必要があるかもしれない。

ヘグムマレーは申し訳なさそうに

「木桶は弁償せねばな。すまんねフォッカーさん」

「いやいや、いいんですよ。俺如きが王家に恩が売れましたから」

二人は笑い合って、それから服を変え、全員で屋敷内で食事をとることになった。


ミヤは大人しくしておくように命令して、残っていた騎士に預け、ボロボロの屋敷へと五人で入っていく。

入口にはよく日に焼けた、いかにも田舎の老人と言った古びた布の服の白髭白髪の男性が、農婦のような日焼け顔の老メイドと2人で出迎えてくれ

「ウィズ公、どうぞどうぞ」

と言って、俺たちを一階の殆ど物のない殺風景な食堂に通してくれた。

そして、そのテーブル席に座った俺たちに

新鮮な野菜だらけの料理を次々に自ら出してくれて

「リルガルムを預かっとります、タックリンと申します。皆さん、どうも、この度は我が領地から悪魔たちを追い払っていただいて。こんな早いとは思わずに、こんなものしか用意できませんが」

快活に笑う老人に、ヘグムマレーは申し訳なさそうな表情で

「いや、伯爵、すまんかった。もっと私が管轄地に興味を持っていれば、ここまで悪化させることはなかった」

タックリンと名乗った老人はニカッとまた笑って

「愚かな私ができぬことを公があっさり為してくれたのです。いずれ、この地にも人が戻ってくるでしょう」

ヘグムマレーはさらに恐縮した様子で

「ところで、伯爵、今回の討伐で特に功があった若者がおってな。彼は一般の出じゃ。訊くところによると、伯爵には子がいないのではないか?」

タックリンは驚いた顔になり

「よくご存じですなぁ。しかし貴族などと言うものはなるものじゃありませんね。常に金策と領地内のことに耳をそばだてていなければなりません。私などは、出来ずにこうして大失敗したわけですが、あっはっは!」

自虐して大笑いし出した。サナーがいきなり

「タックリン爺さん!あんた気に入った!偉そうじゃないところがいい!うちのナランを息子にしてやってくれ!」

いきなり立ち上がって言い放つ。俺が恥ずかしさで顔を抑えているとリースも立ち上がり

「伯爵、私の婚約者です。私からもお願いします」

丁寧に頭を下げた。

いや、婚約者と完璧に決まったわけでは……と俺が焦っているとタックリンは少し驚いた顔をした後

「ふむ……では、食事の後、少しナランさんとお話をしてみましょう」

と言った。


結果から言うと、その後はトントン拍子で全てが進んでいきあっさりと俺は、リルガルム家の後継ぎに収まった。

三時間くらい話して分かったが、この領主の老人は裏表のない朴訥な人で政治的なことも苦手なので、俺のような既に王族とパイプを持っている若者が家の名前を継いでくれるのは、とてもありがたいらしい。

俺は、タックリン・リルガルム伯爵の貴族とは思えない人柄が話していると好きになり、悪くない気がしてきた。

後日、領地内が安定したら養子となる式典をしてくれるそうだ。


その夜



屋敷内の応接間を借りて、ヘグムマレーの提案でお茶を飲みながら俺、サナー、リース、フォッカーでミヤの尋問について打ち合わせをしていると、今回もどこかへと消えていたローウェルが疲れた顔で戻ってきて

「あっちの領土問題は、片づけてきました。川側の豪族に多少、金を握らせたら終わりましたよ」

ヘグムマレーに報告しながら、席にドカッと腰を下ろしながら言う。

ヘグムマレーは禿げた頭の頭頂部をさすりながら

「よし、ならば、あと一か所の巡察は必要ないな。この地に滞在して、経過観察とサキュバスのミヤの尋問に時間が割ける」

ローウェルは辺りを見回して

「で、そのサキュバスはどこなんだ?」

サナーがニヤニヤしながら

「今は、この屋敷の地下室に閉じ込めてるよ。尋問は明日だ」

ローウェルは疲れた顔で頷きながら

「まあ、明日、楽しみにしてるわ。しかし、今回の巡察は成果凄いですな」

ヘグムマレーは苦笑いして

「それだけ我が家が無暗に放っておいたということじゃ。とはいえ、ミヤの捕獲はかなり大きかったのう」

ローウェルは悪い顔で

「あの……この屋敷の二階にシンカスリーさんが寝ていると小耳に挟んだんですけど」

リースが頷いて

「今は、ゴーレムの操縦で魔力が枯れてるから寝かせてあげて」

ローウェルは残念そうに無精ひげを触ると思いついた顔で

「まあ、早くも貴族になりそうな新米傭兵もいるしな!」

俺の方を見てくる。

「もう知ってたのかよ。おっさん、何なんだよ……」

ローウェルはニヤリと笑うと立ち上がり

「寝るわ。巡察が終わったら会社への追加報酬支払よろしく」

ヘグムマレーの方を向いて言うと、応接間からスルッと出て行った。


その後、すぐに解散と言うことになり、リースは寝室に先に行き、俺はサナーとミヤの様子を見に行くことにする。

地下室の扉を開けると、ミヤはベッド以外何もない石の冷たい床に大の字になって寝転んでいた。

そして、やる気なくこちらに顔を向けると

「あーもーいーわ……扱いが雑すぎてなんか死にたい。地上では捕虜の権利とかないの?」

サナーがニヤニヤしながら

「捕虜じゃなくて、奴隷だろ?しかし、悪魔ってのは普段何してるんだ?」

ミヤは寝転がったまま

「悪魔じゃなくて、ヒトね。本を読んだり、食事をしたりレジャーを楽しんだり、仕事をしたり。私は……中学までは、友達と遊んだりしてた」

サナーがミヤの近くに座り込んで

「お前さ、たぶん最近まで学生だったんだろ?」

ミヤは両目を閉じて

「……私、馬鹿だから進学できなくて、選べる職がサキュバスしかなくて、それで、国立の派遣装置に登録したら、親方に拾われて……」

「サキュバスって職なのか!?」

サナーが驚いて尋ねると、ミヤはしばらく黙ってから

「……学歴やスキルがいらない低レベル職……インキュバスもそう……まあ、極めたら上級職並みになるけど、すごいレアだね。恰好もほとんど裸だし、低レベルな人間の性的エネルギーを吸うのが仕事だし、まあ、私的にやる気は出ないよね……」

サナーは驚いた顔で俺を見てくる。いや、見られても困るが確かにこいつと話すと衝撃的な発言がポンポンと飛び出てくる。

「……とにかく、明日、正式に尋問をするから、ここで大人しくしていてくれ。確か、悪魔はトイレは要らないんだよな?」

ミヤは目を閉じたまま

「我々ヒトは、戯れで物質的な食事をしない限りは排泄物は出ない。ねぇ、何か人間どもの本見せてくれない?暇なんだけど」

サナーが頷いて黙って上階へと取りに行った。

ミヤは床に寝転がったまま、目を開けて俺を見てきて

「……とはいえ、定期的に人間のエネルギーは吸わないと衰弱するからね?契約したからにはちゃんと飼ってくださいねー魔王もどき様ー」

「わかった。ところで魔王ってなんだ?」

ミヤはガバッと起き上がると

「……恐ろしい存在。あんたもその分身みたいなもんでしょ?私とあっさり支配契約してたし、何より強い親方があんた見て舌打ちしてた。あんたって人間の姿が本体じゃないよね。頭の中に寄生生物の声とかしてない?」

「……」

た、確かに頭の中でリブラーの声はしている……。

それに確かに俺よりリブラーがもはや本体みたいなもんだが、リブラーの正体が何であろうと今更どうにもならないし、ここで明かすことは無いなと俺は黙って牢を出て扉を閉め、外から

「あとでサナーが本を持ってくる」

そう言うと、地下室から立ち去った。

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