生体反応が異常なその偽装
アン王女は倒れたまま泥の山と成り果て、檻車は泥まみれだが、馬とローウェルは綺麗ーなまま街を抜けると
「うんこ爆弾くらえー!」
「きったねえ!エンガチョー!」
などと嬉しそうに叫びながら追ってくる子供達をあっさり振り切って、森の中の小川近くへと辿り着いた。ローウェルは黙って御者席から降りると、川の横に立ち、両手で印を結びながら
「忍術、水遁・弱!」
軽く唱えた。
宙を伝った川水がローウェルの手元へと収束していくと、勢い良く檻車の中のアン王女へと噴射されていき、泥が洗い落とされていく。ローウェルは動かずに水を噴射したまま
「……偽スキルじゃなきゃ……そもそも泥があんなに当たんねえんだよなあ……」
めんどくさそうに愚痴り出した。
「でも国から請けた仕事だしなあ……ああ、だりいな。後輩育成と一緒じゃなきゃ、やってらんねえぜ……」
そう言いながら、遠くを見る。
ローウェルが見た方向から、同じような黒装束黒頭巾黒マスクの……どう見てもサナーが走って来た。ローウェルの横に行くと
「指令書読んだ!つまり偽スキルって噂の詐欺王女が、極まったド変態の国にドMプレイしながら向かうんだろ!やべー!」
嬉しそうに暴言を吐きながら、ローウェルの真似をして印を組むが、当然ニンジャではないので、水は出ない。ローウェルは真面目に
「サナーちゃん、この仕事は基本無言だ。王女が寝てるか、気絶している時は喋ってもいい」
「分かった!私は助手として横に座ってれば良いんだな?」
「そうだな。あとモンスターに襲われたときは頼む。俺が対処すると虐殺になる。殺すんじゃないぞ?これは聖者の護送だからな」
「任せとけ!他人事だとちょー楽しいな!海の向こうの教国への大冒険の始まりだ!」
サナーは腕を振り上げジャンプした。元気そうで何よりだ。
泥が綺麗に檻車と気絶したままの王女から落ちると、檻車が濡れたまま、ローウェルは出発させる。森を抜け、爽やかな風が吹く平原を通り抜けていく。アン王女は倒れたままだ。近づくと呼吸はしている。俺は少し疲れてきたので
「現実の方の横にサナー居るから、そろそろ良いかな?」
あいつも幸運の使者持ちで、女神の加護スキルもあるので、アン王女のサポートはできるはずだ。モノラースとノヴェナは頷いて
「何かあったら呼ぶ」
「ずっとは見て居られないからねえ」
そう返して来た直後、辺りの景色は薄れていった。
……
気付くとソファの上だった。横には読みかけの本もある。食卓へいき、作り置きのサンドイッチなどをモソモソと食べ食器を片付け、立ち上がりトイレへ行き、出ると、食卓にメイド服姿のシーネが座っていた。黒いピンクのリボンで結んだポニーテールになっている。
とりあえずテーブル越しに座り
「どうしたんですか?」
「ふふぅー……どうでしょうかあ」
横を向いてポニーテールを見せてくる。髪型と少し明るいチークも含めて
「……良いことありました?」
シーネは顎を上げて嬉しそうに笑うと、俺を見つめ
「暗黒地帯の西部地方へと派遣が決まりましたあ」
「……そうなんですか」
大変だと思うが……。シーネは八重歯を見せて笑うと、いきなり真顔になり
「任務のためリブラーへの接続を求めます」
「……どういうことですか?」
シーネは真顔のまま
「暗黒地帯東部地域の亜空間層を、リブラーがナランさんの一部にしたのは知っていますよー?」
「……そうだったですか?」
相変わらずよくわかっていない俺の口が勝手に動き
「生体反応が異常なその偽装を解いて頂ければ、我々はあなたを歓迎します」
シーネはニコッと笑うと
「少しだけお見せしますねえ」
そう言いながら、右手を俺に伸ばしてきた。握れってことかな。俺も右手を伸ばすとガッと掴まれて、同時に目の前が真っ黒になる。
……
実家の敷地内の門前に倒れていた。門内は真昼で門外は真夜中なので、恐らくはまた精神内のようだ。そして俺のその横には、漆黒の瘴気が赤黒い胸や股の辺りに渦巻く……折りたたまれた赤黒い翼が背中から伸びている女性の……2本の折れ曲がった角が伸びた銀髪の悪魔が……シーネそっくりの顔で八重歯を見せて笑いながら、右手を伸ばして来た。
少し戸惑ったが手を握ると引っ張って起こされ
「ふふーっ……悪くない創りですねえ」
女悪魔は辺りを見回す。
「あの……シーネさん、ですよね?ヒトだったんですか?」
多分ヒトのはずだが、アンジェラ達、今まで会って来た本物のヒトと明らかに雰囲気が違う。悪魔に向けて変な話だが一切感情の温かみも冷たさも感じられない。生き物というより銅像や石像に近い印象だ。女悪魔は八重歯を見せて笑いながら
「どうですかねえー」
などと言って、俺の手を握ったまま、門へと近づき開けようとして背後を振り返る。そこには顔がぼやけた緑髪の女性が立っていた。
「……申し訳ないですが、まずは、アン王女のテストにご協力ください」
女悪魔は笑いながら
「仕方ありませんねえ」
俺の手を引いて、女性と共に屋敷の方へと向かって行く。どうやら俺から手を離す気は一切ないようだ。




