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作戦と結果

作戦が決まった俺たちは、三時間くらいかけて準備をして、最初の入り口前の開けた場所近くの林へと戻りそして、ガサリと大きな音を立て、わざと目立つようにモンスター群の中へと出た。


一斉に悍ましいモンスターたちの視線を浴び、心臓が止まりそうになるが、俺の裸の上半身をペタリとサナーの手が触って、少し落ち着く。

ゆっくりと、グリーンゴブリンの一体が近づいてきて

「ゴブ……ゴブ?」

俺とサナーの顔や体を見回し、首をかしげる。

身体が動かない俺の代わりにサナーが

「ゴブ、ゴブブ、ブーッ」

と黒色に塗りたくられた皮鎧のお腹部分を触りながら、低い声で目の前のグリーンゴブリンに話すとグリーンゴブリンは驚いた顔になり

「ごっ、ゴブ!ゴブーッ!」

裏返った甲高い声で、入り口近くで座っているレッドゴブリンの方へと駆けていく。

辺りのゴブリンも一斉に緊張した面持ちになり、ヒソヒソと

「ゴブ……ゴブゴブ……」

とささやき合っている。


どうやら、最初の一歩は上手くいったようだ。

俺たちは森の中に生えている黒色草の葉を全身に黒で塗りたくっている。

さらにゴブリンたちの体臭によく似た腐食豆のナトウーも潰して、頭から身体から、皮鎧に剣までそちらも塗りたくった。

ゴブリンたちは実は目が特殊で大まかな色と臭いで同種族だと見分けているらしい。これは俺のアイデアだ。

普段から家にある新聞や書物を暇だから読んでいたので覚えていた。

ちなみにさっきからオークがこちらをジッと見ていたが無視していると、そのうちまた、動物のはらわたを食べ始めた。

オークはモンスターの中でも特に頭がよくないので周りのゴブリンたちの動きに流されているようだ。


サナーは少しニヤリとして小声で

「ブラックゴブリン二体が腹が減ったと言って、いきなり現れたらビビるよね」

ブラックゴブリンはゴブリン族の長老クラスの上級モンスターだ。

「……いつの間に、ゴブリン語を覚えたんだ?」

サナーは少し自慢げに

「ボニアスさんに脇と下乳見せたらただで教えてくれた。追加授業で半ケツとかも」

「……あんのっ、色ボケジジイが……」

地元の有名物知り性犯罪者を生き残ったらシメにいこうと思っていると先ほどのグリーンゴブリンが慌てた顔で駆けてきて

「ゴブブブ、ブーッゴブ……?」

上目遣いにサナーに尋ねてきた。サナーは仕方なさそうに軽く舌打ちして

「ゴブ……ゴゴゴブブ……ゴブーッ」

顎をあげて、古代神殿の入り口を指しながら

低く威厳のある響きを出して答えると恐縮しだしたグリーンゴブリンから古代図書館入り口前まで連れられて行く。


レッドゴブリンは入り口へと伸びている朽ちた石階段に座ったまま少し不貞腐れた顔で

「ゴブ……」

とだけ言って黙り込んだ。

グリーンゴブリンは慌てた顔で仲間たちのところへと離れていった。

サナーは何も言わずにその横を素通りしたので俺も黙って行こうとすると

「……待て……動悸が早いな?貴様ら、我が種族か?」

いきなりレッドゴブリンが悍ましい声色で、人の言葉を喋ってきた。

俺が驚いて固まった次の瞬間には、サナーが冷たい目でレッドゴブリンを見下げ

「……ゴブ?ゴブブ……このものは病だ。人の言葉を使うとは、死にたいのか?」

聞いたことのないような冷え切った声色で言い放った。レッドゴブリンは舌打ちをして横を向き、黙り込んだ。


もはや緊張で死にそうな俺と、平然とした顔をしているサナーは古代図書館、入り口の前までたどり着いた。

縦横三メートルはありそうな

石造り重厚な扉は左右からピッタりとくっついたまま閉まっている。

ここまでくれば、あとは簡単だ。

会社からもらった、切れないし燃えない、濡れもしない謎の物質でできた古代のカードキーを俺は鎧の中から取り出して入口へとかざした。

ゴゴゴゴゴゴ……と重厚な音を響かせながらゆっくりと左右に扉は開いていく。


真っ黒な古代図書館の中を見て、少し感動する。

まさか、この無能な俺がここまでたどり着いてしまった。

そして、サナーと共に中へ入っていこうとした瞬間だった。

「ゴブ、ゴブブブ……やはり、貴様ら、人間だな?さきほどの破片を取り出した瞬間、服の中から人の旨そうな匂いがしたわ!!」

俺が振り向くより早く、サナーが俺の手を取って、暗闇の中へと走りこんでいた。

同時に扉が左右から閉まり出し、一気に内部に明かりがついた。

そこには、無限に思えるほどの本棚が広い通路の左右に並んでいた。

天井からは見たこともないような明るい光が射し傷一つない遺跡内を照らし出している。しかし、感動している暇はない。

滑り込むようにレッドゴブリンが内部に入ってきてしまった。

俺がサナーの手を引いて、走り出し始めた。

サナーは急に笑い出して

「あー楽しいな。なんて楽しいんだろ!」

何が楽しいんだよ!レベル2とか3の俺たちが推定レベル30以上のレッドゴブリンに追いかけられてるんだぞ!

こんな危険な作戦を立てた俺達の自業自得だとしても泣きたいわ!


高レベルモンスターから追われ、あまりに焦ったからかもしれないが強い動物から逃げる時、直線で走るのはよくないのという情報を閃いて、ジグザグで逃走してみようと思い立ったのが運の尽きだった。

相手は動物ではなく、知能と身体能力が高いレッドゴブリンである。

裏目に出て、あっさり追いつかれてしまった。

今まで、俺の人生で一番と言うくらい、上手く行っていたのにいつものバカな俺がこんなところで、出てしまった……。

さらに前に回り込まれ、レッドゴブリンは顔を嬉し気にゆがめた残虐な表情で右手の伸びた人差し指に火を灯して言ってくる。

「ゴブブ……何が見たいかなぁ……泣きわめく人間の臓物を引きずり出してそのまま裸で踊らせるのは楽しかったぞ……ゴブブ……」

俺サナーの前に立って、壁になろうとすると

あっさりとサナーが脇を抜けて前に出て、静かに剣を抜く。

「ナランは殺させない。殺したいなら私を殺してからだ!」

絶叫したサナーの腕を俺は引っ張って

「いや、ダメだ!お前が生き延びろ!お前のが俺よりマシだ!」

「ダメだ!私が死ぬ!ナランは絶対生きないと!」

二人でにらみ合っていると、レッドゴブリンがこちらへと伸ばした両手を開いて

「コブブブ……決めた。二人並べて丸焼きにして、じっくり食うことにしよう……」

そう言った瞬間に、ゴブリンの両手から燃え盛る火炎が俺たち二人に放たれた。

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