認定証
馬車は、かなりのスピードで進んでいき、
枝道をあっさり過ぎ、元の大きな道へと戻った。
黄金の近衛騎士であるリガースが先頭を走っているので昼過ぎの大道の人波が左右に割れるように避けていき、速度を緩めずに俺たちの馬車は駆けていくことができた。
それほど時間が掛からず、道脇の田畑に囲まれている大きな集落で休憩している可変型ゴーレムと黄金の騎士の集団を発見する。
全員で集落へと入っていくとローウェルが風のように駆けてきて、馬車を降りた俺たちの余裕のある表情を確認すると
「よし、成功したな。ヘグムマレーさんに報告してくれ」
ホッとした顔で言ってくる。
ヘルメットを脱ぎ、汗を拭いている精悍な黄金の騎士たちに遠巻きで囲まれたヘグムマレーが得意げなリースに相対して
「その顔じゃと成功か。良かった。さあ、みんなの前で報告をしてくれんかね」
リースは胸を張って頷くと、堂々と周囲に
「ナランと近衛騎士リガースの作戦により盗賊を撃破しました!」
騎士たちが野太い歓声を上げて、それが止むのをリースは微笑みながら待ってから少し残念そうな表情で
「しかし首魁である、大地の子供のスキルを持つ盗賊は逃してしまいました。男爵は国に指名手配をするそうです」
ヘグムマレーは大きく頷いて
「ナランさん、そしてリガースよ。ここに」
俺とリガースを手招きした。
リガースがヘルメットを取り、真っ赤な顔を晒して跪いたので俺もその少し後ろで跪くと、ヘグムマレーは
「辺境の地の盗賊征伐に功があったと認定し
、この二名を、王国特別警護員に任命する」
何か聞きなれない単語が出てきたが、よくわからないのでリガースと共に頭を深く下げているとヘグムマレーが更に
「これが、私の手製の認定証じゃ。これがあれば二人は関所を全て通行できる。同行者も通行し易くなるじゃろう」
"この者、ヘグムマレー・ウィズの使者である。何者も遮るなかれ”
そう達筆の字が掘られた、鈍く青に光る薄い鉄製の札を渡してきた。
ありがたく両手で受け取るとヘグムマレーは周囲の騎士たちを見回し
「よし、授賞式終了じゃ。騎士隊は続けて休憩をするように。ナランさん、リース、それからリガースも来なさい」
真面目な顔で言ってきた。
集落外れの布シートが敷かれた木陰近くに、ヘグムマレーに呼ばれた俺たち三名とリガース、そして後から来たローウェルが、ヘグムマレーから
「座ってくれ」
と言われる。その場で跪いたリガース以外の四名がシートに座るとヘグムマレーは軽くため息を吐き
「リガース、何をやった?」
鋭い目つきで、顔を真っ赤にして固まっているリガースに問う。
どうやら見ただけで分かったらしい。
ということは以前に同じ様な事があったんだろうか……。
リガースは、深く頭を下げ
「……盗賊たちに捕まり、ナランさんたちに助けてもらいました」
正直にヘグムマレーに報告した。
彼は軽く息を吐いて
「お前の愛馬に傷があった。それに鎧も埃塗れじゃ。お前のような近衛が、乱戦になることは滅多にない。なので、失態を犯したとすぐにわかった」
あのスライム大好きじいさんはどこに行ったの!?と言うような、凄まじい切れ者の雰囲気が滲み出ているヘグムマレーは、小刻みに震え出したリガースを見つめる。
リースが少し慌てて
「でもリガースも臆せず、戦ってくれたけど!?」
取り繕うが、嬉しそうにサナーが、ヘグムマレーの横にスライディングで華麗に滑り込み、耳元でボソボソと呟くと、ヘグムマレーは怒りで禿げた頭まで真っ赤にして、しばらく下を向き
「リガース、もっと近くに来なさい」
リガースが恐る恐る近づいてくると、ヘグムマレーは深呼吸して顔色を戻し
「私は、お前のことをうちの職員の中でも大切に思っている。若くしてとても努力して、失敗しても取り返そうとする姿勢がよく見えるからじゃ。なので、お前を辱めた盗賊たちが憎い。憎くて堪らない」
反応が予想と違ったのか、サナーが「は?責めないの?重罰は?」と言った表情をしたので俺とリースが同時にサナーの腕を引っ張って後ろに下がらせ、ローウェルがたまらずに口を抑えて必死に笑いを堪える。
ヘグムマレーは苦渋の表情で
「どうか、自分の身を大事にしておくれ。何度失敗してもいいが、怪我には気を付けるのじゃ」
リガースは感動した面持ちで涙を流し
「はい……職務を全ういたします」
と小さな声で返して、俺とリースが良かったと目を合わせながら思っているとサナーが立ち上がり
「ちょっと待てって!!じいさん、わかってんの!?この騎士もどきポンコツ上級国民が失敗したから、私たち大変だったんだけどな!」
ビシッとヘグムマレーの禿げ頭を指さして大声を出したので慌てて俺とリースで二人がかりで取り押さえるとヘグムマレーは頭をペシペシと触りながら
「ふむ……確かにそうじゃな。ではペナルティを与えよう」
サナーがワクワクした顔で何度も頷く、ヘグムマレーは、先ほどリガースに渡した鉄札を返させ、そして、サナーに手渡した。
「え……?貰って良いの?私奴隷だけど?このままだと王族公認奴隷になってしまうが!?」
憤っていたサナーはいきなり頬を赤らめて嬉しそうになる。
「うむ。騎士たちにもリガースが自ら返還したと伝えておく。サナーさんは、ナランさんを支えてやっておくれ。立場上、大事な君を表に立たせられなくてすまない」
「もちろん支える!王族公認奴隷の私に任せろ!」
俺に飛びついてグリグリと頬と頬を押し付けてくる。うざい。
リガースが安堵の表情になり、ローウェルはたまらずに、向こうへと駆けて行って大爆笑しはじめた。
俺たちを送ってきてくれた馬車と御者は男爵の元へ帰って貰い、夕暮れ前には俺たちはローウェルの荷馬車に乗り、また間抜けな行進の一員になっていた。
しかも酷いことに、可変型ゴーレムが三角錐の頂点から四方を照らす発光をし始めて、昼間より余計目立つ感じだ。
サナーが笑いを堪えながら
「おっさん、あ、あれ……何……あれ……」
御者をしているローウェルに三角錐の頂点を見ながら尋ねると彼は振り向かずに煙草を蒸しながら
「警戒ランプだな。そろそろ暗くなるから早めに点けてるんだろ」
サナーは口を抑えて笑いを堪えフォッカーは俺から、先ほどの木陰での顛末を聞いて
「……やはり、先王の御兄弟は有能とのお噂は本当でしたか。見事な采配だと思います」
「まあ、ヘグムマレーさんは優しいよ。あれだけの気使いをできる人なら、王宮捨てて研究に行っちゃうのも分かる気が」
俺がそう言うと、ローウェルが振り向かず
「大人ってのは複雑なんだよ。そんな一面的な見方で王族たちを分かった気になるんじゃねえぞ」
釘を刺してくる。サナーが微妙な顔で
「あのじいさんは友達だろ!?知ってるとこだけでいいんだよ!おっさんこそ、分かった気になってんじゃねえぞ」
と言い返して、ローウェルは笑い出し
「はははは。まあ、そうだな。人は単純なとこと複雑なとこがあるからな。ただ、気をつけろよ。権力ってのはバケモンだからな。ヘグムマレーさんは吞まれないように上手く距離をとってるよ」
「いつか私が王族になってバカな大人を一掃してやる!」
フォッカーが慌てて
「副長、これ、王族の巡察ですよ?声大きいですって」
こちらを見てくるが、俺は昼に一仕事してきたので、もうサナーに構う元気がない。
荷車の隅にうずくまり、ひと眠りすることにする。
……
「おい、ナランついたぞ!お前と私のクソ地元にご到着だ!」
サナーからたたき起こされて目覚めた。
辺りは真っ黒で、灯火が荷車を照らしている。
カンテラを持ったフォッカーが苦笑いして
「予想以上ですね。完全にナランさんとサナーさんは無視でした。誰も迎えにも来ません」
「おっさんとかヘグムマレーさんは?リースは?」
サナーが皮肉に満ちた口調で
「ゾロゾロとメイドや奴隷たちを引き連れて、わざわざ兄弟二人ともで出迎えに来て、屋敷まで連れて行ったよ。お前のクソ兄貴たちは、そろそろ貴族になりたいもんなー?」
「ティーン兄も、まさかルカ兄も居たのか?」
フォッカーが苦笑いで
「体格の良い次男さんは、汗だくでした。必死で都から戻ってきたのでしょうね」
俺は大きくため息を吐いて起き上がる。
出来の良い兄貴たちが揃っているのか。
仕方ねぇな。とりあえず実家に行くか。




