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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
宿主の可能性の追求と試行期間の続行

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37/84

ミヤ

軽装備の俺とサナーとリースとフォッカーは

黄金の鎧を全身に着こんで馬に乗ったリガースを加えた五人編成で、中心部の魔界への穴を囲む七つのモンスター軍団の中、一番弱いであろう集団を倒すことになった。


目の前に広がる光景は確かに、弱そうだ。

地形的な利のない平原にいい加減に作られた柵の向こうには緑の肌のゴブリン達がポツポツとやる気なく武器を持って守備している。

サナーはヘグムマレーから聞いた

「この陣地を束ねているのは、サキュバスだな!男を誘惑してくる女の悪魔だ」

という情報を言いながら、男である俺とフォッカーを見てくる。

フォッカーは何とも言えない表情で

「まあ、リガースさんが今度こそは役に立ってくれるでしょう」

サナーは意地悪な顔で、明後日の方を向いて

「まあ!私は、ポンコツ騎士がおもらしするとこをもう一回見たいけどな!」

大声で言い放ち、馬上のリガースはフルフェイスで表情こそ見えないがプルプルと震えだした。

リースは苦笑しながら

「ここは遮蔽物のない平野だし、炎使いであり、騎士であるリガースの特性を最も活かせるの。今度こそ、活躍するはずよ。ね?」

優しく尋ねると、リガースは深く頷いて震えを止めていた。


作戦通りに、リガースがゴブリンたちのいい加減に作られた陣地の最もいい加減な柵を飛び越え、陣地内のグリーンゴブリンを馬上から炎の魔法を連射して縦横無尽に焼き尽くして周るのをしばらく見た後、俺たちはゆっくりと、焼き払われた陣地へと入っていく。


逃げ惑う弱いゴブリンたちを二刀流のサナーと長剣を両手持ちしたフォッカーが次々に切り捨てていき俺とリースはその背後でついていくだけだった。

リガースが暴れまわっているのを横目に、奥で目立ついい加減な造りの曲がった小屋の方へと進んでいくと

「お、お前ら!!人間如きがなんてことするんだ!く、くそ!私のチャームマインドを喰らえ!!」

というかわいらしい声がして、俺の横を半透明な赤いハートマークが逸れて飛んでいって消えた。

「はっ、はずれたああああああああ!必中なのになっ、なんでええええ!?」

という声のした、不自然に岩が積まれている方へとサナーとフォッカーが瞬く間に駆けていき

「まっ、まてっ!おい、待てって!わ、私、もう降参、降参するからぁ……やめっ」

という懇願が聞こえる。


俺とリースが岩場の方を見ていると、馬に乗った全身黄金鎧のリガースが颯爽と戻ってきて

「グリーンゴブリンのせん滅完了しました」

軽やかに馬から降りてリースに報告してくる。

「ナラン、リガースは本当は強いでしょ?」

俺が深く頷くと、リガースは馬上から敬礼して颯爽と今度は陣そのものをを焼き払いにいった。

「さすがナイトだよな」

そう答えた俺はリガースより、あっちの声が気になる。

「やめっ!あっ、縛らないで!くっ、殺せ!……だっダメ!やっ、やっぱり殺さないで!」

などとやたらと五月蠅い。

しばらく小屋の方を見ていると、その中から手足を縛られた少女……いや、真っ黒な角の生えた黒髪の少女の悪魔をフォッカーが抱えて連れてきた。

そして猿轡までされた悪魔を俺の前で降ろして座らす。

顔は、この辺りの国の顔つきではなく、まるで東方の方の人間のようだ。

恰好は、ほぼ裸で尻と胸が強調された如何にもサキュバスと言ったスタイルだ。

陰部と乳首の辺りだけ獣のような黒い毛で覆われていて尻からは漆黒の尻尾が生えている。

「サキュバスの子供ですね。生かしといてもろくな事しないので、殺します?」

フォッカーが抜き身の剣を観念して俯いている子供の悪魔に向けて言ってくる。

「んー!んんーっ!んおーっ!」

と急に必死に何かを懇願し始めたサキュバスにサナーがニヤリと笑って

「ナラン、なあ、悪魔と奴隷契約できたら、色々と楽しそうじゃないか?」

「んー!うんうんうんうん!」

必死に首を縦に振ってくるサキュバスをリースが見つめ

「……悪魔との契約は難しいのよ。人間のやり方だと無理でしょ?」

フォッカーに尋ねると、彼も頷いて

「聞いた話だと、悪魔たちは騙してきます。対等ではなく契約を結んだと思っても一方的な契約になっていることもあるそうです」

サナーは大きく舌打ちして、二本の剣を抜くと

「じゃあ、やっぱり殺すか。面白そうだったんだけどなー」

「んーっ!んんーっ!」

悪魔とはいえ、明らかに子供を殺すのも気が引けたのでこんなところで、使いたくはないけれど……と思いながら

「リブラー」

極小さな声で呟くと、頭の中でいつものリブラーの声が


”義賊の鼻” を削除して、"魔の眷属を従えし王" のスキルを追加します。

どこか身体の一部に触れれば、悪魔を従わせることができます。

周囲の地上生物たちに強烈な催淫、酩酊等を引き起こす強力なマイナススキルなので三十秒ほどで削除します。


次の瞬間には、俺の周囲のリース、サナー、フォッカーが真っ赤な顔をして倒れこんでいた。

サナーは股の辺りを触り出して

「あっ、熱い……なんで、なんで……ナラン……」

熱に浮かされたような表情と切ない眼差しで俺を見つめてくる。

リースとフォッカーは脂汗を流しながら何かを堪えた顔になっている。

リブラーが言ってきた催淫、酩酊ってこれか……急がないと……俺は焦りながら、縛られているサキュバスの額に触れようとすると必死な涙目で顔を逸らされ、右耳辺りに触れた。

その瞬間、右耳に五芒星のような深紅の痣が現れ、サキュバスが俺を真っ青な恐怖の表情で見てくる。

突然、右足を掴まれ、背後を振り向くと地を這ってきたサナーが、俺の顔を見上げ

「な、ナラン……もうダメだ……私を無茶苦茶にしてくれ……」

俺は固まったまま動けない、永遠とも思える数秒が過ぎると急にサナーが正気に戻った表情となり

「……あ、あれ……なんで私……」

すぐに恥ずかしそうに立ち上がる。

リースとフォッカーも汗をぬぐいながら

「な、なんだったんですか今のは……副長を押し倒したくなってました」

リースも顔を赤くして頷いて

「私、こんなとこなのに……全部脱いでナランに抱き着きたくなってた……」

猿轡をされ真っ青になってサキュバスの少女が必死に

「んーっ!んんっー!」

と訴えるので、サナーが

「うるさいなぁ……なんだよ」

猿轡を取ると、サキュバスの少女はかわいらしい声で

「お、おまえら!!騙されるな!こいつは魔王の分身だぞ!?私の右耳をみ、見ろ!!強制的に奴隷契約させられた!!」

サナーが舌打ちしながら

「下手なウソ吐くんじゃない。ナランとは子供のころから一緒でこいつはただの人間だよ」

サキュバスの少女は口をパクパクさせながら、何かを言おうとしてくるがどうやら恐怖で口の中が乾いてしまったらしい。

俺はしゃがみこんで

「……なあ、契約とかはできないけど、大人しくできるなら殺さないでいてやるが?」

サキュバスの少女は必死に首を縦に振る。

これでいい。間違いなくリブラーから一時的に与えられたスキルでこいつが言うように悪魔を奴隷契約したのだろうが、とりあえず誤魔化したい。表向きだけでも。

「よろしい。サナー、縄を解いてやれ」

サナーはいきなり笑い出して

「おい、ナラン、サキュバスを解き放つのか?つまらない嘘ついたし、もう殺した方がよくないか?」

サキュバスの少女は必死に枯れた声で

「だ、だめ……だ……やめて……何でも言うこと聞く……真名も教えるから」

身体をよじりながら懇願してくる。サナーが首をかしげながら

「マナ……?真名ってなんだ?」

腕を組んだリースが難しい顔で

「悪魔の真の名前ね。人間でいうと苗字の部分を表向きの呼び名にして、悪魔たちは地上で活動するんだけど、名前の部分である真名は人間に知られるとその者たちには逆らえなくなるの」

「ああ、例えば、ナラン・ベラシールのベラシールの部分が呼び名で、ナランが真名って感じだな?」

「そうそう。サナーちゃん理解が早い。まあ、両方聞いときましょうか。それでこの場にいる四人には、永久に逆らえなくなるから」

俺がサキュバスの少女を見下ろして

「じゃあ、呼び名と真名を両方教えろ」

蒼白になったサキュバスは震えながら、か細い声で

「み、ミヤモトザワ・アスカ……呼び名は短縮してミヤで真名はアスカだ……」

リースが頷いて

「悪魔たちの苗字と名前は反対よ。サナーちゃん、何か命令してみて」

サナーは少し考えてから

「そうだな。ミヤ……いやアスカ、ここで人生で一番恥ずかしかった思い出を言え。悪魔にもそういうのあるのか聞いてみたい」

「くっ……わかった……一番恥ずかしかった思い出は一年前、第四ヨネザワ中学校で……私の好きなネブラガワ君に私の数学の十七点のテストを見られた時だ……私が馬鹿だってばれたんだ……」

「……なんだそれ?チュウガッコウ?テスト?何言ってんだお前?」

ミヤと名乗ったサキュバスは顔を真っ赤にして

「くっ、くうー……ま、魔界にある悪魔の学校だ……小学校、中学校、それから、私はいけなかったけど高校、そして大学、大学院もある……わ、私は、私はでも……それから……くぅぅぅ……」

ミヤは泣き始めてしまった。俺たちは衝撃を受けている。

なんてことだ、悪魔たちにも何段階か学校があってテストも受けるのか……。

しばらく四人で固まった後、フォッカーが

「……これは、連れ帰るべきですね。ヘグムマレーさんも交え本格的に、魔界について尋問するべきかもしれません」

全員で同意したので、まだ陣内で暴れまわっているリガースを連れ戻し縛り上げたままのミヤをサナーが縄を引いて歩かせながら、壊滅したモンスターたちの拠点を後に、遠くの山上に見える、ボロボロの屋敷へと戻っていく。

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