陣地
嫌々荷馬車に揺られていると、広大な陣地が見えてきた。
丘陵の地形を利用するように柵が伸びている
その中に無数のテントの並んでいる。
荷馬車が陣地内へ入ると
「降りろ。さっさと、お前の部隊に挨拶してこい」
ローウェルから逃げようとしているのを見透かされているように促される。
黙って俺が降りると、サナーとリースもついてくる。ポトスンは荷車の上から
「東の方の黄色いテントがナラン君の隊だにゃ。じゃ、夕方までに親交を深めるように」
と言って、荷馬車ごと陣地奥へと去っていった。
「一応、隊の人の顔だけでも見とくか」
「とんでもないクソ軍人たちだったらどうすんだ?」
サナーが屈託なく尋ねてきて、リースも不安げに
「戦場に来るのが初めての私たちに従ってくれるのかな」
閃いた表情になったサナーが
「私が副指揮官でしょ?」
リースも負けじと
「私だと思うけど?」
「まあまあ……どりあえずテント探さないと……」
誤魔化しながら二人を諫めるしかない。
テント群を十分も東へと歩くと、ようやくまっ黄色の派手なものが見えてきた。
「何万人居るんだよここ……」
サナーがポツリと漏らす。
確かにテントも旗も多い、しかし人けは殆どない。なんとなく違和感を感じながら
「こんにちはー」
と間抜けな挨拶をしてテントの入口を開く。
中には同じ皮鎧を着た戦士たちが座って五名待っていた。
短髪の微笑む巨漢が最初に目に留まる。
次に目についたのは、長い黒髪の細身の眼つきの鋭い女性戦士、そして、少しイラついた顔の髪の毛が逆立った男性戦士と……なんで、陣地に居るの?といった感じの細かく震えるショートカットでボロボロのローブ姿の小柄な女性、そして奥に座っていた、糸目の茶色い前髪がアシンメトリーの男性が
「あ、隊長さんですね。よろしくお願いします」
人懐っこそうな笑顔で声をかけてくる。他の四人もそれぞれに挨拶をしてきたので
「えっと……ナラン・ベラシールと言います。ポトスン総司令から、この隊の隊長を請け負いました」
一応、肩の力を抜いて挨拶してみる。横からグイッとサナーが出てきて
「サナーだ!副官だ!みんなビシバシ行くぞ!」
勝手に副官を名乗り、さらにリースも
「リースです。副官です。みんなナランさんの言うことを聞くように」
糸目の男が不思議そうに
「あの、指揮官職の隊長さんと補充の一般傭兵二名っていう話でしたけど……」
サナーが顔を真っ赤にして
「違う!副官だ。いいな!?」
「えぇ……?」
俺がサナーを後ろへと引っ張って下げて
「とりあえず、皆さんの自己紹介どうぞ……」
五名の名前を聞くことにする。
糸目の男が手を挙げて
「あ、俺、フォッカー・マンスっていいます。職業は、戦士レベル20で、一応、この隊の特攻要員ですね。スキルはレアスキルの"攻防のコツレベル5"を習得しています」
俺が頷くと、イラついた顔の逆毛の男が
「ゴッツ・ガーバンドだ。バーサーカーレベル17。"一気呵成""ノーガード"が習得スキルだ」
黒髪の女性戦士が
「コザー・ガーネルだ。戦士レベル18。特殊スキルは"刀の扱いレベル6"くらいだ」
微笑む巨漢が、ニヤニヤしながら
「僕、デイ・ルーバス。ディフェンダーレベル7"体力二倍"とかだったけ?そういうスキルを持ってる」
最後に、震える女性に目を向けると、サッと顔を横に逸らされた。
フォッカーが仕方なさそうに
「ナーベス・ルネーさんです。ウィザードレベル3ですね。先週まで別部隊の隊長でしたが、相手方の使役するインキュバスに捕まり、レベルを四十ほど吸われてしまい、一般兵に降格してここに居ます。ファイアボールくらいは撃てると思います」
サナーが目を丸くして、リースが険しい顔になり
「あの……インキュバスが居るんですか?」
フォッカーが首を横に振って
「はい。なので女性傭兵の主力が先週から出られなくて困っている状況です。幸いといって良いのかわからないですけど被害者はまだ、この元隊長さんだけなので……」
サナーが少し得意げに俺に
「インキュバスっていうのは、中レベルの悪魔族の一種で女性の精力……つまりレベル、体力、魔力を吸い取るイケメンのモンスターだ。吸い取られるとすげー気持ちいいんだって。な?」
そう言うと、震える女性に声をかけて、顔を伏せられる。
「やめろって……とにかく、隊の構成は分かりました。総司令によると、夕方に声をかけるようなのでそれまで、休憩でお願いします」
皆、安心したような顔をして頷いた。
親交を深めろとか言われたが、そんな気持ちにはなれない。
それに一応、隊の状況は分かったが、正直、これ、人死にでるんじゃないか?
高レベルの傭兵は見当たらないどころかレベルドレインくらった低レベルウィザードまで押し付けられている。
俺は少しテントから離れて
「リブラー」
と唱えた。すぐにいつもの声が
レベルドレインされたナーベスは、更にサーガ軍部隊に先日の戦場で家宝の魔法の杖を取られ、それと交換で裏切るように脅されています。
なので夜襲をした場合、こちらへの甚大な被害が出るでしょう。
彼女を使った作戦を提案します。
現在、指定魔力吸収源の元村長との距離が遠く、魔力が吸収できないので自動でナーベスからナランさんが魔力を吸収するようにスキル構成を切り替えます。
そして……。
とんでもない内幕とさらにろくでもない作戦を立案してきた。
しばらく悩むが、もしサナーたちと逃げると
夜襲により今の五人は全員死ぬとリブラーが断言してきたのでリブラーの助言を聞き終わった後に一時間くらい迷った末、逃げずに隊長役をやることにする。




